【経済インサイド】
造船会社などが、アンモニアを燃料に使う船の開発に相次ぎ乗り出している。アンモニア燃料船は、航行中に二酸化炭素(CO2)を排出しないことから、脱炭素化時代の海運を支える重要な存在になるとみられている。このため海運会社やエンジンメーカー、関係機関を含めてオールジャパンに近い開発体制を組み、造船のシェア争いで後れをとる中国勢や韓国勢に先行したい考えだ。
「リスクを恐れず、ベンチャー精神を持って果敢にチャレンジする先駆者でありたい」
日本郵船の横山勉グリーンビジネスグループ長は、アンモニア燃料船の開発に向けた意気込みをそう述べる。
日本郵船や船舶の設計などを手掛ける日本シップヤード(NSY)などは10月26日、2種類のアンモニア燃料船を開発する計画を発表した。まず2024(令和6)年度にタグボート(内航船)を、2年後にはより大型の輸送船(外航船)を完成させる考えだ。
外航船では、日本郵船が設計や法規への対応、NSYは船体開発や建造手法の検討を担う。エンジンは、ジャパンエンジンコーポレーションとIHI子会社のIHI原動機が開発する。総事業費は約123億円に及び、最大84億円を国が支援することになっている。
アンモニアは、貨物として運ぶものを燃料としても使えるようにするという。
今年1月に誕生したNSYには、国内造船最大手の今治造船が51%、2位のジャパンマリンユナイテッドが49%を出資している。NSYは、ほかにも伊藤忠商事や三井E&Sホールディングス傘下の三井E&Sマシナリーなどと鉄鉱石輸送などに使う大型ばら積み船を開発し、26年にも実用化する計画で、こちらも国の支援がついた。NSYが船体、三井E&Sマシナリーが燃料タンクなどを開発。プロジェクトを管理する伊藤忠は、燃料供給網の整備にも取り組んでいる。
三井E&Sマシナリーではこれ以外に、商船三井やドイツのエンジンメーカーであるマンエナジーソリューションズとも、アンモニア燃料船の発注に向けた基本協定書を締結した。三井E&Sマシナリーがマン社のライセンス供与を受けてエンジンを製造し、同エンジンを搭載した船を商船三井が発注する方針だ。
お家芸復活へ
これまで船舶燃料には重油が使われてきたが、近年はCO2排出量が少ないLNG(液化天然ガス)に置き換わりつつある。ただ、LNGではカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)が達成できないことから、いずれは水素やアンモニアに置き換わるとみられている。
このため日本郵船は今年9月に船舶技術コンサルタントのエロマティック(フィンランド)と組み、アンモニア燃焼船への転換が可能なLNG燃料船の設計開発にも着手している。
アンモニアは燃焼速度が遅いほか、船体が腐食しやすく排ガス中の窒素酸化物(NOx)への対策も必要だが、すでに輸送や貯蔵の技術が確立されているのが魅力だ。また、水素が液化して運ぶのにセ氏マイナス253度まで冷やす必要があるのに対し、マイナス33度で液化できるなど、同じ次世代燃料の中でも優位点が少なくない。
NSYの梅山信孝商品企画部長兼アンモニア燃料船開発部長は「運航するパターンや距離に応じて燃料を使い分けることになる」と予測する一方、「外航の大型船ではアンモニアが現状では一番適切」との見方を示す。
脱炭素をめぐっては、日本船主協会が船舶輸送における温室効果ガス排出を50年までに実質ゼロにする目標を10月26日に発表したばかり。達成にはアンモニア燃料船や水素燃料船の開発が欠かせない。
日本の造船業はかつてお家芸と呼ばれ、他国を寄せ付けないほどの強さを誇った。だが2000年代に入ると建造コストが安い中国や韓国に抜かれ、なかなか受注を獲得できない苦しい状況が続く。
アンモニア燃料船の開発は、ニッポン造船業の巻き返しという重い命題も背負っている。(経済部 井田通人)