[東京 8日 ロイター] - 岸田文雄首相は8日午後、衆議院本会議で内閣発足後初の所信表明演説を行い、経済成長とともに分配を重視するこれまでの主張を改めて訴えた。具体策として、企業が株主だけでなく従業員や下請けへの利益配分をしやすくするよう、短期的な視点の経営に陥りがちな四半期ごとの業績開示を見直す方針を打ち出した。
<コロナの経口治療薬、年内に実用化>
岸田首相は自民党の総裁選中から主張していた「新しい資本主義」の実現を強調。「格差がもたらす分断が危機によって大きくなっているとの指摘がある」と懸念を示し、「『成長か、分配か』という、不毛な議論から脱却し、『成長も、分配も』実現するために、あらゆる政策を総動員する」と述べた。
分配の具体的な戦略の1つとして、企業業績の四半期開示を見直す考えを示した。岸田氏は「企業が、株主だけではなく、従業員も、取引先も恩恵を受けられる『三方良し』の経営を行うことが重要」とし、「非財務情報開示の充実、四半期開示の見直しなど、そのための環境整備を進める」と語った。「下請け取引に対する監督体制強化」や、「労働分配率向上に向けて賃上げを行う企業への税制支援強化」にも触れた。
最優先課題としている新型コロナウイルス対策は、ワクチン接種について「3回目の接種も行えるよう準備をする」、「経口治療薬の、年内実用化を目指す」とした。
また、コロナ感染の影響を受ける事業者に対し、「地域、業種を限定しない形で、事業規模に応じた給付金を支給する。コロナの影響に苦しんでいる非正規、子育て世帯など困っている方々を守るための給付金などの支援も実行する」と語った。
<中国、韓国との関係>
マクロ経済運営では、デフレからの脱却を最大の目標とし、「大胆な金融政策、機動的な財政政策、成長戦略の推進に努める」と説明した。「危機に対する必要な財政支出はちゅうちょなく行い万全を期す。経済あっての財政であり、順番を間違えてはならない」、「経済をしっかり立て直す。そして、財政健全化に向けて取り組む」などと述べた。
成長戦略については10兆円規模の大学ファンドを年度内に設置し、「デジタル、グリーン、人工知能、量子、バイオ、宇宙など先端科学技術の研究開発に大胆な投資を行う」とした。また、「地方からデジタルの実装を進め、新たな変革の波を起こし、地方と都市の差を縮めていく」と語った。
新たに担当大臣を設けた経済安全保障政策は「戦略物資の確保や技術流出の防止に向けた取り組みを進め、自律的な経済構造を実現する」と述べた。
外交・安全保障は日米同盟を基軸とするこれまでの政権の方針を引き継ぎ、「国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画の改定」に取り組む方針を示した。
中国については「安定的な関係を築いていくことが、両国、そして、地域及び国際社会のために重要」、「中国に対して主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求める」などとした。韓国については「健全な関係に戻すためにも、わが国の一貫した立場に基づき、韓国側に適切な対応を強く求めていく」と述べた。