少子高齢化が進む大阪府河内長野市のニュータウンで10月、地域を巡回する電動カートの自動運行が始まった。同様の取り組みは各地で行われているが、同市では運行の管理を地域住民自らが担っているのが特徴だ。高齢化率が40%を超えるまちに登場した新インフラは、早くもお年寄りたちに重宝されている。
最高時速12キロ
約3500世帯、約7100人が暮らす河内長野市の南花台(なんかだい)団地。毎週土曜の午前中、買い物客を乗せた電動カート「クルクル」が、最高時速12キロのスピードで住宅街を走り抜けていく。
10月16日に運行を始めたカートは、ヤマハ発動機製の電動ゴルフカートを改造した7人乗り。団地内の北東を回るAルート、南西を回るBルートといずれも1周約2キロのルートが設定され、それぞれ15分で1周する。現在は午前10時から正午まで、両ルートともに2本ずつ運行している。
まだ運行開始から間もないため、運転手と補助員の計2人が添乗。主にスーパーへの買い物のほか、公民館や地元の病院、バス停などへの足として利用されている。60代女性は「ルート巡回しているので予約の手間もなく、気軽に利用できる」、70代男性も「団地の坂で徒歩は負担が大きかった。近所の外出には便利で行動範囲も広がる」と評判は上々だ。
カートは、路面に敷設された電磁誘導線から出る磁気を感知し、加減速や右左折の指示を出すタグを読み取って走行する。搭載したカメラやセンサーが停車中の車などの障害物を感知すれば、自動的に停車。再発進時や電磁誘導線上から外れた際などは運転手が手動に切り替える。
南花台自治協議会会長の中源裕司(なかげん・ゆうじ)さん(67)は「買い物にバスやタクシーを使うしかない高齢者にとっては大変助かる。南花台がより安心して住めるまちになる」と胸を張る。
住民が運行を管理
南花台団地の取り組みで目を引くのは、団地の住民がボランティアで管理、運行を担っていることだ。地域の交通インフラは、自治体がバス会社などの交通機関に運行を委託するケースが多いが、同団地では運転手や補助員、発着地点の案内係を約40人のボランティアが担当している。
南花台では今回の自動運転に先駆け、令和元年12月に手動運転の「クルクル」が運行をスタート。月曜と木曜の週2日、午前9時から午後3時まで2台態勢で運行している。電話などで申し込み、約330カ所の電柱に設けた乗降ポイントから乗車する仕組みだ。
今後は自動運転と手動運転を併用しながら、ニーズに即した運行体制づくりを目指す。手動運転は1回100円で有料化する準備を進めており、年内にも導入される見通し。クルクル地域運営チーム代表の谷口文雄さん(77)は「住民らが参加していることに意義がある。課題もたくさん出てくるが住民同士の交流も深まり、まちづくりへの効果が大きい」と話す。
交流の場に
南花台は昭和57年にまち開きしたニュータウンで、集合住宅やマンション、戸建てとさまざまな住居が整備されている。居住人口はピーク時の平成7年は約1万1400人だったが、現在は約3分の2に減った。
総務省などのデータによると、今年3月31日時点の河内長野市の高齢化率は、府内33市で最も高い35・4%。南花台は43・0%にも上り、生活の足をいかに確保するかが課題となっている。
クルクルの運行は、地域に思わぬ副産物をもたらした。利用者とボランティアが日常的にコミュニケーションを取ることで、孤独になりがちな高齢者の交流の場に。子供が独立した夫婦や1人暮らしの高齢者も多く、地域の見回り機能も併せ持つようになった。谷口さんは「顔なじみになって声を掛け合う機会が増え、まちに活気が出てきた」と実感を込める。
河内長野市は、人工知能(AI)やビッグデータなどを活用した都市づくりを目指す国の国家戦略特区「スーパーシティ構想」に名乗りを上げており、クルクル事業についてサービスの規模と質を拡充していく考えだ。
島田智明市長は「人口減少と高齢化は日本全体の課題。市が先進事例として取り組み、課題解決につなげたい」と意気込んでいる。(大島直之)