ペットとして飼育されるネコが1千万匹に迫るとされる中、松江市の住宅メーカーと家具会社がタッグを組み、ネコも人間も暮らしやすい工夫が凝らされた家の販売を来年にも始める。麻縄を巻いた爪とぎ用の柱や、部屋の間を行き来できるキャットウオーク(通路)などをそろえ、ネコにとって自由に過ごせるラグジュアリーな家。この家ではネコの最期までみとることができるため、ネコの殺処分ゼロに向けた国連の持続可能な開発目標(SDGs)の取り組みにもなると期待されている。
にゃんだふるな家
松江市の住宅街の一角に、木製家具の製造販売を手がける「ウッドスタイル」社長、西村幸平さん(56)の〝ネコと共生する家〟がある。約33坪のこの家は2階建て3LDK。今年8月に完成したばかりで、外観は通常の一軒家と変わらない。ただ、一歩玄関に入ると、いきなり正面の天井部に透明のキャットウオークが備え付けられていた。キャットウオークはリビングに続き、2階にもつながっているという。
「ネコは高いところが好きだし、キャットウオークを歩くことでストレス解消にもなる。その愛らしい姿を見て、人間側もストレス解消になるんです」。ネコと暮らして約30年、今も3匹のネコと暮らす西村さんの思いが詰まった家だ。
リビングに入ると天井の四方にキャットウオークが張り巡らされている。一部は透明になっており、下からネコの肉球を見て楽しむことができる設計だ。ネコ用トイレも壁に内蔵され、引き出して掃除も可能。中では換気扇も回る防臭対策もされている。
麻縄を巻いた爪とぎ用の柱はオシャレで、リビングにあってもおかしくない。さらに、通常の収納家具に見える壁面の木製家具は中身が一部くりぬかれ、人間用の収納家具と同時にネコの通り道にもなっていた。
この家のおばあちゃんネコ、16歳のかりんもこの家具の一段に陣取りご満悦そうに喉を鳴らしていた。
人間にも快適
この家の建築は、今年1月に西村さんが松江市の住宅メーカー「ハウジング・スタッフ」の平儀野好美社長と知り合ったことがきっかけだった。互いにネコ好きだったことから意気投合。西村さんの新居建築に際し、ハウジング社が家の建築、ウッド社が内装の家具を担当した。
西村さんは「壁の素材はしっくいで、湿度の調整や消臭効果があり、ネコが爪をとがないメリットもあります。キャットウオークも、設計の段階からつり下げる場所の天井部分に補強を入れるなど、対応ができる」と教えてくれた。床もネコの吐瀉物(としゃぶつ)が染み込みにくい素材を使い、飼い主にとっても掃除が簡単など満足感が高いという。
そこで、来年には両社が協力し、松江市内にモデルルームを2棟建て、本格的にブランド化して販売を始める計画だ。今年9月に西村さんの自宅を2日間、モデルルームとして展示会を開いたところ、一般住宅の展示会の倍近い21組が近隣から訪れたという。西村さんによると、すでに首都圏や近畿圏では、ネコと住むことに特化した一軒家やマンションの販売が増えており、ネコを飼う人専用の不動産屋も登場しているというが、「山陰地方では初の取り組みになる。新築だけではなく、リフォームも対応できる」という。
ずっと一緒に
西村さんにはネコと暮らすための家を広げたい理由がある。「飼ったら一生飼い続けてほしい。そのための家です」
ペットフード協会(東京)の昨年の全国犬猫飼育実態調査によると、全体の推計飼育数はネコが約964万匹と横ばいだったものの、新たに飼育されたネコは約48万匹(前年比16%増)となった。動機として3割超の人が「生活に癒やし・安らぎがほしかった」(複数回答)と答えている。
「コロナ禍で在宅時間が増えたことから、ネコを飼ったはいいが、感染拡大が落ち着いて再度出社するようになると世話がおっくうになりネコを捨てる人が出てきていることが最近問題視されている」と西村さんは指摘する。ネコと住む家の仕様にすることで、最期までネコを飼い続ける自覚を持ってもらいたいという。(藤原由梨)