「日本三古湯」の一つともいわれる道後温泉(松山市)が、アートなまちとして生まれ変わった。国の重要文化財、道後温泉本館を核とする同市の取り組み「道後温泉まちづくりアート事業」が、総務省の令和2年度「ふるさとまちづくり大賞」で総務大臣表彰を受けた。平成25年から継続し、アートと地域の融合で新たなにぎわいを創出した「参加型アート」が評価された。
旅行ランキング1位も
道後温泉本館は平成31年1月から大規模な保存修理工事が行われており、令和6年12月まで続く。工事の影響による客足の鈍化を食い止めようと、市と道後地区の旅館組合、商店街組合が「本館に頼らない場所、魅力をつくろう」と25年から始めたのが「道後温泉まちづくりアート事業」だった。
26年、「道後オンセナート2014」としてアーティストを募集し、道後地区に初めてアート作品を展示した。9つのホテルで部屋を丸ごと芸術にしたり、オブジェを置いたりした結果、女性観光客が急増した。その後、「蜷川実花×道後温泉 道後アート2015」「街歩き旅ノ介 道後温泉の巻 山口晃 道後アート2016」「道後オンセナート2018」とイベントは継続。楽天トラベルの
「おんな一人旅に人気の温泉地ランキング」で5年連続1位となるなど人気が定着した。
ひみつジャナイ基地
こうした中、今年2月までは「日比野克彦×道後温泉 道後アート2019・2020」を開催。道後温泉本館近くにあり、一遍上人の誕生地とされる宝厳寺の正面に「ひみつジャナイ基地」を開設。アート体験をすることができるほか、ギャラリーやワークショップなどに活用できるスペースとして無料で貸し出しもしている。
同市道後温泉事務所の活性化担当、越智文子さんによると、施設の名前は「秘密を絵画や折り紙で表現することで、秘密でなくする。みんなが理解しあい多様性を認め合う」という意味が込められているという。昨年8月8日~9月7日には「アマビエ展」が開かれ、17組のアーティストが絵画や立体の作品を発表。日比野克彦・東京芸術大学美術学部長によるトークイベントやワークショップを開いたこともある。
道後地区内ではほかに、ホテルや店舗が協力し、6カ所に8つのアート作品を展示。酒店「山澤商店」のガレージでは、障害のある人の作品群を展示する「ストックギャラリー」を展開しており、同店に止めてあるトラックまでカラフルに彩られて“アート”している。
ふるさとまちづくり大賞を受けたことについて、越智さんは「当初はアートで観光振興ができるのかと懐疑的な意見もあったが、鑑賞型から参加型へと進化したことが評価されたのではないか」と話す。
「今は力を蓄える時期」
一方、本館の保存修理工事は今年7月から後期に入る。新型コロナウイルス禍もあって、かつて72万人を超えていた入浴客数は昨年約23万9千人にまで減少した。こうした中、市は新たに道後温泉の魅力を紹介する動画「道後 刻めぐり」を、道後温泉公式サイトで公開。本館と別館・飛鳥乃湯泉(あすかのゆ)▽椿の湯▽第4分湯場▽空の散歩道▽坊っちゃんカラクリ時計▽道後公園-への行き方を直感的に紹介。施設の内部も見ることができる。
道後温泉事務所の担当執行リーダー、白川剛士さんは「今は力を蓄え、多くの人に道後を知ってもらうこと、覚えておいてもらうことが大切」と力を込めていた。
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