ロイヤルエンフィールド提供
現存する世界最古のモーターサイクル(二輪車)ブランド、英国の「ロイヤルエンフィールド」が創業120年で日本市場に公式参入し、東京都内にブランドショールームを開設した。自由にライディングを楽しむ「ピュア・モーターサイクリング」を掲げ、中間排気量二輪車(排気量250~750cc)で世界をリードする。コロナ禍によるライフスタイルの変化で二輪車の需要に伸びがみられる中、アジア太平洋地域での急成長を受けて日本でも身近のモーターサイクル文化の浸透に挑む。
洗練されたファン多い
東京都杉並区の幹線道路に面するショールーム。入り口上の「ロイヤルエンフィールド」の黄色いロゴが目立つ。人気の車種やアパレル、アクセサリー、スペアパーツのほか、120年間の興味深い歴史を伝える資料が展示されている。
「どこかに行くときも、ツーリングや探検を楽しむときもモーターサイクルは人と人を結びつける。そんな文化を築きたい。日本は世界中の愛好者にとって重要な地域の一つ。洗練されたファンが多く、人々の絆も強い。モーターサイクルは文化の一つになりうる」
アジア太平洋地域責任者のビマル・サムブリー氏はこう話す。二輪車のピュアな楽しみを再発見するために職人技能と現代技術を駆使し、世代を超えて生活に欠かせない製品を手掛けてきた思いが感じられる。購入しやすく、好みに応じてカスタマイズでき、メンテナンスが簡単なのもそのためだ。
英国では、復活祭「イースター」の祝日を利用して海辺や内陸の自然の中を仲間とツーリングして楽しむ季節を迎える。そうしたレジャー・モーターサイクリングというジャンルを確立し、ライディングを取り巻く文化の構築に貢献してきた。
世界市場を牽引
アジア太平洋地域の事業拡大は2016年からで、タイでは、約30店舗を開いた。今年6月から新工場で生産を開始する。インドネシア、ベトナム、マレーシア、フィリピン、シンガポールにも拠点を構える。韓国でも11店舗を開設し、売り上げは好調だ。この5年間の成長は前年比17%以上で、19~20年の販売台数は96%増と、世界の中型二輪車市場を牽引する。創業120年の節目に満を持して日本に公式参入を果たした。
ロイヤルエンフィールドは1901年に英中部レディッチで創業された。もともとは自転車や芝刈り機、発動機を製造していたが、自転車の前面に発動機を取り付けた二輪車を開発し、新たな歴史が始まる。その後、第1次大戦で軍用二輪車の製造を行い、パラシュートで降下できる排気量125ccの軽量車種を開発、2度の大戦をへて耐久性とクラシックな英国スタイルの融合を確立した。
50年代にインド市場に期待して東部のチェンナイに進出し、55年に製造工場を設立する。警察当局がパトロール用に二輪車を大量に購入し、地元業者との合併もへて経営の地盤を固めた。90年代にインドの自動車大手「アイシャー・モーターズ」の一部門となり、いまでは世界60カ国以上に輸出する。海外進出も本格化し、昨年からアルゼンチンにインド国外では初となる組立工場も建設している。
未知の領域へ
拠点はインドでも英国ブランドへの意識は強く、4年前に英中部に技術センターを設立した。インドの二輪車市場は飽和状態にあるといわれるが、アジア太平洋地域を含めた海外進出で英国ブランドには重みがある。日本では、英国の欧州連合(EU)離脱に伴って締結された低関税などの恩恵がある日英経済連携協定(EPA)の波及効果も期待される。
コロナ禍では、製造現場も操業停止などの影響があったが、二輪車は需要が増えた。海外旅行の代わりに国内でレジャーを兼ねてツーリングを楽しもうと米国で注目されているという。日本では、3密を避けて公共機関の代わりに使われるようになり、新車販売台数が増加し、中古売買業者も増収増益となった。
ロイヤルエンフィールドは課題克服の機会として挑み、現在はコロナ禍以前の生産水準をほぼ回復し、供給網も安定している。予約販売も好調という。ただ、「将来は非常に不確実。数カ月の間に何が起こるかは分からず、コロナ禍後のシナリオを予測するのは難しい」と予断は許さない。
ショールームでは、試乗会や創業120年の行事も予定され、交流の場として「ピュア・モーターサイクリング」をさまざまな形で体感できる。ロイヤルエンフィールドの最高経営責任者(CEO)、ビノッド・ダサリ氏は「日本はモーターサイクルのエコシステムが進化し、ライディング文化も成熟している。目標は真のグローバルブランド。未知の領域を切り開く製品や体験の開発に挑み続ける」と話している。(文化部 蔭山実)
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