書店員が売りたい本を投票で選ぶ「本屋大賞」の候補10作が1月に発表された。本欄では毎年、候補が10作もあって懐事情が気になる人々のために、自作AI(人工知能)を使って大賞作を予想してきた。2年前はハズレ、昨年は的中。作品の内容を加味しない“いい加減な”AIの真価が問われる3年目。大賞予想の1番手は、昨年『流浪の月』(東京創元社)で大賞を受賞した凪良(なぎら)ゆうさんの『滅びの前のシャングリラ』(中央公論新社)だ。 (渡部圭介)
連続受賞なるか
繰り返すが、作品の中身は加味しておらず、プロフィル、出版社などを学習させただけ。予想は女性作家に優位に振れたが、昨年まで大賞は6年連続で女性だったからだろう。
そして、昨年大賞を受賞したことで凪良さんの予想を押し上げたみたい。といって『滅びの前の-』を読んでみると、AIの予想は的外れではない気がする。
同作は、小惑星が地球に衝突する「人類滅亡」が1カ月後に迫る中、いじめを受けたり、罪を背負わされたりした4人を軸に、最後の日々を描く。帯には「幸せについて問う」とあったけれど、そういう重々しさ、仰々しさはない。
物語が進むにつれ「滅亡」の日が近付いていくわけだが、世界観は温かさを増していき、ユーモラスな雰囲気さえある。
そして、心から守りたいものに気付いた人々の姿は胸を打つ。中でも恋人から逃げた過去がある静香さんの存在感が光る。「殺されるくらいなら、殺してでも生き延びろ」と言って息子に刃物を持たせる女性だが、その行動力はほれる。
文体がいい意味で軽く、読みやすいのは近年の大賞作に通じ、2年連続で凪良さんの受賞もありうるとみた。物語に隠れた逸話を描くスピンオフ短編「イスパハン」付きの本が売り切れないうちに、書店へどうぞ。
ポカポカ&ジワジワ
AIが予想の2番手に挙げた伊吹有喜さんの『犬がいた季節』(双葉社)も読みやすい。2年前の大賞作で瀬尾まいこさんの『そして、バトンは渡された』(文芸春秋)に近い読後感。ポカポカでありながらジワジワ来る。個人的にはこちらを本命視する。
捨て犬・コーシローを飼うことになった三重県の高校を舞台にした、生徒たちの群像劇。昭和、平成、令和と、各話ごとに描かれる世代が異なり、当時のブームや世相を反映した描写は中高年を物語に引き込む。
私の場合、平成3年に鈴鹿サーキットで行われた「日本グランプリ」を描く第2話「セナと走った日」を読んでいるとき、脳内にフジテレビ系「F1グランプリ」のテーマ曲「TRUTH」が流れ、ホンダの創業者・本田宗一郎の笑顔が浮かんだ。F1ファンの脳裏に刻まれた伝説のレースをめぐる、男子高校生の友情の物語なのだけれど。
世代が異なる各話の登場人物たちは最終話で邂逅(かいこう)を果たすが、想像以上の結末だった。実は人間の言葉を理解できているコーシローの視点はもちろん、脇役の美術部顧問・五十嵐先生の存在がここで生きるか、という感じ。涙腺が崩壊した。
あ、読んだ後に本のカバーを外し忘れないでください。物語にちなんだおまけが付いてます。
男性作家は
女性作家に優位に振れているAI予想。男性作家では『逆ソクラテス』(集英社)の伊坂幸太郎さんが最上位で、予想6番手に挙げている。
ファンだという同僚から聞かれたので書くが、アイドルグループ「NEWS」のメンバーで、加藤シゲアキさんの『オルタネート』(新潮社)は予想の10番手。直木賞候補作に手厳しいAIだが、作品の中身は加味していない。ファンの皆さん、怒らないで。
こちらも高校生たちの群像劇で、架空のSNS「オルタネート」の設定はよく練られた本当にありそうなものだし、料理の全国大会の描写も、先の展開に期待をふくらませる。ただ、直木賞選考委員から指摘が出たという「冗長さ」は、何となく分かる。
そして、境遇や性格がバラエティーに富む高校生たちに感情移入しにくいと感じたのは、F1全盛期を知るおじさんだからか。読み手の年齢によって評価は分かれる気がする。
今年の本屋大賞は4月14日に発表される。
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