平成18年の放送開始から今年で15周年を迎えた自然科学・動物番組「ダーウィンが来た!」(NHK総合、日曜午後7時30分~)。数々のスクープ映像で、国内外の専門家の間でも注目されてきた人気番組だ。番組の立ち上げ時から長年、制作に携わってきたNHKエンタープライズのエグゼクティブ・プロデューサー、足立泰啓(やすひろ)さん(46)に制作の現場について聞いた。
企画実現に長期間
「ダーウィンが来た!」の撮影は、国内の場合、ディレクターとカメラマンの2人が基本。海外では現地のコーディネーターやドライバーなども加わり4、5人態勢になる。これまで番組が訪れたのは世界約60カ国にも上る。
制作に携わっているスタッフは外部のプロダクションを含め40~50人。「大学で専門的に動物について学んだ人が6、7割。それ以外は文系出身だが、在学中に登山部や探検部に所属し、自然の中で仕事をしたい人たちが多い」
そして常時10チームほどが番組制作のために動いているという。「1人のディレクターが一度に3、4本の企画を抱えて番組を作っている感じだ」
1本の番組制作には事前取材やロケ、編集などで最低3カ月はかかる。これまでの最長は、米・南カリフォルニアの海に10万匹ものヤリイカが大集結するという「スクイッドラン」の撮影だった。この現象がなかなか起こらず、企画を出してから6年近く待たされたという。
捕食動物より怖い食中毒
野生動物の撮影というと、ジャングルの中にテントを張り、じっとカメラを構えている姿を想像するが、「実際はそんなにワイルドではない」という。「撮影機材に電気が必要だし、データをハードディスクに保存するため、ホテルに泊まることもかなりの頻度である」と明かす。
ライオンなど大型の捕食動物の撮影で危険な目に遭ったことはないのだろうか。「アフリカなど現地の撮影には一定の決まりがあり、例えば車からは降りないといったルールを守るので、襲われることは絶対にない」
実は、捕食動物よりも怖いものがあるという。「まずは食中毒。それから宿に出てくるダニやノミといった寄生虫や蚊などの吸血系の昆虫。夏の北米やロシア北部などでは蚊が大量に発生し、腕が真っ黒になる」
機材進化で驚きの映像
撮影機材が進化する中、動物の新たな生態が明らかになることも多い。「動物に対する知識や発見は日進月歩。最新機材を使えば撮り方も変わり、動物の世界がまったく違って見える」
ドローンの性能向上もその一つ。船上から撮るより、より動物に近接して上空から撮れる。
この方法で北海道・知床沖でシャチの大群が横一列になって泳ぐスクープ映像が撮影されたことも。海の最強ハンターと呼ばれるシャチと世界最大の動物であるシロナガスクジラが死闘を繰り広げる衝撃的な瞬間も世界で初めてカメラに収められた。
また、奄美大島でフグが海底に〝ミステリーサークル〟のような模様を作る映像も世界初。ニュースになり、その後、海外のテレビ局も現場まで撮影にやってきたという。
「番組が手掛けた世界初の映像は100近くになる。長期間ある特定の動物だけをずっと見ている人なんて世界にはそんなにいないから」と笑う。
環境の変化に危機感
15年間も続けていると環境の変化もよく分かるという。「15年前に撮った場所に行っても、生き物が全くいないこともある。特にこの10年ぐらいは温暖化や異常気象との闘い」と危機感をあらわにした。
番組では現在、多摩川などで1年以上、定点観測を続けている。また、今はコロナ禍で実現できていないが、アフリカのサバンナなど海外で長期間、撮影することも計画中という。
「動物も、木もどんどん消え、全体の環境が大きく変わっている。SDGs(持続可能な開発目標)という言葉もある。番組でも環境問題を引き続き取り上げていきたい」