駐車場の車は数時間で雪の塊に変わり、自宅から外に出るのも一苦労-。1月上旬、記録的な大雪に見舞われた福井県。北陸自動車道での立ち往生などが全国的なニュースになったが、学校が休校するなど住民らの生活にもかなりの支障が出た。福井市を拠点に取材をしている私(記者)は雪が降ること自体珍しかった千葉県出身。慣れない雪かきは重労働で、車のタイヤが雪にはまる「スタック」も経験した。今回の大雪はまさに「災害」だと実感した。
掘っても掘っても
7日から雪が降り始めた福井市内。この日はまだ降り方が弱く、仕事や生活への影響もなかった。だが、8日になって雪は本格化。弱まる気配はなく、車を動かすのも難しくなり、後々の危険性を考えて、夕方早めに在宅ワークへと切り替えた。
そして9日。昼過ぎに自宅マンションの駐車場を確認すると、車は雪に埋もれ、塊となっていた。一歩踏み出すと、足はひざ下まで埋まる。マンションの出入り口から駐車場までのわずか十数メートルを歩くことさえ、難しい。
駐車場では、ほかの入居者が車を他に移したのか、空いている駐車スペースもあった。「自分もそうすべきだったのか」と思ったが、後の祭りだ。
スコップで車の周りを掘る。だが雪は深く、何度掘っても地面は見えそうにない。車体に降り積もった雪も取り除いていたが、再び降り始めた雪ですぐに白くなった。ウンザリしながらも作業を続け、車体の雪をある程度落とした。
夕方、再び車の様子を確認するとがくぜんとした。せっかく苦労して雪かきし、車体があらわになっていたのに、大量の積雪で再び「雪山」と化していたのだ。下半身が埋まってしまいそうな積雪の中、再び雪かきをした。
10日も同様に車周りの雪かきに追われた。11日、比較的移動しやすい場所へ車を移そうと駐車場の雪をならして通路をつくり、なんとか車を出すことができたが、駐車場内では雪にタイヤをとられて何度もスタックを起こし、冷や冷やした。
一酸化炭素中毒に注意
かなり苦労した雪かきだが、防災科学技術研究所雪氷防災研究センター(新潟県長岡市)の主任研究員、平島寛行さんは「降りやんだばかりの新雪の方が軽く、雪かきは楽になる」とアドバイスする。
平島さんによると、雪は降ったばかりは「新雪」だが、次第に雪の重みで固くしまった「しまり雪」になり、気温や雨で解けて再び凍ると「ざらめ雪」に変わる。体積あたりの重さを新雪と比較すると、しまり雪は約3倍、ざらめ雪は約5倍にもなるという。確かに、記者も日がたつにつれスコップの雪が重くなったのを感じた。初めはプラスチック製のスコップを使っていたが歯が立たなくなり、金属製に替えて作業したほどだった。
一方、自動車と積雪の関係では、特に注意すべきことがある。日本自動車連盟(JAF)福井支部は「自動車を動かす前に、排ガスが出るマフラー周りをしっかり除雪して」という。雪でマフラーがふさがれると車内に一酸化炭素が充満し、死に至る可能性もあるためだ。
一酸化炭素は無味無臭。JAFの検証では、2時間ほどで気を失うほどの濃度になり、15分ほどでも片頭痛を起こすという。
道路で立ち往生した際も同様で、車内に待機する場合はマフラーの除雪を徹底するよう呼びかける。
ごみ収集もできず
今回の大雪で、福井市内の最深積雪は107センチにもなった。福井県内の鉄道全線が再開したのは15日だった。大量の雪はすぐに解けるわけもなく、生活道路には車などで踏みしめられて固まった「圧雪」が残る。路上でスタックを起こす車があり、記者も車を押して手伝ったことがあった。
大雪の影響はそれだけではない。生活道路の除雪が完了するまで都市機能も滞り、福井市ではごみ収集が休止に。小中学校も休校し、18日に再開した
東北工業大の沼野夏生名誉教授は「雪の被害には、地域社会が抱える問題が強く投影されるという特徴がある」と指摘する。
雪による交通障害が問題になるのは車社会化(モータリゼーション)が進んだ影響といえるし、屋根など高所の雪下ろし中の転落事故で高齢者が亡くなったりするのも、雪かきや雪下ろしの人手が減り、高齢者が無理をして作業しているという、人口減少と高齢化の問題を反映した被害ととらえられるからだ。福井県では今回の大雪で69~82歳の男女5人が亡くなった。
立ち往生や大規模渋滞が注目される大雪だが、生活面での影響もとても大きくなる災害なのだ。
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