岡山と出雲を結ぶJR西日本の特急「やくも」に来年度末までに、新型車両が導入されることになり、現行の381系車両の引退が近づいている。昭和62年のJR発足から34年。車両の入れ替えが進むなか、国鉄時代から定期運行している全国唯一の特急車両として根強い人気を誇っていた。あいにくのコロナ禍で、運行本数は半減、岡山にも緊急事態宣言が発令されたことで、沿線を訪れることも難しくなったが、引退を前に何とか雄姿を見届けたいと願う鉄道ファンは少なくない。
岡山県中部の山間部、高梁市内の踏切。381系が、カン、カン、カン-という警報音とともにやってきた。カーブに入ると、車体を傾け、直線になると姿勢を立て直して走り抜けた。381系は自然振り子式と呼ばれる構造が特徴だ。
国土の約4分の3を山地が占める日本では、鉄道は山地を縫うように走るしかなく、安定したカーブ走行ができる車両が求められていた。カーブでは遠心力が働くため、列車の速度が遅くなってしまうという課題があったからだ。
その解決策として、導入されたのが自然振り子式の構造。列車の車体と台車の間に「コロ」と呼ばれるローラーを備え付け、カーブにさしかかると振り子のように遠心力で車体がカーブの内側に傾く。傾くことで重心を内側に移し、スムーズにカーブを走ることができる仕組みだ。
開発されたメカニズムを備えた381系は昭和48年、中央線の名古屋-長野間の特急「しなの」としてデビュー。国内初の自然振り子式営業用車両となった。
その後、紀勢線の特急「くろしお」や福知山線を経由する新大阪-城崎温泉間の特急「こうのとり」などとしても活躍した。
しかし、月日の流れとともに新型車両などへの入れ替えが続き、現在、定期運行しているのは、伯備線、岡山-出雲市間で走る「やくも」のみ。381系は旧国鉄型最後の特急となっている。
JR西日本が昨年10月に発表した「中期経営計画2022見直し」は鉄道ファンに衝撃を与えた。資料の中に「やくも車両新製」と書かれていたからだ。
直接の言及はなかったが、ファンの間では現役のやくもである381系が引退と受け止められた。ネット上では「引退前に撮っておきたい」「お疲れさま」「コロナ禍が収束するまでに引退しそう」などと別れを惜しむ言葉が相次いだ。
大阪府箕面市の鉄道ファンの40代の男性も「製造から40年以上なので来るべき時が来たという印象だが、やはりさみしい。ラストランまでにはコロナが収束して乗車も撮影もできるようになってほしい」と話していた。
また、コロナ禍の影響でJR西は、岡山-出雲市間で30本だった381系の運行本数を、5月10日から当面の間、16本に減らした。ファンにとっては、希少性が高まるばかりだ。
京都市下京区の京都鉄道博物館展示資料課の島崇さんは「381系は起伏に富み勾配の多い地形の日本で鉄道を設置するなかで、速達性の点で貢献した」と指摘。「効率よくカーブを曲がる仕組みを備え、費用対効果も高かったのではないか」と評価していた。
鉄道史に多大な貢献をした381系だったが、実は難点もあった。乗り心地の評判があまり良くなったのだ。車体の揺れによって乗り物酔いする人が少なくなかったそうだ。
気分が悪くなった人のために、鉄道には珍しく、車内にエチケット袋も備えつけられたが、新型車両の登場で、異色のアイテムもまた姿を消すことになりそうだ。 (高田祐樹)
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