東京・JR新橋駅の駅前広場を歩いていたら、大型のデジタルサイネージ(電光掲示板)から、盛んに五輪のPR映像が流れていたのに目がとまり、3年ほど前の取材を思い出した。
ある大手メーカー幹部が「東京五輪で外国人客が増加。競技場だけでなく、街中に多言語表示できるデジタルサイネージが増え、一気にビジネス化が加速しますよ」と意気揚々と話してくれたのだ。
コロナ禍で現実はあてが外れた。多言語表示できるデジタルサイネージは増えたが、肝心の訪日外国人がいないからだ。
五輪と技術革新は密接な関係がある。57年前の東京五輪では首都高速、東海道新幹線の開通と目覚ましいインフラ整備があった。人工衛星を使ったテレビ中継も実現。カラー映像放送も行われ、国内のカラーテレビ普及を大きく後押しし、「テレビオリンピック」とも呼ばれた。
今回の東京五輪でも、随所に実用化が進む技術が使われている。聖火台の燃料に次世代クリーンエネルギーとして期待される液体水素が使われ、選手村では自動運転バスも登場した。
多数の外国人観光客が訪れ、五輪が「新技術の見本市」の役割を果たすというシナリオは崩れたが、実際に、五輪というタイミングを目指して技術開発が進んだ部分もある。
今後はその技術をいかにして普及させ、浸透させていくかが重要だ。五輪頼みでない次の一手が必要だ。(藤谷茂樹)