主演降板-。15日スタートの連続ドラマ「推しの王子様」(木曜午後10時、フジ)は前代未聞のトラブルに見舞われた。撮影開始直前に、主演予定だった深田恭子さん(38)が芸能活動を休止。ドラマ制作は「間に合わない」と思われたが、比嘉愛未(ひが・まなみ)さん(35)が〝緊急登板〟し、制作陣はコロナ禍対応でわずかに余裕を持たせていたスケジュールを活用、態勢を立て直した。(三宅令)
ハードスケジュール
「芸能界史上初めてじゃないか」。5月25日の撮影開始前日、主演女優の芸能活動休止と降板の一報が、制作陣に知らされた。「寝耳に水。誰も経験したことがない事態に突入した」と貸川聡子(かしかわ・さとこ)プロデューサー。主人公は30代後半、脂の乗ったベンチャー企業の女性社長だ。その年代で、連続ドラマの主役を張れる女優は限られてくる。
死に物狂いで代役を探したところ、他局で別ドラマの撮影をしていた比嘉さんが快諾。そちらの終了から間もない、6月6日に撮影開始というハードなスケジュールが組まれた。
効率化のため、初日から同じ場所の場面は話数をまたいでまとめて撮影した。「比嘉さんは準備期間が数日しかなかったのに、脚本を先の先まで暗記済み。馬力・胆力・対応力が抜群だった」という。「現場はピリピリすると覚悟していたが、制作陣も気持ちが楽になり、思いのほか楽しい撮影になった」と振り返る。
スタッフ東西奔走
コロナ禍への対応で、ドラマの撮影スケジュールは以前よりかなり前倒しされるようになっている。
感染防止のため、移動中の食事が禁止されたり、撮影場所の消毒が必要になったりと、「とにかく以前より、撮影に時間がかかる」ことに加え、「陽性者が出たら、2週間はストップすることを覚悟しなければならない」ためだ。
今回は、その前倒し分の時間を使って態勢の立て直しに努めることになった。
代役を立て、スタジオを押さえ直し、他の出演者には撮影時間の再調整をお願いし、演出や衣装も変更。「衣装スタッフが一番大変だったはず。比嘉さんと深田さんはサイズも、似合うデザインも違う。主役で女性社長という設定で、とにかく服が多かったから」
連日の終日撮影の甲斐あって、第1話放送を無事に迎える。狩野雄太プロデューサーとともに「奇跡の上に成り立つ作品。見ていただけたら」と力を込めた。
「男版」マイ・フェアレディ
「(上流階級の男性が身分の低い娘を理想の淑女に育てる)マイ・フェア・レディの男女逆転をしたかった」と話すのは狩野プロデューサー。「身分の差は、現代日本に置き換えて突き詰めると、目標があってやりたいことができる人と、そうではない人の差ではないか」
ベンチャー企業の社長である泉美(比嘉愛未さん)は、自分好みの架空の男性、ケント様と恋に落ちる乙女ゲームを開発し、異例の大ヒットを記録。経営者として注目される一方、私生活では何年も恋愛をしておらず、ただただケント様に夢中。しかしある夜、借金取りから追われるケント様そっくりの男(渡邊圭祐さん)に出会う。不作法で無教養、自分の人生を諦めているその男に「私があなたを理想の男性に育てる!」。
木曜劇場枠での、オリジナル・ラブストーリーは6年ぶりだという。ファンから一定の視聴率が見込める原作付きドラマと違い、「〝後ろ盾〟がないオリジナルドラマを制作できる機会は、なかなかない」。昨年6月ごろから構想を練り、制作チームは世界観を共有するために何度も打ち合わせを繰り返した。
「人と人が出会って、一緒に生きていくことは素晴らしい」と話し、「夢みたいなストーリーでも、登場人物の感情をリアルに描くことで、現実的で示唆に富むロマンチック・コメディーに。明るく楽しく、でも、見た後に何かが残ると思います」