平成17年に放送が開始された北朝鮮向けラジオ放送「しおかぜ」について、運営する特定失踪者問題調査会がこのほど、放送内容を改編した。しおかぜは、北朝鮮からの妨害電波対策として定期的に周波数を切り替えているが、今年1月に初めて、切り替え翌日に妨害電波が届いたことを受け、「北は、外部からの情報注入を極端に嫌っている状況にある」(同会)と判断。北朝鮮情勢に関連するニュースの放送時間を増やすなどして、ゆさぶりを強めている。(拉致問題取材班)
切り替え翌日に妨害
同会は、妨害電波対策として一昨年から、5つの周波数のうち2つをランダムに組み合わせて一斉放送を行う多チャンネル化を開始。周波数の解析などで北朝鮮側も一定程度の時間を要するようになったとみられ、妨害電波が届くのは、早くても切り替えの2~3日後だった。
だが今年1月下旬、周波数を切り替えた翌日に妨害電波が確認された。同会の村尾建兒(たつる)幹事長は「これまでで最速だ。北朝鮮内部で何らかの変化があって情報流入に神経質になり、相当なスピードで対応を迫られている可能性がある」とみる。
こうした状況から、同会は1月29日の幹事会で、しおかぜの放送内容の変更を決定。2月初旬から、新編成で放送を始めている。
1日2回(午後10~11時、翌日午前1~2時)の放送のうち、現地での理解促進のため朝鮮語訳の放送回を増やしたほか、核兵器やミサイル開発、食糧事情、新型コロナウイルス対応など、北朝鮮の動静を伝える日本国内や国際社会発のニュースの放送時間を長く確保。脱北者へのインタビューなど新コンテンツも設けたほか、広く現地の情報を募るため、北朝鮮人民らに向けて同会への情報提供の呼びかけも始めた。
新編成での放送開始後、3月下旬に周波数を切り替えたが、このときは約3日後に妨害電波が届いたという。同会は今後も北朝鮮側の反応をはかりながら、放送内容の精査などを続けていく方針だ。
ユーチューブで発信
新型コロナの感染拡大の影響もあり、拉致問題に関する国会での議論や関係者らによる救出運動は停滞している。昨年、横田めぐみさん(56)=拉致当時(13)=の父、滋さんが87歳で亡くなるなど、親世代の被害者家族に残された時間はわずかだが、膠着(こうちゃく)の度合いはさらに深まっている。
「拉致問題に『現状維持』はなく、家族の高齢化や死去など、時間とともに状況は悪化していく一方だ」。こう指摘する同会の荒木和博代表は、昨年から北朝鮮にまつわる時事的な問題などについて見解を動画にまとめ、動画投稿サイト「ユーチューブ」で公開している。
参加者を絞ったうえで日本各地の拉致現場周辺に出向き、様子を生配信する取り組みも行っており、チャンネル登録者数は1万人に迫っている。荒木代表は、「新型コロナ禍で動きづらさはあるが、今できることを最大限やっていく。民間からでも、何とか解決に向けた動きを作り出したい」と話した。
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