海洋プラスチックごみについて問題提起した米国の長編ドキュメンタリー映画「マイクロプラスチック・ストーリー~ぼくらが作る2050年~」は、ごみ問題を学んで行動を起こすニューヨークの小学生の成長の記録だ。共同監督を務めたのは、現地在住の映像作家、佐竹敦子さん。世界37カ国で公開され34の映画祭に出品され、7つの部門賞を獲得した。このほど、日本語の吹き替え版を製作。吹き替えを担当したのは、環境問題に興味を持つ各地の子供たちだった。
NYの子供たちが
さいたま市出身の佐竹さんは、映像関係の仕事を志して渡米。2007年ごろ、息子の小学校で、床にプラスチックトレーなどが散乱するカフェテリアの汚さや給食の栄養不足に衝撃を受けた。
そこで、ボランティア清掃を始め、ごみの分別を進めたところ、のちに共同監督となる米国人女性と出会い、食育を進めるNPO法人を結成することに。学校でプラスチック・フリー特別プログラムを始めたという。
そのなかで、子供たちが関心を持ったのは、海洋プラごみ。子供たちは、給食での発泡スチロール製容器の使用廃止を求める活動を始め、市議会で公表するなど実際にアクションを起こすまでになった。佐竹さんはその2年間の映像を記録、2019年に映画になった。
佐竹さんは「ニューヨークの子供たちに見てもらおうと製作したが、世界でこんなに見てもらえるとは思わなかった」と振り返る。インドやロシア、日本でも公開。さらに、日本語吹き替え版の製作も決まった。
声優に求められた条件
世界の海洋プラごみは推計で1億5千万トン、年間の新規発生量800万トンといわれている。
自然分解されずに残存し、有害物質を吸着しやすい性質があり、構造的に微細化し続けるのがプラスチックの特徴だ。魚などが誤って飲みこめば死に至り生態系への影響があったり、それを食べて人体にも取り込まれたりする危険性が指摘されている。
10月公開予定の吹き替え版では、子役声優オーディションが行われた。北海道から沖縄県までの国内と、欧州在住3人、米ハワイ1人を含む578人が応募。
オーディションは香川県三豊市のほか、東京都内、横浜市、京都府亀岡市の全国4カ所で実施し、45人が合格した。
佐竹さんは「問題を真剣に考え、取り組んでいく気持ちが強い子供を選んだ。役の理解力や読むのがうまい子はいたが、登場人物の個性とは合わなかった」と振り返る。
2050年の現実
合格した子役声優の録音作業は三豊市から始まった。来日した佐竹さんと子供が機器の前に座り、パソコン画面で映像を見てタイミングを合わせながら繰り返し録音を実施。登場人物の性格やシーンのポイントを説明しながら進めた。
中学3年、大下史華さんは「他人の心に刺さる映画になってほしい」。中学2年、田井翠月(みつき)さんは「声優に興味があり特別なチャンス」と吹き替えに臨んだ。「映画を見てもらえば問題の深刻さが分かると思う」と話していた。
また、中学3年、石井美羽さんは「セリフ一つにもいろんな表現の仕方がある。監督の指示通りにできて楽しかった」と話していた。
録音作業を終えると、三豊市の沖合約4・5キロの粟島(あわしま)に船で移動し、この映画の「海洋ごみ削減アンバサダー」として、砂浜でごみ拾いを行った。子供ら8人が汗だくになりながら幅100メートル足らずの浜を清掃。段ボール5箱分のプラごみが回収できた。
佐竹さんは「2050年には海洋ごみの重さが魚の総重量を超えるという衝撃的な説もある。それを現実にさせないために、ニューヨークの子供たちのように一人一人がアクションを起こせば必ず大きく変えられる」と話していた。(和田基宏)