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「戦争はダメ」だけでは足りない。命の尊さを伝えたい。母・仲宗根泉、歌に込める思い

2019年8月14日 11:00 琉球新報

切ない恋心を歌い上げる「恋愛の神様」、バラエティー番組での明るいキャラクター。

バンドHYのボーカル&キーボードの仲宗根泉に対する世間のイメージではないだろうか。

そんな彼女も私生活では小学生の女の子のママ。地元沖縄で暮らしながらも全国区で活躍するアーティストであると同時に、仕事と育児の両立に悩む働くママでもある。

仲宗根はどんな子育てをしているのか。74年前の沖縄戦で戦場となり、多くの県民が犠牲になった沖縄で、母として子どもに伝えたい大事なことは何だろうか。(玉城江梨子)

「ママはどうして帰ってこないの」


「小学生になったらもっと手がかからなくなって、もっと仕事ができると思ったんですけどね。最近、『マーマー、マーマー』って離れなくて」

娘は現在小学1年生。自分のことは自分でできるとはいえ、まだまだ親に甘えたい年頃でもある。

出典: Instagram

ある日、娘は泣きじゃくり、こう訴えたそうだ。

「他の子のママはどんなに忙しくても夜中には帰ってくるのに、どうしてママは帰ってこないの」

1年先まで仕事は決まっている。「この日休みたいから」と簡単に休めるわけではない。全国ツアーが入れば一年の半分は沖縄を離れる。

沖縄を拠点にしていることは、近くに親、きょうだい、友人がいて、子育てをフォローしてもらえる恵まれた環境の一方で、県外での仕事となると、どうしても数日は沖縄を離れなくてはいけない。

HYを辞める覚悟


「HYをやめて娘と一緒にいようか。何よりも大事な娘がそれを望んでいるなら、それがいいんじゃないのか」

ママがいなくてさみしいという気持ちを何日も抱えてこの子は待っているのかと想像すると、苦しくなった。

HYの他の4人のメンバーも大切だけど、娘の人生がもっと大事。今やれることをやってあげたい―。仲宗根の心は揺れた。

「『ママに仕事をやめてほしい?』と娘に聞くと、あんなに大泣きしていたのに『仕事は辞めないで。歌っているママが大好き』と答えたんです。『だったら、ママがいない間は少しだけ我慢できる?ママも早く帰れるようにマネジャーにお願いするから』と話し合いました」

「私が頑張れば」と思っていた


周りが子どもの面倒を見てくれることもあり、娘が生まれた後も、出産前と変わらないペースで仕事をしていた。

まとまった休みが取れるのは正月の1週間。2、3カ月休みなしということもあった。育児に比重を置いた働き方に変えたいとは思わなかったのか―。

「うち(=HY)は男4人に女1人。私が頑張ればいいと思っていた」

娘のSOSでこれまでの自分の働き方を見つめ直した仲宗根の思いをメンバーも事務所も受け止めた。

現在は夜遅くの仕事は入れない、県外に行くのもできるだけ日帰りにする―など働き方を少し変えた。ほかのメンバーは仲宗根の分の仕事も引き受けてくれている。

変わった仕事への「向かい合い方」


「『いーずー、それ違うよ』って言われていたら、解散だったでしょうね」

仲宗根は冗談っぽく笑うとすぐに真剣な表情になり、こう続けた。

「HYのことを応援してくれる人、HYのメンバーもすごく大事。いつも歌わせてもらって、すごくありがたいところでやらせてもらっていると思っているけど、私にとって娘が何より、誰にも代えがたい存在なので、娘がママに一緒にいてほしいという気持ちがあるなら、私はいつでもやめていいと思っている」

「逆にやめてもいいと思っているから、今一生懸命仕事をやれている。HYがある限りいつまでも続けられるってわけじゃないからこそ、一本一本のライブや自分が書く曲、取材で自分が発する言葉、一つずつに一生懸命向き合ってやるようにしている」

長年温めていた「時をこえ」


母となった仲宗根が歌を通して娘に伝えていることがある。「命の大切さ」だ。

仲宗根が書く曲はラブソングというイメージが強いが、戦争をテーマにした曲もある。

2010年に発表した「時をこえ」と、2015年にKiroroと組んだユニット「さんご」として発表した「いのちのリレー」だ。

2010年の紅白歌合戦でも演奏した「時をこえ」は仲宗根が祖母から聞いた戦争の話が基になっている。

「戦争の映画などでは敵味方という描かれ方とするし、幼いとどうしても『どっちが悪い』と考えてしまう」

「でも実際に戦争を体験したおばあは『どっちが悪いじゃないよ。アメリカ兵も日本兵も国や家族を守ろうと戦った。大事なのはみんな助け合うこと。命が大事だよ。命はみんな平等だよ』って言っていたんです」

「いつか大人になって『戦争』を書く時が来たらその時に書こう」と長年温めていたものだ。

母として伝える「戦争」


仲宗根は祖母から聞いた話と一緒に「時をこえ」を娘に聴かせている。

今年、娘は学校の平和学習で、沖縄戦で住人が避難した自然壕「ガマ」に入った。

その後、歌のモデルにもなった曾祖母に会った娘は「今自分がいるのはおばあちゃんからの命のリレーなんだね。おばあちゃん、戦争を乗り越えてくれてありがとうね。長生きしてね」と伝えたという。

仲宗根が歌を通して伝えたかったこと、学校での平和学習で感じ学んだことが娘の中で繋がった。戦争の悲惨さや「戦争はダメだ」と言うだけでは不十分だと仲宗根は感じている。

「子どもに伝える『伝え方』が大事だと思いました。怖い、誰が悪い、傷つけたらダメではなく、人の心を通して教えること、命は自分だけのものではないことを伝えることなのではないでしょうか」

命は一人だけのものじゃない


「時をこえ」の歌詞にはこんな一節がある。「胸に刻みなさい あなたのその鼓動 昔、昔に繋がるこの命 大切に生きなさい」

「歌詞を書いた頃、ニュースでは自殺者が多いと頻繁に取り上げられていた。戦争ではないのに多くの命が失われているのを知った時に、おばあが言っていたことが自分の中で腑に落ちた」

「おばあから聞いた話を書くなら今だと思った。自ら命を絶つ人がこんなに多いけど、その命は一人のものじゃないって伝えたかった」

日本の自殺者はピーク時の3万人超から減少したとはいえ、2018年は2万598人(警視庁の速報値)が自ら命を絶っている。

「2万人もの人が自分で命を絶っていく。つらいと口にできたら変わったかもしれないのに一人で抱えて死んでしまうのは戦争より怖いこと。それをもっとみんなに理解してほしい」

そして、そのことは現代を生きる子どもたちに伝えたいもう一つのことにつながる。

「他人のことをネットで中傷して、傷つける。それで命を絶っている人もいる。それは『言葉の戦争』。ネット社会だからこそ、人の心を大事にしてほしい」

「相手がやったから自分もやり返すではなく、自分の考え、思っていることをちゃんと伝える。それを娘にも教えていきたい」

一緒に歩むファンたちへ


仲宗根と言えば、インスタグラムの使い方も独特だ。

2016年4月から始めたインスタグラムには仕事やHYのメンバー、親友や娘とのやりとり、何気ない日常とともに仲宗根が感じていることが本人の言葉でつづられている。

出典: Instagram

仲宗根が発するメッセージに対し、コメント欄に自分の悩みや過去の経験を書いてくれる人もいた。

それに対する〝返答〟のように仲宗根は詩を書き、曲をつけ、インスタに投稿。それらは書籍にもなった。

「会ったことはないけど、コメントを読んでいるうちに彼女たちの気持ちや置かれた状況を想像したんです。道が1つしかないと思っている彼女たちに対して、道は2つ3つあるんだよって伝えたい。そうすると世界の見え方が変わってくる」

仕事、恋愛、育児、家事と20~40代の女性たちはそれぞれのライフステージでさまざまな悩みに直面する。そしてそれは、ファンと同世代の仲宗根自身も同様だ。

「私はポジティブではなく実はすごくネガティブ。だからこそ彼女たちの気持ちを痛いほど感じている。彼女たちに助言をするうちに、実は自分に対する答えにもなっている。落ち込んでいるけど、私も変わらなきゃって」

HYを結成してから来年で20年。秋からは全国ツアーも始まる。

「歌っているママが大好き」という娘に誇れる自分でいるためにも、自分のペースで大好きな場所から歌を紡ぎ続ける。


〈お知らせ〉
ツアー「HY 20th Anniversary RAINBOW TOUR 2019-2020」は10月17日の東京を皮切りに、来年2月9日まで全国23都市で26公演を行う。
20周年の節目にHYが選んだテーマは”虹”。雨が降ったあとに空に大きな虹がかかるように、HYやファン1人1人が、この19年の間にさまざまな悲しみや、苦しみなどを乗り越えて今日を笑顔で迎えていること、それがこれからの未来に架かる“虹”であるように、との願いを込めている。ツアー詳細はHY公式ホームページ。

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