ミカン生産量全国一の和歌山県には、「有田みかん」で有名な有田市周辺の有田地域以外にも、和歌山市に隣接する海南市の下津地域に約400年の歴史を誇る「蔵出しみかん」がある。温度や湿度が安定した貯蔵庫で1カ月以上貯蔵し、適度に水分を抜いてまろやかな味わいに仕上げる独自の技法で、一昨年には国の「日本農業遺産」にも認定された。今シーズンは新型コロナウイルスの影響で売り込みに苦労もあるが、「有田に続け」と販売戦略を強化。3月ごろまで出荷を続ける。(藤崎真生)
海や山の豊かな自然に恵まれ、四季を通して温暖な気候の下津地域は、山間部が多く米作りには適さない一方、古くから傾斜地を利用したミカン栽培が盛んだった。
ただ、収穫直後に出荷すれば、有田など他地域の有力ミカンに比べて酸味が強い。そこで先人たちが生み出した知恵が、全国的にも珍しい蔵出しみかんの手法だ。収穫したミカンを、あえて年明けまで1カ月以上、温度、湿度が一定した貯蔵庫で寝かせることで、まろやかな味に仕上げている。
海南市によると、市内の農家は平成27年時点で1352軒。うち960軒がミカン栽培に携わっている。また、30~31年産の市内のミカンの出荷量は約2万5500トンだが、このうち大半を下津地域が占めているというデータもある。
地元で受け継がれてきた蔵出しみかんの手法は高く評価され、平成31年2月には「下津蔵出しみかんシステム」として和歌山県で初めて国の日本農業遺産に認定。農林水産省は「みかんに関連した独特の文化を形成している」と高く評価した。
地元の「JAながみね」で下津柑橘(かんきつ)部会の副部会長も務める栽培農家、岡本芳樹さん(62)の木造2階建ての貯蔵庫を訪ねてみた。
土壁造りで築約60年。電灯は照らしているが、薄暗い中、ずらりと天井近くまで箱が並ぶ。箱の中にぎっしり詰められているのが蔵出しみかんだ。室内は温度7度、湿度約85%。ここで寝かせると、酸味と甘さのバランスがとれた絶妙な味わいに仕上がるという。
岡本さんは「空気が乾燥していると感じれば、土間に水をまいて湿度を調整する。温度は5度から8度、換気をしたり、実に傷みがないかこまめにチェックしたりもしている」と明かす。
蔵出しみかんは、全国ブランドの有田みかんが年末にシーズンを終えた後に出荷できるのも強みで、岡本さんは「年明けは下津の蔵出しみかんだと伝えたい」と強調する。
日本農業遺産の認定を機に、JAながみねや農家でつくる「地域ブランド推進連絡会議」は販売戦略を強化してきた。
京阪神や首都圏など主要な販売エリアには、神出政巳(じんでまさみ)・海南市長らが訪れるなどして魅力をPR。農協関係者も各地のスーパーに足を運び、消費者に試食してもらうなどしてアピールする。
下津蔵出しみかんシステムのロゴマークを作成したほか、地元・JR海南駅などには「みかん・お菓子発祥の地」などとPRする看板も設置している。
今シーズンは新型コロナウイルスの影響もあり、主要販売エリアの京阪神や首都圏などへの神出市長らの直接訪問は中止となったが、せめてもと、主要な販売エリアに向けてPRビデオメッセージを送付した。各地のスーパーや量販店では、日本農業遺産の動画を上映するなどして販売し、徐々に知名度を高めている。
今シーズンは昨年夏の天候にも恵まれ、仕上がりは上々。JAながみねでは約3100トンの出荷を計画している。連絡会議の岡畑浩二会長は「より多くの人々に味わっていただき、ファンを増やしていきたい」と意欲をみせる。
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