ど派手にカスタムされたエンジンカバーに、高い背もたれの「三段シート」。ナンバープレートは警察の目を逃れるために跳ね上げた“カチ上げ”仕様…。最近摘発されたある暴走族の改造バイクの一例だ。見た目は昭和時代以来の暴走族と変わらないが、捜査関係者によれば、その集団の構成は、従来型とは一線を画す。「今度一緒に走ろう」。会員制交流サイト(SNS)で緩くつながり、互いに初対面でも、並走して爆音をとどろかせる。警察も難儀する暴走族のニューカマーとは-。(鈴木源也、藤木祥平)
臨海部に響く爆音
昨年7月の深夜、神戸市中央区の臨海部の国道をバイク13台が暴走していた。計20人の男女がそれぞれバンダナで顔を隠して4車線に広がり、エンジンの爆音を響かせながら違法転回に信号無視と、やりたい放題だった。
「そこのバイク、危ないから止まりなさい」。パトカーの制止もどこ吹く風、約4分間にわたる追跡の末、集団は散り散りになって逃走した。
兵庫県警は、付近の防犯カメラやドライブレコーダーの動画を精査し、暴走行為をしていた人物を順次特定。今年5月までに、道交法違反(共同危険行為)などの疑いで16~21歳の計16人を逮捕した。
総長なき匿名集団
事件の捜査によって、この集団が従来型の「暴走族」ではくくれない構成だったことが分かった。地元だけでなく、大阪や京都からも神戸に参集し、その日まで互いに面識がないメンバーもいたのだ。
厳しい上下関係を嫌い、特攻服は着ない。グループ名もなく、見た目はいたって普通のバイク好きの少年たち。ある捜査関係者は「昔の暴走族ならトップの総長を捕まえれば芋づる式に仲間を特定できた。今の子たちは集団内の関係が希薄で、一人一人を個別に特定しなくてはならない」と、捜査が複雑・長期化する傾向があると明かした。
〝暴走ツーリズム〟
少年らを結び付けていたのは、ほかでもないSNSだ。ニューカマーのつながりの一般例を挙げると、1人が写真共有アプリ「インスタグラム」で自慢の改造バイクの写真を投稿すれば、「かっこいい」「今度ツーリングに行こう」とコメントが集まり、ダイレクトメッセージ(DM)で集合場所を連絡しあう。
指定されるのは街中のコンビニやショッピングモールの駐車場が多く、関西圏から続々と自慢のバイクやビッグスクーターに乗ったライダーたちが集まる、といった具合だ。
なかでも神戸市中心部は今、ライダーたちの“聖地”になりつつあるという。たとえば同市中央区の人工島・ポートアイランドの東側臨港道路は、道幅が広く直線も長いため、潮風を感じながら疾走できるスポットとして、暴走集団を引き寄せてしまうのだ。
加えて「神戸メリケンパーク」(同)にある「BE KOBE」のモニュメントも、「インスタ映え」の撮影スポットとして人気。海を背景に改造バイクを並べて写真に納まる集団もいて、港湾道路からの「BE KOBE」訪問という、ありがたくない“暴走ツーリズム”が定着しているという。
動機は十年一日のごとく
「バイクが楽しい」「自転車とは爽快感が違う」
兵庫県警の捜査関係者によると、摘発された少年らに悪びれる様子はなく、「追いかけてくる警察をまけたときがうれしい」とスリルを語った。この辺りの動機はニューカマーとはいえ、十年一日のごとく変わらない。集団の最後尾を走る“ケツ持ち”が最高の名誉となっていることも昔ながらだ。
ともあれ、近隣住民にはたまったものではない。ポートアイランドはマンションなど高層建築物が多く、エンジン音が反響しやすい。それだけに警察への騒音の苦情が絶えないという。
県警交通捜査課は「現在はほぼすべてのパトカーにドライブレコーダーが設置されており、バイクのナンバーが隠されていても周辺の防犯カメラを駆使してバイクがどこから来たか、誰が乗っていたかを特定していく」と説明。これから夏にかけて夜間の暴走が多くなるといい、「覆面車両も巡回させて警戒を強めていく」としている。
外部リンク