同性愛者など性的少数者(LGBT)への理解増進を図る法案が注目を集める中、鉄道各社が「女性専用車」の扱いに頭を悩ませている。混雑時に女性が安心して利用できるようにと導入された経緯があるが、体と心の性が異なるなど、性自認に悩む人の利用へも目配りが求められるからだ。大手私鉄の社員からは「将来は『多目的車』などに名前を変えないといけないかも」との声も漏れる。
痴漢対策で導入
女性専用車は2000年代以降、全国のJRや私鉄各社で次々と導入された。痴漢被害を防ぎたいと考えた警察の後押しもあり、特に朝夕のラッシュ時間帯を中心に設定された。原則として女性を対象とするが、男性でも障害者や子供は利用できる場合が多い。
JR東日本では、駅係員らが男性の乗車を見つけると、利用を控えるよう声をかけ協力を求めている。だが、その際の判断基準は「外見など」(同社広報部)。LGBTに関係する申し出があった場合は、その場で謝罪し引き続き利用してもらうなど、個別対応するという。
一方、東急電鉄では原則として利用者への声かけなどは行っていない。LGBTの人の利用も想定しており、広報担当者は「女性専用車の本来の趣旨は迷惑行為に対して安心して利用してもらうことであり、女性以外も利用できる点を周知している」と述べた。
別の大手私鉄の担当者は「そもそも女性専用車はLGBTに意識が全く及んでいない時代に導入された」と指摘する。
その上で「今後の位置づけは乗客の意識次第で変わる。例えばシルバーシートが優先席になったように、『多目的車』などと名前を変えることも検討課題になるかもしれない」との見方を示した。
誰もが使いやすい視点で
LGBTの人も働きやすい環境作りなどを企業にアドバイスするコンサルタント会社「アカルク」の堀川歩代表は、女性として生まれたが、性別適合手術を受けて現在は男性として生活する。ホルモン治療を始める前、外見で騒ぎにならないようトイレの利用を控えざるを得なかった自身の経験などを踏まえ「特別扱いではなく、気兼ねなく使える配慮は必要だと思う」と語る。
堀川さんは「痴漢被害など困っている人には、性別に関係なく耳を傾けることが必要だ。性的マイノリティーに限らず、何らかの理由でスペースが必要だったり車いすだったり、例えば『みんなの車両』のように、どんな車両なら誰もが使いやすいかを前向きな視点で考える必要があるのではないか」と話している。