「国道で車両立ち往生発生! どんなことが起こるか想像して、必要な情報を集めよう」。指導役の元自衛官の太い声が響く。11月、鳥取県庁で行われた大雪想定の災害警戒本部訓練。参加者の脳裏に浮かんだのは平成29年1月下旬、そして22~23年の年越し豪雪だった。700~千台の車両が県内の国道などで大渋滞し、ドライバーらが長時間、車に閉じ込められた。
極寒の中で立ち往生
「立ち往生を防ぐには、除雪車をいかに効果的に展開するかが重要」。県庁災害対策本部室で県危機管理情報官の藤木慎一郎さんは、情報分析を担当する職員らにこう話した。
2度にわたる豪雪禍の大渋滞は大型車がスリップしたり、すれ違えなくなったりしたことが発端だった。このうち年越し豪雪では、22年12月31日から23年1月2日にかけて国道9号の同県米子市~琴浦町間で身動きが取れなくなった車は約千台。極寒の中、何千人もの人たちが食べる物もなくトイレにも行けない不安な時間を過ごした。
29年1月の場合、23、24の両日に県内の主要道路6カ所で約700台が大渋滞に巻き込まれた。このうち智頭(ちづ)町の国道373号では200台以上が立ち往生。このときには同町の80世帯以上が孤立状態となり、鳥取県の平井伸治知事が自衛隊に災害派遣を要請した。
想像力が重要
災害警戒本部は、大雪や大雨警報が発令されたり、震度4の地震が発生したりした場合に設置される。ここ2年間は降雪が少なかったため、大雪に関する本部設置はされておらず、今回の訓練参加者約30人は、ほぼ全員が本部業務未経験だ。
《午後1時半、気象台が大雪警報を発令。その約2時間後、「今後12時間降雪量が平地で30センチとなる見込み」と予報された》
そんな想定の下、参加者は4班に分かれ、降雪と被害の情報収集や分析をスタート。班員が必要事項を災害警戒本部長に報告した。
班員「雪崩発生の情報が入りました」
本部長「どこからの情報?」
班員「中部総合事務所です」
本部長「場所を地図に落として」
迫真のやりとりが続く中、「どんなことが起きるかを想像してください」と指示が飛ぶ。声の主は元自衛官の県危機管理専門官、島瀬達也さん。想像力が情報の幅を広げ、将来の危険を防ぐ。
《雪崩で家屋が崩壊、道路が通行止め、迂回(うかい)路を設置、国道で大型車の立ち往生発生》
警察や国土交通省、市町村役場などを想定した係から次々と連絡が入り、時間を追ってホワイトボードに書き込まれ、机に張られた大きな県地図の上に色分けした付箋で情報が張り付けられる。
「位置情報は極めて重要。電話で情報の確認を」「同じ情報が異なる機関から入ることもあるし、情報がすべて正しいとはかぎらない」と島瀬さん。さらに「特筆すべき情報はボードの『注目すべき情報』欄に書き込んで」と情報の整理を指示した。
分析は徹頭徹尾冷静に
「情報収集は丁々発止だが、こちらは徹頭徹尾、冷静に情報を分析することが肝心。だから班員がいる場所も情報班とは離れている」。分析班員にそう説明する藤木さん。気象台と連携して積雪データを集め、定点カメラで雪の降り具合を確認する。
災害対策本部室のモニターに、過去の豪雪時の時間ごとの積雪量を示したグラフが表示された。「23年の豪雪のときは降り始めから24時間以内には積雪量の伸びがとまった。29年豪雪では雪が降り続き、積雪量に平地も山地もさほど差はなかった」。こうしたデータと実際の積雪を見比べると降り方が見えてくることがある。渋滞対策は「データをもとに少しでも早く雪の降り具合を判断し、優先順位をつけながら除雪車を回す。除雪してから新たにどれくらい雪が降ったかも重要なデータ」だ。
国と県で「除雪対策会議」
29年の智頭町の大渋滞では、自動車専用の鳥取自動車道を通行止めにし、国道373号に車両を迂回させたが、そこで大型車同士がすれ違えなくなった。この数日後の記者会見で平井知事は「(国が県に対し)1時間ほど余裕をもって通行止めを通告することで(県は)代替路の雪かきをするが、このときは通告が事後になった」と指摘。渋滞を招いた根幹の原因として、県と国の「連携のあり方」をあげた。今回の訓練では、県機関だけでなく国交省や警察、自衛隊などを想定した情報のやりとりが頻繁に行われた。
県道路企画課によると、29年の大渋滞を教訓に国と県、市町村は毎年、降雪シーズンを前に除雪対策会議を開催するようになった。さらに、広域迂回で豪雪地帯に車両を流入させない方策や、除雪車の増強、出動基準の引き下げ、道路カメラの増設といった対策を講じ、立ち往生に対する備えが多角的に前進した。
約1時間20分の訓練を終えて島瀬さんは「まずまずのでき」と総括した。気象庁の12月から来年2月までの3カ月予報によると、今シーズンの山陰地方の雨や雪が降る日は、12月は平年より少ないものの1、2月は平年並みか平年より多いとみている。
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