映画「恋する寄生虫」(c)2021「恋する寄生虫」製作委員会
公開中の作品から、文化部映画担当の編集委員がピックアップした「プレビュー」をお届けします。上映予定は予告なく変更される場合があります。最新の上映予定は各映画館にお問い合わせください。
◇
「梅切らぬバカ」
「桜切る馬鹿(ばか)、梅切らぬ馬鹿」は、樹木の特性を理解して剪定(せんてい)することが重要と教える言葉だ。
その「梅切らぬ」を題名にしたこの映画は、山田珠子(加賀まりこ)と50歳になる自閉症の息子、忠男(塚地武雅=むが)の何げない日々を描く。
監督は新進の和島香太郎。自ら脚本も手掛けた。大事件は起きない。そして、何かが解決されるわけでもない。グループホームをめぐり地域と母子らが対立する場面はあるが、自分の暮らしを守りたいのは、だれもが同じ。だれかを敵役にすることもなく、和島は淡々と日常を描写する。映画が残す余韻は、かすかなものかもしれない。だが、多様さを受け入れる努力を怠れば「梅切らぬ」社会になるのではないかと考えさせる。
頼もしく愛らしい珠子は、加賀にうってつけの役だ。何げないラストシーンだが、明日への希望を感じさせるのも加賀だからなのかもしれない。塚地の演技は誠実で、共演の渡辺いっけい、高島礼子らは手堅い。
12日から東京・シネスイッチ銀座、大阪・シネ・リーブル梅田などで全国順次公開。1時間17分。(健)
「ドーナツキング」
カンボジアの共産主義革命を逃れ、米国でドーナツ店を経営して大成功した男性の半生をつづる実録映画。
アメリカンドリームを体現してゆく男性の歩みと並行して米国の移民政策もたどる社会派作品だが、中盤以降はこの男性の行く末が気になって仕方なくなる。エピソードの並べ方も巧妙なのだろうが、事実は劇映画よりも奇なりだ。監督は、新進のアリス・グー。自身も中国系米国人。「エイリアン」などの監督、リドリー・スコットが製作総指揮で名を連ねる。
いかにも米国らしい、カラフルで甘そうなドーナツの数々も見ものだ。
12日から東京・新宿武蔵野館、大阪・シネ・リーブル梅田などで全国順次公開。1時間39分。(健)
「ミュジコフィリア」
才能に恵まれながら複雑な家庭の事情のせいで音楽を憎む漆原朔(うるしばら・さく、井之脇海=かい)が、大学の音楽サークルを通じて再び音楽に向き合う姿を描く。
青春音楽映画。古典音楽でも軽音楽でもなく、前衛的な現代音楽を扱っているのが非常に独特だ。劇中で演奏される音楽もおもしろい。京都市が全面協力。桜が満開の賀茂川に置いたピアノなど映像が美しい。
共演の松本穂香(ほのか)は歌まで披露。いい味を出すが、登場する人物たちの背景をもう少し描いてもよかったか。人気漫画が原作。
12日から京都・TOHOシネマズ二条で先行公開。19日から東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪ステーションシティシネマなどで全国公開。1時間53分。(健)
「恋する寄生虫」
潔癖症の高坂(林遣都=けんと)と視線恐怖症の佐薙(さなぎ、小松菜奈)がひかれ合う。だが、2人の出会いは、ある病を治療したい佐薙の祖父が仕組んだものだった。
極めて風変わりな恋愛物語。風変わりゆえに純粋な恋を描けたともいえる。監督は、CMなどを手がける柿本ケンサク。独特の色彩感覚などが新鮮だ。また、劇中音楽や効果音で巧みに観客の心理を誘導する。
ただ、特殊効果なども含め、ホラー映画じみて見える部分がある。ここまで凝らないほうが、2人の「恋」に気持ちが入って、もっと泣けるのではないか、という人もいそうだ。マスク越しのキスなど小松がいい。
12日から東京・新宿バルト9、大阪・梅田ブルク7などで全国公開。1時間40分。(健)