cat_11_issue_oa-president oa-president_0_v0710ftgthrr_「東大卒がコンプレックスだった」香川照之さんがそう告白した理由 v0710ftgthrr v0710ftgthrr 「東大卒がコンプレックスだった」香川照之さんがそう告白した理由 oa-president 0

「東大卒がコンプレックスだった」香川照之さんがそう告白した理由

2021年1月16日 12:00 PRESIDENT Online

俳優の香川照之さんは「東大にいったことがずっとコンプレックスだった」と話している。フリーライターの菅原圭氏は「世間の価値観と一致することが“いい人生”ではない。香川さんの告白からはそのことが学び取れる」という――。

※本稿は、『ものごとに動じない人の習慣術(新装版) 冷静でしなやか、タフな心をつくる秘訣』(KAWADE夢新書)の一部を再編集したものです。

調子が悪いときがあってもいい

自分でも信じられないほど、どんどん仕事が片づいていくことがある。そんなときは、結果までついてきて、自分でも「オレは仕事ができる!」と確信に近い思いがある。いわゆる絶好調だ。

そうかと思うと、やることなすこと裏目に出て、絶対、勝てるはずの企画コンペだったのに、思わぬ伏兵に敗れてしまう。誰もが驚くような負け! 自分でも、なぜだかわからない。こういうときは絶不調だったとしかいいようがない。

こんなふうに、自分でも、優秀なんだかダメ人間なのか、わからなくなることはないだろうか。

まあ、どっちの自分もまぎれもなく自分自身なのだが、どうせなら、優秀な自分とだけ向き合って生きていったほうがずっと気分がよいのではないか。絶好調ならば、そのまま勢いにのっていけばいいが、問題は絶不調のときに、どうするか、である。

どうにも、うまく自分をのせられない。がんばろうとするのだが、力が湧いてこない。我ながら、冴えがない。こういう不調時は、いまは勝負するときではないと割り切ってしまう、という手もあることを知っておきたい。

うまくいかないときは、自分ではなく“ツキ”のせいにする

四柱推命は占いではなく、中国五〇〇〇年の経験則を統計的にまとめた結果から、一人一人の運気のサイクルを見るものだという。それを信じなさい、というわけではないから誤解のないように。

ただ、人には力を発揮しやすい時期と、何事もうまくいかない時期がある。それはある一定のサイクルで順ぐりにめぐっている、という考え方だけを“いただいてしまおう”というわけだ。

何をやってもうまくいく。こういうときは、「いまはツキまくりのサイクルなのだ」と勝手に思いこみ、思う存分、がんばるのだ。

ツイているサイクルなのだから、かならず、結果はついてくる。自分を、というより、絶好調のサイクルを信じてしまうのである。反対に、モチベーションが下がったときは、力を発揮しにくいサイクルに入ったのだと考えればよい。

ものごとがうまくいかないのは、ツキのないサイクルのせいで、自分のせいではないと考えるのだ。それなら、気持ちはずっと楽になる。

この“思いこみ”のよいところは、人生のツキにはサイクルがあると信じるところにある。サイクルがあるのだから、悪いときは、そのうち、いいサイクルに変わるはずだとひたすら“待ち”に徹していればよいということになるわけだ。

ビジネスで大きな成功をおさめている人がやっていること

モチベーションが下がったときには、ジタバタせず、運気のサイクルがよいほうに変わるのを待っていればいい。ジタバタすればするほど、穴は大きく、深く広がっていくだけなのだ。

自分はいま、不調のサイクルなのだからと思うことにし、積極的な行動には出ないようにし、必要なことだけをたんたんとこなしていれば、それで十分だ。

もちろん、会社を休むわけにはいかないだろう。不調のサイクルのときは、与えられた仕事をいっそうていねいに、地道にやることに専念する。うっかりミスをすれば、さらに不調感が増幅してしまうからだ。

そうしているうちに、やがてサイクルは変わる。そうすれば、自然にパワーが満ちはじめ、好調から絶好調へとサイクルが変わっていく。

まわりを見まわしても、つねに勝ちっぱなし、常勝将軍だという人はまずいないはずだ。じっさい、実業の世界で大きな成功をおさめている人でも、話を聞くと、たいてい、信じられないような絶不調期を経験しているものだ。

いっけん常勝に見える人は、不調のサイクルには待ちに徹して、コツコツ地道に仕事をしながら、じっと力を蓄えている。そして、潮目が変わったとき、それまでの蓄えを一気に吐き出し、力を炸裂させる。そんな術に長けているのである。

もし、いまが、あなたの不調時だと思うなら、そのうちに、絶好調のサイクルが回ってくることをまず信じよう。そして、コツコツと目の前のやるべきことをこなしながら、潮目の変わり目を待つのである。

絶不調時に、なんとかしなければ、とジタバタすると、潮目の変わり目が訪れたとき、それを感知できなくなってしまうというマイナスもある。潮目が変わるまで、ジタバタせずに待てるか、待てないか。それしだいで、結果は大きく分かれてしまうのだ。

世間の価値観と一致することが“いい人生”ではない

一流大学を出て、有名会社に就職して、三〇代で年収一〇〇〇万円を目指す。“いい人生”とは、そういう人生だと思っている。そんな人がまだまだ多いようだ。

もちろん、そうした人生を否定するわけではないが、いい人生とは毎日が心地よく過ぎていくことが大原則だ。

これまでも書いてきたが、世間や社会の価値観は、無視していいわけではないが、それをそのまま、自分の価値軸にしてしまうと、どこかに違和感を覚えるポイントに突き当たることがある。

俳優の香川照之さんは、人もうらやむ東大卒。最近では東大在学生のタレントも珍しくないが、香川さんが俳優になるころは、「せっかく東大を出ているのに」という目がなかった、といえばウソになる。

東大を出て、一流会社に就職して、いいポストについて……。おそらく、香川さんの周囲でも、そういう期待は大きかったのではないだろうか。香川さんは、歌舞伎役者の市川猿之助さんと元宝塚のトップスターだった女優・浜木綿子さんのあいだに生まれた。幼いころ、両親が離婚。香川さんは浜さんの手元で成長した。

そういう環境だからこそ、東大に進学した自慢の息子が俳優になると言い出したときは、浜さんは相当悩み、なんとか、息子の俳優志望を変えさせる方法はないか、と親しい人に相談したらしい。

だが、香川さんは、自分を貫いて、俳優の道を選んで突き進んでいく。その本当の動機の底には、彼の東大コンプレックスがあったと知って驚いた。

学歴コンプレックスを抱えていた香川照之

あるとき、香川さんがテレビでこういっていたのだ。

「ぼくは、東大にいったことがずっとコンプレックスだったんですよね」

えっ? と驚く人も多いだろう。香川さんの話によると、母子家庭に育った香川さんは、小さいころから、周囲の期待や視線に敏感に応じてしまうタイプだったそうだ。「勉強をして、いい成績をとってくれば、周囲は喜ぶ」。そうした周囲の期待に応えていれば、ほめられ、喜ばれ、それなりに居心地は悪くない。

だが、香川さんは自分を押し殺して、まわりの目に応えてしまう自分が卑怯なような気がして、ずっと自分を許せなかったというのである。

一流大学、有名会社コースを歩むことにこだわり、それを実現した人のなかには、それ以外の視野をもてない人、それさえ満たせばよいと思っている人がいる。しかし、正直にいって、こういう人は、精神的に未成熟であることが多く、人間的に強く引かれることはむしろまれだ。

エリートが悪いといっているわけではない。価値観が硬直していることに問題があるのだ。こういう人は、自分の価値軸の基本が自分自身ではなく、世間や社会だから、もっとも気になるのは、世間や社会がどう思うか、ということだ。

その結果、たえず人の顔色をうかがっていないと安心できず、ちょっとしたことにも心が揺れ動いてしまう。

いつも平常心をもって生きていく。その原点は、自分の価値軸をしっかりもち、大事なことだけしっかり押さえ、それ以外のことは、どうでもいいと言い切ってしまう姿勢をもつことだ。

[フリーライター 菅原 圭]

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「1分に1回以上登場する"ある口癖"」菅首相の話し方が国民の不安・絶望感を増幅するワケ

2021年1月16日 12:00 PRESIDENT Online

首都圏1都3県を対象にした緊急事態宣言の再発令が決まった。コロナ対策で後手後手の感がぬぐえない菅政権への批判が出るのは必至だ。コミュニケーション・ストラテジストの岡本純子氏は「菅義偉首相は1月4日の約30分の会見内で39回も、語尾に『思います』『思っています』とつけた。自信のなさや責任逃れの印象を与え、人々の絶望感や不安を増幅している」と指摘する——。

菅首相は30分間の会見内で語尾に39回も「思います」とつけた

コロナ禍の拡大で、菅政権に批判が集中している。すべてが政治の責任というわけでもなく、誰が手綱を握っても難しい局面だ。しかし、この未曽有の危機下でわが国のリーダーの「伝える力」のお粗末さが、人々の絶望感や不安を掻き立てている。

ここで、単なる政権批判をするつもりはない。筆者は、これまで経営者や政治家など世界のリーダーのコミュニケーション術やスキルを研究し続けてきた。そんな「コミュバカ」の視点から、いくつか話し方の提言をしたい。これはリーダーのみならず、誰でもすぐに実行できるテクニックだ。

1月4日、わずか30分ほどの年頭の会見で、菅義偉首相が39回も繰り返した言葉がある。それは、「思います」「思っています」だ。

まず、スピーチの部分では、

・改めてコロナ対策の強化を図っていきたいと思います。
・不要不急の外出などは控えていただきたいと思います。
・国民の皆様と共に、この危機を乗り越えていきたいと思います。
・皆さんに安心と希望をお届けしたいと思います。
・その年が新たな成長に向かう転機となった変革の年であった、こう言われる年にしたいと思います。

数えると、17回。しかも、記者との質疑応答の中では、さらにそのペースが加速し、22回。ひとつの答えに7回も「思います」が使われているケースもあった。

「やってみるけど、できなかったら勘弁してね」というニュアンス

英語で言えば、I thinkと言い続けたということだろう。I think=私が思いますには……、I believe=私が信じているのは……と言った時点で、それは、「ファクト」=事実ではなく、単なる私見=「オピニオン」となってしまう。私見はエビデンスを持って実証できない。

この「思います」は、日本人がよく使う表現で、筆者がコーチングする企業のエグゼクティブの中でも、気が付かないうちに多用する人は少なくないが、ここまで頻繁に使う例はあまりない。

「強化を図ります」「控えてください」「危機を乗り越えます」「希望をお届けします」「こう言われる年にします」と短く強く言い切ればいいだけのことなのに、ついついワンクッション置いてしまう。癖なのかワザとなのかはわからない。聞く側は、丁寧さ・謙虚さを感じることもあるが、一方で、自信のなさ・責任逃れという印象を持つこともある。

「やりぬきます!」ではなく、「やりぬきたいと思います」では、真剣度が全く違う。前者は覚悟で、後者は「一応、やってみるけど、できなかったら勘弁してね」というニュアンスだ。

「非常に厳しい状況です」「心から感謝します」とシンプルに言わない謎

リーダーシップは語尾に宿る。だから、リーダーには言い切る勇気が絶対的に必要だ。筆者は常々、コーチング相手のエグゼクティブに口を酸っぱくして伝え、徹底的に、このクッション言葉を排除するよう指導する。

排除すべきは「思う」だけではない。

・非常に厳しい状況だと認識いたしております。
・心から感謝を申し上げる次第です。

というように直接的な表現を避けるクセを持つ人が多い。

「非常に厳しい状況です」「心から感謝します」とシンプルには言わないのは、スピーチ原稿を書く官僚特有のレトリックなのかもしれない。安倍晋三前首相の時も同様の表現が頻出したが、こうした回りくどさを排除しようと心がけるだけで、あっという間に話し方を変えていくことができる。

コミュニケーションにおいて大切なのは、「何を伝えるか」だけではない。「どんな思いを伝えるのか」がカギとなる。12月に上梓した拙著『世界最高の話し方』(東洋経済新報社)の中で、世界標準の話し方のノウハウを詳述しているが、政治家の場合、コロナ禍で国民の支持率を分けたのは、話す本人に共感力があったかなかったかということだった。

人々の気持ちに寄り添い、その苦悩を分かち合う姿勢を見せた指導者には支持が寄せられた。一方的に指示を出す「教官型」から、国民の感情を揺さぶる「共感型」へと、求められるリーダー像が変わってきているのだ。

菅首相は会見の中で、「皆さんの不安はよくわかる」「一緒に何とか乗り越えていきましょう」など、国民の思いに共感し、気持ちの伝わる言い回しはしなかった。一方で、緊張感をほぐそうとするのか、照れ隠しなのか、不必要に笑顔を見せる場面があった。

菅首相は言葉に真摯な「思い」を乗せているか

「言葉に体重と体温を」

これは衆議院議員・小泉進次郎氏が2016年に大学生向けの講演で語った言葉だ。言葉には真摯な「思い」を乗せる必要がある、というわけだ。父親譲りの”小泉流“のパフォーマンスはあまり感心しないが、菅首相はこの自民党の後輩の言葉だけは取り入れるべきかもしれない。

「思います」会見や、「思いが乗っていない」会見を量産してしまうのは、やはり菅首相本人に原因があると言わざるを得ないが、それ以外にも要因がある。内輪の記者だけを招いた「記者会見」方式だ。原稿を読み上げるだけのリーダーも問題だが、記者も用意した質問を読み上げるだけという「予定調和」では、緊張感も生まれない。

1月4日の会見で菅首相は「GoToトラベルの再開は難しい」「緊急事態宣言は限定的に、集中的に行う」などと述べた。だが、この重要なポイントは本来のスピーチの中で言及したものではない。記者から質問されて初めて出てきたのだ。質問されなかったら、言わなかった可能性もある。

「釈迦に説法」で心苦しいが、人に伝える時の最重要ポイントは、冒頭のスピーチにギュッと詰め込んでおくことだ。この際、記者を通じて間接的にメッセージを伝えるという形ではなく、直接、国民に訴える形のコミュニケーションを検討してはどうだろうか。

論語の「巧言令色鮮し仁」を今こそ噛みしめるべし

コロナ禍で、ドイツのアンゲラ・メルケル首相、イギリスのボリス・ジョンソン首相、フランスのエマニュエル・マクロン大統領、シンガポールのリー・シェンロン首相といった世界の首脳の多くはビデオメッセージなどを通じて、直接、国民に呼びかけるスタイルをとっている。

記者会見方式では、メッセージを届ける相手である国民とアイコンタクトをとることはできないが、本来は、相手の目を見て伝えるべきものである。

論語の中に「巧言令色鮮し仁(こうげんれいしょくすくなしじん)」という言葉がある。

巧みな言葉を用い、表情をとりつくろって人に気に入られようとする者には、人を思いやる心が欠けているという意味合いだが、残念ながら日本にはこうした価値観を持つ人が少なくない。

菅首相は「言葉よりも、実行である」と信じ、まじめに仕事をし、成果を出すことで国民に報いたいと考えているのかもしれない。しかし、国難において為政者に求められるのは、実行力だけではない。ウィンストン・チャーチル元英首相しかり、フランクリン・ルーズベルト元米大統領しかり、しっかりと国民に向き合い、対話をし、納得させるコミュ力なくして、リーダーシップは発揮しえない。

ボールを投げずに、念力だけでキャッチボールをすることはできない

コミュニケーションはリーダーとしての資質の根幹であり、それをおろそかにするものはリーダーとしての資格がないに等しい。だが、この自覚があるリーダーが経営者も含めて、日本には少ないのも事実だ。

菅首相は自分の信念を強く持ち、特にコミュニケーションに関しては、周囲の提言を聞かないタイプという評判も聞こえてくる。もしかしたら、話し方を変える自信がないのかもしれないが、話し方は才能ではない。正しいやり方さえを学べば、何歳からでも、必ず、簡単に変えられるものだ。

ボールを投げずに、念力だけでキャッチボールをすることはできないし、無作為に投げたい球だけを放られても、受け止めきれない。どういった球、どういった投げ方なら相手のど真ん中に届くのか、頭をひねり、心を通わす地道な努力を続けていくほかないのである。

[コミュニケーション・ストラテジスト 岡本 純子]

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金融マンの「年金は破綻します」を信じて投資家デビューした老夫婦の末路

2021年1月14日 08:00 PRESIDENT Online

どうすれば定年後の資産を増やせるのか。経済コラムニストの大江英樹氏は「退職金を使って投資を始めるのはリスクが大きくおすすめしない。定年後の投資は儲けを考えないほうがいい」という――。

※本稿は、『定年前、しなくていい5つのこと 「定年の常識」にダマされるな!』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

金融営業マンの「年金は破綻しますよ」は本当か

年金不安を煽る報道に惑わされてはいけないというお話をしましたが、年金不安を煽るのはマスコミだけではありません。金融機関の営業マンも同様に「年金は破綻する」と訴えかけてきます。でもそれは彼らの商売を考えたら当然です。

彼らにとって、年金は破綻してくれないと困るのです。なぜなら老後の年金をあまり心配しなくてもよいというのであれば、彼らが販売する金融商品はあまり売れなくなってしまうからです。

私自身、証券会社で長年仕事をしていましたが、正直に言うと、今から30年ぐらい前に現場の第一線で営業をやっていた時には、「年金なんて当てになりませんよ。いずれ破綻するかもしれない。だからそれに備えて投資信託を買いましょう」と言ってお客さんに勧めていました。

でも破綻するどころか、当時から年金の積立金は倍以上に増えています。

とはいえ、マスコミが不安を煽る上に、金融機関のセールスから言われると、誰でも不安を覚えるのは当然でしょう。特に定年が近づいている人にとっては、リタイアした後の生活というのは未知の世界ですから、余計に不安が昂(こう)じてくるのは致し方ありません。

「退職金投資デビュー」はリスクが大きすぎる

特に年金2000万円問題によって、焦って「何とかしなきゃ」と考える人はさらに増えたと思います。事実、知り合いの証券会社の人たちに聞くと、昨年後半は新規に口座を開設して取引を始めた人は非常に増えたと言います。

もちろん、将来に備えて自助努力の必要性を感じ、自分自身の判断で投資を始めるということは決して悪いことではありません。しかしながら、若い人であればともかく、それまで投資の経験の無かった人が定年を迎えて、「年金が不安だから」という理由だけで深く考えずに投資を始めるのはあまり感心しません。

特に、もらった退職金を投資につぎ込む、いわゆる「退職金投資デビュー」だけは、絶対にやってはいけません。なぜならあまりにもリスクが大きいからです。

実は「退職金を余裕資金だ」と勘違いしている人は少なからずいます。サラリーマンにとっては、毎月決まった給料日にお金が振り込まれ、それが生活資金になっています。

そんなところに生涯で唯一のまとまったお金を受け取る機会である退職金が振り込まれたら、それは余裕資金であると勘違いしてしまうのは無理もないことでしょう。

でも本当はそれは余裕資金などではなく、老後の生活をまかなうための大切な資金なのです。なぜなら、定年後はそれまで毎月振り込まれていた給料は無くなるからです。

未経験者の9割は投資に失敗する

投資の経験も知識も、そしてリスクを取る覚悟もない人が「これは余裕資金だ」と勘違いして投資につぎ込むのはあまりにも危険過ぎます。もし失敗して退職金が半分などになってしまったらこれは本当に大変です。

2012年以降は基本的には株価も順調に推移してきたので、そんな心配は無用と考える人も多かったでしょうが、2020年に入ってからのコロナショックの時には、退職金で株式にまとまった資金を投資した人は、かなり肝を冷やしたのではないでしょうか。

私は投資の経験のない人が株式投資を始めた場合、おそらく9割以上の確率で失敗すると思っています。その理由は二つあります。

①投資を甘く見ている

長年サラリーマンとして真面目に働いてきた人の中には、「株なんて博打(ばくち)だ」とか「株の儲けは不労所得だ」と考えている人がいます。それは決して正しくないのですが、そういう人がずっとそう思い続けて株式投資をしないというのであれば、それはそれでよいのです。

問題は、退職金というまとまったお金を手にして少し欲を出して投資を始めようとする人です。そんな人は投資を安易に考えがちなのです。

しかし投資というものは、何も勉強しないままでうまくいくほど甘いものではありません。最初はビギナーズラックで儲かったとしても、いずれどこかで必ず行き詰まり、大きな損をする可能性は高いと思います。

だいたいの人が投資で冷静さを失う

②感情の制御ができない

投資がうまくいかない最大の原因は、感情に動かされてしまうことです。「なーに、株なんて簡単だよ。下がった時に買って、上がった時に売りゃあ儲かるんだから」と言う人がいますが、実際にやってみるとそんなに簡単ではないことに気が付くでしょう。

下がった時に買うべしというのは正しいのですが、ほとんどの人は下がるとうろたえてしまい、場合によっては売ってしまいます。逆に上がった時には冷静になって売った方がよいケースも多いのですが、嬉しくなって買い増しをしてしまう。

投資は自分の感情との戦いであり、いかにそれを制御するかが重要なのです。それを理解しないまま安易に投資を始めると、必ず失敗します。

私は投資をするのなら、できるだけ少額で若いうちから少しずつやるべきだと思っています。少額であれば失敗してもダメージは小さいですし、小さい失敗を繰り返すことで、投資を学ぶことができるからです。それに若いうちであれば失敗したとしても、また働いて稼げばリカバリーすることはできます。

ところが、定年退職者が投資で失敗をしてしまうと、取り返しがつきません。だからこそ、「退職金投資デビュー」は絶対やってはいけないことなのです。

とはいえ、定年後に投資を始めたいと考える人は一定の割合でいるでしょう。ではそういう人はどうすればいいのか?

投資は別に儲からなくてもいい

退職金投資デビューはやってはいけないとお話ししましたが、退職した人が投資をしてはいけないわけではありません。一度にまとめて退職金を株式投資などにつぎ込むことを避けるべきなのであって、投資そのものが悪いということではないのです。

それに、投資は別に儲からなくてもよいのです。こう言うとおそらくみなさんは「え、どうして? だって投資は儲けるためにやるんでしょ」と思うはずです。その通り、たしかに投資は儲けるためにするのです。ただ、忘れてはいけないのは、儲けを得ようとすると必ずリスクが伴うということです。

ここで言うリスクとは「結果が不確実であること」を指します。すなわち、「投資をした結果、儲かるか損するかはわからない、そしてたくさん儲けたいと思ったらたくさん損する可能性も同じようにあるということを忘れてはいけない」ということです。

どれぐらいリスクを取れるのかは人によって異なります。定年になった時に金融資産を数億円も持っていて、退職金は純粋に余裕資金だという人であれば、それなりにリスクを取って儲けることにチャレンジしてもいいでしょう。でもそんな人はほとんどいないはずです。

重要なのは「購買力」を維持すること

だとすれば、定年退職者が投資をするにはどういう考え方でやればいいのでしょうか。

その答えは「購買力を維持するために投資をする」ということです。購買力を維持するというのは将来物価が上がってもお金の値打ちが下がらないように、せめて物価上昇並みにはお金を増やそうということです。

そもそも高齢者にとって、必要なのは「お金そのもの」ではなく、どんな状況になっても自分の欲しい物やサービスを手に入れることができること、すなわち「購買力」だからです。

正直言って日本の場合、過去20年ぐらいはずっとデフレの時代が続いていましたから、お金の値打ちが下がることはありませんでした。でも今後もデフレが続き、インフレにはならないという保証はありません。

もしインフレが来たとしても、公的年金の場合、基本は物価や賃金と連動しますから大丈夫ですが、自分の持っているお金は何もしないと価値はどんどん下がっていってしまいます。

だからこそ、定年退職者にとって必要なのは「大きく儲けるためにリスクを取る」ことではなく、「購買力を維持するためにお金を運用する」ということなのです。

買うべきなのは「個人向け国債 変動10年」

では、具体的にどうすればよいのでしょうか?

実はこれについても、「自分がどれぐらいリスクを取れるのか」によって方法はまったく異なってきます。まったくとは言わないまでも、あまりリスクを取れないという性格の人であれば、株式や投資信託ではなく、国債を買っておくべきです。

ただし、普通の国債ではだめです。今のような金利の低い時に買ってしまうと、今後もずっと低いままの金利しか受け取れないからです。

したがって買うべきなのは、「個人向け国債 変動10年」という変動金利型国債です。物価が上昇するようになると多くの場合、多少の時間的ズレはあったとしても金利も上昇します。したがって、この「個人向け国債 変動10年」であれば、将来物価上昇、金利上昇が起こったとしてもある程度対応はできます。

本当は「物価連動国債」が一番よいのですが、残念ながらこちらは個人が小口で買うことができません。「個人向け国債 変動10年」であれば、最低1万円から1万円単位で購入が可能です。

金利は年0.05%ですから低いですが、元本は保証されていますし、1年経てば解約も自由ですから、リスクを取らずに(ということは儲けることをあきらめて)資産を守るのであれば、これが実質上一番よいと思います。

「いつ何を買えばいいか」を考えずに済む方法

一方、多少なりともリスクを取れる人、あるいはリスクを取れる一定額までのお金がある人であれば、国際分散投資ができる投資信託を毎月一定額で積み立てながら購入していくのがよいでしょう。

投資で悩ましいのは「何を買えばよいか」そして「それをいつ買えばよいか」ということです。でも投資が職業や趣味という人であればともかく、ごく普通の人がこれらを調べるために時間を費やすということはなかなか難しいでしょう。

それに、時間をかけたからといって必ずうまくいくという保証はありません。それならこの2つを考えなければいいのです。

つまり、何を買えばいいかわからないなら、世界中の株式市場に投資をする国際分散投資型の投資信託を買う。いつ買えばいいかタイミングがわからないのであれば、タイミングを考える必要はありません。それを毎月定期的に積み立てで買えばいいのです。

このやり方が一番よいかどうかはわかりませんが、少なくとも自分で投資対象とタイミングをあれこれ考えて気を揉みながらやるよりは安定した収益は得られそうです。

少額でもいいから国際分散投資ができる投資信託を買うべき

たとえば図表1をご覧ください。これは過去30年にわたって毎月1万円ずつを積み立てながら、国際分散投資のできる投資信託を購入し続けていればどうなったかの図です。

30年間では3.54倍、2012年からの6年間でも1.42倍になっています。これは2018年9月末までの積立投資の結果なので、現時点(2020年11月)ではさらに増えているでしょう。

いずれも大儲けではありませんが、少なくともこの間の物価上昇をはるかに上回る結果になっています。やはりそれなりに一定の効果はありそうですから、資産の一部をこうした国際分散投資に振り向けるのも決して悪くはないと思います。私も2012年に退職して以降、ずっと積み立てで国際分散投資を続けています。

このように、定年後の投資は儲からなくてもいいのです。焦ってリスクを取り過ぎるようなことは避けるべきでしょう。平均寿命を考えた場合、定年後も20~30年の人生があることを思うと、ゆったりと積み立てしながら投資をするだけで十分だろうと思います。

[経済コラムニスト 大江 英樹]

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「なぜ大塚家具は失敗したのか」お客は安ければ喜ぶワケではない

2021年1月14日 08:00 PRESIDENT Online

なぜ大塚家具はビジネスモデルの変更に失敗したのか。東大在学中に起業し、現在年商10億円の企業を経営する事業家bot氏は「非合理な意思決定をしても顧客の満足度は下がらない、ということを知るべきだ」という――。

※本稿は、事業家bot『金儲けのレシピ』(実業之日本社)の一部を再編集したものです。

なぜ大塚家具は失敗したのか

2015年以来、お家騒動が続き大きく業績を悪化させ、企業価値を毀損してしまった大塚家具。

後継社長となった創業者・大塚勝久氏の娘である大塚久美子氏が志向したビジネスモデルの変更は、ざっくり言うと、高価格帯から中価格帯への変更と、会員制の廃止であった。

私もかつて親に連れられて台場の大塚家具に行き、親が数十万円の家具を買う(買わされる)のを観察したことがあるが、販売員が最初から最後まで横について、いかに大塚家具の商品が素晴らしいかを力説しつつ営業するという仕組みであった。

即ち、大塚家具の強みは、

・会員制によるプレミアム感の演出
・会員制を前提とした密着営業
・結果として高価格帯の家具が販売できる

というビジネスモデルであった。

つまり、大塚家具は「家具屋」というよりは「高級有形商材販売業」といったほうが適切なビジネスモデルであったわけである。

大塚久美子氏は一橋大学経済学部を卒業した才媛であり、恐らく優秀であったことは想像されるが、本質的な意味でのビジネスモデルの理解があったかどうか、私としては疑問である。

「まあまあ良くて、まあまあ安い」が一番ダメ

結局、久美子氏が目指したのが、「ニトリよりは高いが、これまでの大塚家具よりは安い」という非常に中途半端なポジションであった。

このような「真ん中です」のような立ち位置のビジネスで成功することはほとんどない。消費財を扱うビジネスにおいて、顧客に感じさせるバリューのポジションは、原則、「一番安くて、まあまあ良い」か「まあまあの値段だが、一番良い」の2種類しかないのである。

これまで、大塚家具は、カッシーナのような超高級家具は別にして、いわゆる汎用家具のマーケットの中で「一番良い」位置にいた。実際に一番良いかは別として、とりあえずそういうことになっていたのである。

そしてニトリが「一番安い」のポジションを取った。その状況の中で大塚家具が勝手に「安い」側に降り、「一番良いは誰かどうぞやってください」としてしまったわけである。しかし、「一番安い」という部分では圧倒的にニトリの方が「安い家具を作って売る」という部分で合理化されているため、同じ戦略で戦ったところで、家具を安く作る能力においては全く勝ち目がなかったのである。

損をしても顧客満足度が下がるわけではない

ビジネス本にはよく「相手に得をさせれば自分も得をする」という記述がある。これはもちろん真実の側面もあるが、一方でやや綺麗事に過ぎるようにも思う。

というのは、営業の局面を想定すると、同じ商品、例えば新築一戸建てを6000万円で売るか7000万円で売るかによって、差額1000万円が会社側の利益になるか顧客側の利益になるかはゼロサムゲームだからである。

つまり、個別の営業局面を想定した場合、当然ながら、なるべく相手に非合理な意思決定をさせ、会社がたくさん儲かるようにしたほうが有利なわけである。特に、取引の一回性が強いビジネスでは、リピートが想定されていないため、1人の顧客からなるべく多くの利益を搾り取るという方向性でビジネスを展開したほうが有利である。

また、非合理な意思決定をしたからといって、顧客の満足度が下がるかというと実はそうでもない。家であれば、家を買う理由や、あるいは、営業マンが信頼できそうかどうか、といった定性的なファクターのほうが顧客の満足度に対する寄与度が高いと考えられる。

店舗販売のほうが儲かる理由

この「非合理的な意思決定をさせる」ビジネスの代表例が「来店型保険ショップ」である(参考までに「来店型保険ショップ」の代表である「ほけんの窓口グループ」と、ネットショップの代表格「ライフネット生命保険」のビジネスモデルを比較したのが[図表1]である)。

冷静に考えると、保険の良し悪しなどネットで比較すれば一瞬でわかることである。

従って、「来店して人から説明を聞かないとよくわからないよ」という人は、ネットで情報を能動的に調べることのできない「情報弱者」が多数を占めると考えられる。

来店型保険ショップはたいてい、駅前の一等地にあり、それだけで大きく地代家賃がかかる。逆に言うと、その地代家賃をリクープできるような収益性がなければ、大規模展開ができないのである。会社の儲けは当然顧客に費用転嫁されているわけだ。

さて、その費用転嫁をどのように行うか。それは「来店型保険ショップ」では、中立を装いながらも、保険会社からのバックマージンが大きい特定の保険をゴリ押し販売しているのではないか? という疑惑が何度も報道されている。

実際、経営側からすると儲かる保険を売りたいに決まっているわけで、そうなるのは当然の帰結とも言える。

大塚家具のビジネスモデル転換の失敗からも学ぶことができるように、「ネットで売る」ことに対して「リアルで売る」ことの優位性は、「意思決定を捻じ曲げて儲かる商品に誘導することができる」ということなのである。

人に説明してもらわないと満足できない人たち

この背景にあるのは「機能的非識字」である。機能的非識字とは、簡単にいうと「文字自体は読めてもその内容を真に理解するまで読み解くことができない」という状態を指す。

つまり、書いてある文字情報だけで理解するということを、多くの人はできないのだ。言い換えれば、人から説明してもらわないとわからない人は非常に多いのである。

だいたい学校の授業は、先生が黒板に色々書きながら口頭で説明をし、それを理解するというものであるが、冷静に考えれば、普通に教科書を読めば5分程度で終わる話を45分とかかけてやっているのが日本の教育現場である。

「文字だけでは情報を正しく理解できない」というのは、センター試験の国語の平均点が(古文漢文も含まれているものの)、110~120点(6割)ということからもわかる。

日本人の大学進学率は50%程度だから、一応上位50%に入る学歴の人たちですら、センター試験の極めて基本的と思われる問いを4割も間違えているのである。日本人のうち大半の人間が、実は日本語をまともに運用する能力を持っておらず、人から説明してもらわないと理解できないため、「リアルで説明してもらい、わかりやすく噛み砕いてもらって、わかった気になって購入する」というニーズが発生するのだ。

意思決定への介入と孫ビジネス

以上のことからも、保険や高級家具などを売るときに、調子の良い営業が出てきて「この保険が良くて~」といった都合の良いことを言い、最終的に「この人良い人だったから」など、よくわからない理由で買ってしまうということにつながるわけだ。

結局のところ、悪徳系サブリース不動産屋や、押し込み系の証券会社などもそうだが、実はこれらは、「孫ビジネス」なのである。

仮に祖父母のところに可愛い孫が全然来ないとする。そこに孫くらいの年齢のツーブロックの兄ちゃんが来て、「おじいちゃん、肩揉みましょうか?」とか「おばあちゃん、なんか困っていることないですか?」などと言いながら、しばらくすると、「ところでこの土地なんですけど~」といって商品を売る。

ものすごく乱暴な言い方をするとすれば、このような高齢者の資産を狙うビジネスは、住宅や金融商品を売っているのではなく、「孫」を売っているのである。

「意思決定に介入できる」ことがリアル販売の強み

この「孫と話をしたい」という真のニーズを理解せずに「対面証券は手数料が高くて顧客に損をさせている」とか「アパートローンでサブリース組ませるのは明らかにおかしい」とか言うのは、100%間違っている。

孫の部分でお金を取ってしまうとフィクションが守れないので、住宅や金融商品など、別の部分でお金を取るというビジネスなのである。

これは接客にお金を払わずお酒に払うというキャバクラのような商売と、原則的には同じ構図である。キャバクラの場合は、疑似恋愛というフィクションを守るために代わりの飲み物にチャージするのだ。

こういったことを理解せずに銀座のクラブの水が高いとか、アパートローンは顧客に損だとか、お年寄りのための金融商品の手数料が高すぎる、と言う人がいるが、そんなこと言うのであれば、本物の孫が行ってあげるのが一番良いのである。リアルの孫がサボっているから、孫の代わりが出てきて、高齢者からお金を巻き上げていくのだ。

旧来の大塚家具にしろ、保険の店頭代理店にせよ、孫ビジネスにしろ、このように「リアルで売る」ということは、「人の意思決定に様々な形で介入できる」という強力なメリットが働くのである。逆に、拙著『金儲けのレシピ』にも書いたように、このような仕掛けを知っておくことが、消費者として自分を守るための知恵となるのである。

[経営者 事業家bot]

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「家族のために働く、安定の収入を得る…」実行すると幸福度が下がる意外な行動11

2021年1月14日 08:00 PRESIDENT Online

人生に大きな不満はないが、充足感がない。努力してもそれに見合った結果が得られない……。そんなモヤモヤを抱えている人は多いのではないでしょか。幸福学と起業家育成のプロがモヤモヤの正体に迫ります――。

※本稿は星 渉、前野隆司『99.9%は幸せの素人』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

誰でも自分にメリットがある選択がしたい

早速ですが、あなたに質問です。よろしいでしょうか?

あなたの家の近所には、産地も生産者も同じキャベツを「100円で売るスーパー『A店』」と「150円で売るスーパー『B店』」が隣り合っています。さて、あなたはどちらの店でキャベツを買いますか?

『A店』で100円のキャベツを買う?
『B店』で150円のキャベツを買う?

この選択に迷う人は、まずいないでしょう。

同じものであるならば、誰もが少しでも安いキャベツを買いたい。『A店』で買ったほうが50円も得するわけですから。

つまり、『A店』で100円のキャベツを買うことが、自分にとってメリットがある選択になります。人は誰でも「自分にメリットがある」選択をしたいと思って行動しています。

状況が変わると答えも変わる

はい、ここまでは問題ありませんよね? でも、少しだけ質問の状況を変えると、あなたの答えも変わるはずです。

あなたの家の近所には、産地も生産者も同じキャベツを「100円で売るスーパー『A店』」と「150円で売るスーパー『B店』」が隣り合っています。

あなたの目の前では、あなた以外の人が全員『B店』に入っていき、次々とキャベツを買っています。ついに『B店』のキャベツはもう残り1個。一方、『A店』には誰も入っていかず、キャベツは大量に残っています。

……さて、あなたはどちらのお店でキャベツを買いますか?

『A店』の100円のキャベツ? それとも、『B店』の150円のキャベツ?

人間の脳は自分の行動が正しい理由を探し正当化する

状況が変わることで、先ほどはまったく思いもしなかった「『B店』で150円のキャベツを買ったほうがいいのかな……」という気持ちが生まれたのではないでしょうか。実際にこの状況を目の当たりにしたら、『B店』の150円のキャベツを買ってしまう、という選択をする人も多いでしょう(たぶん、私もです……)。

そして人間の脳は、自分の行動が正しかった理由を探す方向に働き始めます。

・『B店』のほうが高いから安心できるキャベツのはず
・誰も入っていかない『A店』はなんか怪しいな
・『A店』に入ると近所から変な人と思われるから『B店』のほうがいい

……など、さまざまな理由を考え出します。

そしてそれ以降、自分の行動を正当化するために「『B店』で50円高いキャベツを買う」という行動を繰り返します。

その結果、いつのまにか“『B店』で50円高いキャベツを買うことが正しい”と思うようになるのです(本当は毎回、50円損する選択をしているにもかかわらず……)。

これを行動経済学では「不合理行動」と言います。

「頑張ってもうまくいかない」本当の理由

こうして人は、本当は自分にとって損をもたらす選択を“正しい”と思い込み、しかも、日々その選択を繰り返しながら過ごします。

「頑張って努力しても思うような結果や満足感が得られない」
「大きな不満があるわけではないが、なぜか人生に充実感がない」

日常のそんなモヤモヤも、このメカニズムのせいなのです(本当は毎回損をする選択をしているのですから、そりゃモヤモヤするわけです。自分では正しいと思い込んでいるけれど)。

自分が日々「正しい」と信じていることは、本当に100%正しいと断言できるのだろうか? あなたもきっと不安になってくるでしょう。

たとえば次のようなことを、いつのまにか正しいと思い込んでいませんか?

・家族のために一生懸命働くことは素晴らしいことだ
・安定した収入があるほうが安心する
・リスクを冒すような危険なことはしないほうがいいかな
・夢や目標が叶ったら幸せだ
・自分のことは後回しにして子供中心の生活を考えるのが大事
・お金よりも大切なことがある
・嫌なことがあっても常にポジティブでいることが大切だ
・自分に厳しくしたほうが自己成長できる
・嫌われる勇気があれば人間関係で疲れず、もっと楽になれる
・付き合う人は優しい人のほうがいい
・結婚しないよりも、結婚したほうが断然幸せ

いかがでしょうか?

実行すると不幸になる行動

でも、「本当はこれらのことを実行すると、あなたの人生での幸福度が下がる、つまりは不幸になることが科学的に判明しています」なんて言われたら?

「そんなはずはない!」とイラッとするかもしれません。

いや、もしかしたらあなたは、自分の意志をしっかり持ち、自分の幸せを実現できる“特別な人”かもしれません。

あなたがそんな特別な人かどうかを診断できる質問がありますので、あなたの答えを教えてください。

さあ、用意はいいですか?

【質問】
・ここにA、B、C、3つの箱があります。
・1つの箱の中には賞金100万円が入っています。100万円が入っている箱を見事に当てることができれば、賞金はあなたのものです。
・あなたは仮にCの箱を選んだとしましょう。
・どの箱が正解かを知っている司会者は、ハズレであるAの箱を開けて「Aはハズレである」ことをあなたに示しました。
・残ったのはBの箱と、あなたが選んだCの箱。どちらかに賞金100万円が入っています。
・ここで司会者があなたに「今なら、CからBに変えてもいいですよ」と言ってきました。
・さて、あなたは選択する箱をBに変えますか?

あなたの答えは?

9割の人が誤った決断をする

「自分にとってプラスになる選択=当たる確率が高い選択」とするのであれば、この質問に対しての答えは、「変える」が、あなたにメリットのある選択です。「変える」を選択した場合は、「変えない」という選択に比べて、100万円が当たる確率は2倍に跳ね上がります。「そんなバカな」と思いますよね。私がこれと同じように行った実験でも、9割の人が「自分の選択を変えない」と答えました。

「残された箱は2つだから、Bに変えてもCのままでも確率は1/2。それなら初志貫徹で、最初から自分で選んだCのままにしよう。うん、変えない!」

ほとんどの人たちがそう思ったのでしょう。

・2つのうちから1つ選ぶ時の確率は「どんな時も1/2」である
・意見が「ブレない」が大切だ

あなたはこれらを「正しい」と思い込んでいたのではないですか? そのせいで、まんまと賞金100万円を逃す確率が高い選択をしてしまったわけです。Bに変えたほうが当たる確率は2倍も高くなるのに……。

多くの人が正しい選択をできない

これは「モンティ・ホール問題」と呼ばれるもので、箱を10個にするとわかりやすくなります。箱が10個あって、1つの正解の箱を選ぶあなたの確率は1/10。残りの箱のどれかが正解である確率は9/10。つまりは、最初に選んだ箱以外の箱を選んだほうが当たる確率は高くなります。

これを3つの箱に置き換えると、あなたがもともと選んだ箱の正解確率は1/3。残りの箱が正解の確率は2/3ですから、CからBの箱に変えると、正解確率はあなたが最初に選んだ箱のままでいるより2倍も高くなるのです。

さて、もう一度、お聞きします。

あなたがこれまで「正しい」と思っていたことは、本当に全て正しい、つまりは、自分にメリットがあることだと言い切れるでしょうか?

知らず知らずのうちに、先ほどの質問のように「確率は1/2だ」という間違ったことを「正しい」と思い込んで、100万円を逃す選択をして生きてきたのかもしれません。

ここまでくると、少し雲行きが怪しくなってきましたね。

そう、私たちが「正しい」と思っていることが、実は私たちを苦しめていたり、私たちに損をさせているわけです。

この真実にほとんどの人が気づいていませんが……。

・あなたを苦しめている思い込み
・あなたの毎日の努力を台無しにしてしまっている思い込み
・あなたに損をさせている思い込み

を手放していきましょう。

先述の11項目の1つひとつは、我々の思い込みであって、続けると不幸になることが科学的な裏付けのもと明らかになっています。本書はそうした思い込みの誤りを手放すきっかけになることでしょう。

[作家、ビジネスコンサルタント 星 渉、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授 前野 隆司]

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サラリーマン投資家に大人気「インデックス投資」の見過ごされたリスク

2021年1月14日 08:00 PRESIDENT Online

低コストで長期、積み立て、分散ができることから、サラリーマン投資家に人気の「インデックス投資」。リスクはないのだろうか。農林中金バリューインベストメンツ最高投資責任者の奥野一成氏は「忙しく働く人たちの資産形成にとってインデックスへの積み立て投資は有力な選択肢だ。しかし、見過ごされがちなリスクもある」という――。

見過ごされているインデックス投資のリスク

「忙しいビジネスパーソンは、インデックス・ファンドを買え」は本当に正しいのか?

この問いに対して結論から言いましょう。

「正しい。ただしインデックスによります」

そもそもこの議論をするときには、インデックスとは何かということを解説する必要があるでしょう。

インデックスとは簡単に言うなら、株式市場全体の平均を示す指数のことです。例えば、日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)は日本株式の代表的なインデックスで、米国株式にはS&P500やNYダウ30種などがあります。これらのインデックスの値動きを見れば、市場全体の状況を大雑把に押さえることができます。

インデックスと連動した値動きを目指して運用される投資信託のことをインデックス・ファンドといい、さまざまなインデックスに連動した投資信託が販売されています。

例えばTOPIXに連動するインデックス・ファンドは、ニッセイTOPIXインデックス・ファンド(ニッセイ)、eMAXIS Slim国内株式(TOPIX)(三菱UFJ国際)など運用会社ごとに存在するのが普通です。これらのインデックスに連動する運用のことをパッシブ運用と言います。

運用会社は市場インデックスを模倣するようにポートフォリオをパッシブに(受動的に)作るだけなので、運用会社としての企業調査をする必要もなく、ポートフォリオマネジャーの投資判断が介在する余地はありません。

「アクティブはインデックスに勝てない」は本当か?

一方、運用会社の運用戦略、投資判断によって市場インデックスとは異なるポートフォリオ、リターンになるファンドを「アクティブ・ファンド」といいます。代表的なアクティブ運用会社としては米国のキャピタルやフィデリティが有名です。

それぞれの運用会社、ポートフォリオマネジャーの運用戦略、手法によってそれこそ星の数ほどのファンドが存在しますが、株式投資ファンドの場合は、運用者の企業選択スキルと売買スキルによってパフォーマンスが決定します。

ところで、「アクティブ・ファンドはインデックス・ファンドに勝てない」というストーリーを聞いたことがある人は多いと思います。チャールズ・エリスが「敗者のゲーム」でインデックスへのパッシブ投資の有効性を説いたのは40年前ですし、米国ではこれを裏付けるアカデミックな実証研究も多く行われています。

また、「完全に効率的な市場においては、すべての情報が瞬時に株価に織り込まれるので、誰かが市場を出し抜くことはできない。そのような世界においては、「市場ポートフォリオ」が理論上最も効率的である」という形而上的な説明がなされることもあります。

いずれにしてもアクティブ・ファンドの分が悪いようですが、日本株ファンドについて10年超などの長期間に渡るパフォーマンスで分析した実証研究はあまり見かけません。

今回の論旨とは無関係なので検証に紙幅を割くことはしませんが、どのような立場を取るにせよ、前提の異なる「誰か」の論説を鵜呑みにするのではなく、自分の頭で考えて納得できることが重要だと考えます。

「インデックスか、アクティブか」の前に考慮すべき“中身”

さて、冒頭の問いに戻りましょう。インデックス・ファンドによる運用は、昨今の個人投資家の間で一つの大きな流派を形成しています。

その論拠としてよく言われるのが、

「勝ち馬となるアクティブ・ファンドを事前に予測することはできない」
「アクティブ・ファンドは信託報酬(運用コスト)が高すぎる」

というものです。

それはそれで一理あるのですが、そもそもこの「インデックス VS アクティブ」という対立軸以前に考慮すべき重要な点があることを指摘したいと思います。

インデックス・ファンドであろうと、アクティブ・ファンドであろうと、個別株投資であろうと、結局あるポートフォリオのパフォーマンスは、その構成企業の株価パフォーマンスで決まります。

長期投資を前提に考えれば、インデックスなのかアクティブかという切り口の前に、そのポートフォリオの中身の企業群が価値を増大させるような企業群なのか、という切り口の方を優先するべきなのです。

日本の代表的インデックスの盲点

企業価値はその企業が将来にわたって紡ぎ出す「利益」の現在価値の総額です。株価は中短期的には市場における需給や相場変動に左右されますが、長期的には必ず企業価値を反映します。

つまり、長期的に株価が上がる企業とは、長期的に企業価値が増大する企業であり、その企業の競争優位性、成長性を背景として、将来的に利益額を持続的に増大させることのできる企業なのです。

その観点で日本の代表的なインデックスであるTOPIXの構成企業を見てみましょう。みなさんはTOPIXというインデックスの仕組みを知っていますか?

これは東証一部に上場している全ての企業が「自動的に」含まれる世にも不思議なインデックスです。そもそもTOPIXの公表が始まった1968年当時、このインデックスは文字通り日本株式市場全体を表象する経済指標として作られたに過ぎず、パッシブ運用の投資対象ではなかったことに起因するのでしょう。

その当時、パッシブ運用そのものが日本には存在しなかったのです。

TOPIXは「選ばれている」企業群ではない

「世にも不思議な」と言ったのは、他国の代表的なインデックスはS&P500にしてもDAX(ドイツ株価指数)にしても、上場している企業群の中から業種、時価総額、市場での流動性などのなんらかの基準により「選ばれている」ものだからです。

その点TOPIXは、一度東証一部に上場してしまうと、上場廃止になるとか二部への指定替えなどがない限りはインデックスの中に残り続けます。

日本では企業を倒産させずに保護する傾向が強く、東証の上場廃止基準も極めて緩やかに運用されていることもあり、結果としてTOPIXにはダイナミズムが働きにくく、今では2200社近くもの企業が含まれています。

その時価総額平均値は3,040億円、中央値は432億円です。米国の小型株も含む代表的インデックスであるS&P1500の時価総額平均値25,172億円、中央値4,108億円と比べると、完全に小型株インデックスといっても過言ではありません。

東証一部上場企業全てが自動的に含まれる、というこのTOPIXの特性は、インデックス及びその構成企業のダイナミズムを著しく損ないます。

いったん東証一部に入ってしまえば、パッシブ運用隆盛の現在において機関投資家の8割以上を占めるともいわれるパッシブ投資家の投資対象として安泰の地位を手に入れることになり、株主からの企業価値増大プレッシャーから開放されるからです。

TOPIXは長期投資家にとって望ましいとは言えない

結果として、TOPIXに含まれている2,200社もの企業群の中には、企業価値増大にプライオリティを置かないような企業が相当数含まれているように思います。

だからこそ、時価総額が数十~数百億円のまま成長しない企業(株式市場では「小型」企業です)が多数存在していますし、上場時点が時価総額のピークという企業も散見されます。

このTOPIX特有の構造問題は数年前から東証内部でも問題視されはじめ、市場の構造改革の一つの題材として採り上げられてきました。しかし、どうしても上場基準問題と混同されがちで、投資家サイドからの声が届きにくく、本質的な問題解決には時間がかかりそうです。

結論としては、現時点においては、企業価値を毀損している企業が多く含まれるTOPIXは長期投資家にとって望ましいインデックスであるとは言えないと考えています。

もちろん、一部上場企業の中にも持続的に企業価値を増大できる企業が含まれています。世界を相手に戦っても全く遜色のない企業も当然にあります。

もし、日本企業に長期的に投資したいと思うのであれば、そのような企業を選ぶ必要があるでしょう。そうすることで長期に渡ってTOPIXを上回る投資成績をあげることも十分可能だと思っていますし、私は実際にこの10数年、アクティブ・ファンドのマネージャーとしてそれを実現してきました。

S&P500が11倍以上、TOPIXは0.7倍……

一方、米国の代表的インデックスであるS&P500はどうでしょうか?

このインデックスはS&Pグローバルというインデックス会社(NY市場に上場)が、NY市場およびNASDAQに上場している6,000社余りの中から時価総額、流動性を含めた定量的要素のみならず定性的な要素も加味した上で、中立的な委員会方式により選ばれた企業500社から構成されるものです。

そして、この委員会は定期的に開催され、年間20~30社程度の入れ替えが行われています。

もともと株主のプレッシャーの強い米国市場において、時価総額などの基準での競争を勝ち残った企業群がS&P500社で、常に入れ替えの脅威にさらされているわけです。企業価値増大を第一義に考えない企業はすぐにはじき出されてしまいます。だから20年前とは全く顔ぶれが異なるのです。

企業価値増大という切り口で日米の代表的インデックスであるTOPIXとS&P500を比較すると、S&P500が文字通りメジャーリーガーなのに比べて、TOPIXは世界的に活躍できる選手も一部含まれるものの、草野球の選手や往年の名プレーヤーも含めた混成チームとなっているように見えます。

結果としてこの30年間のリターンは以下のとおり、S&P500が11倍以上になっているのに対し、TOPIXは0.7倍にしかなっていません。

長期投資にとって最も重要なことは、ポートフォリオの構成企業群の企業価値が持続的に増大するかどうかであり、アクティブ、パッシブの選択はその後、ということになると思っています。

本業に忙しいビジネスパーソンが長期的な資産形成に取り組もうとするとき、インデックスへの積み立て投資が有力な選択肢であることには私も同感です。

ただし、TOPIXにように価値増大に関して構造的に問題がある指数を投資対象としてしまうと、時間の経過とともに価値が失われていたということになりかねません。

バフェット氏が言う通り「やる価値のないことはうまくやっても価値はない」のです。

最も重要なのは、長期的に価値が増大する企業が含まれているか

長期的に「価値」が増大するものであれば、その中で何を選ぶのかは趣味の問題です。

私自身はアクティブ・ファンドのマネージャーとして米国株にも投資をしていますので、当然ながらS&P500に勝つつもりで仕事をしていますし、現にここまでのファンドの運用成績はS&P500を上回っています。

そして、S&P500という強いインデックスにも一つだけ弱点があると考えています(図6のチャートにもこの弱点が表れていますので、是非考えてみてください)。

更に、アクティブ投資に取り組むことは、皆さんにとっても学びになり、本業との美しいシナジーが得られると考えています。「会社に使われる日々から脱し一つ上のステージに行きたいビジネスパーソンは、アクティブ投資をしろ!」というのが、私の主張です。

[農林中金バリューインベストメンツ常務取締役兼最高投資責任者(CIO) 奥野 一成]

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「肉をたっぷり食べて97kg→78kg」我慢なしで痩せた44歳の鉄板レシピ

2021年1月14日 08:00 PRESIDENT Online

作家の金森重樹氏は、糖質を極力排除する代わりに脂質をたっぷりと摂る「断糖高脂質食ダイエット」を編み出した。会社員のキヒロフさん(44歳)も、“金森式メソッド”で3カ月で19kgの減量に成功した一人だ。キヒロフさんは、「大好きなお肉は毎日食べても飽きないので、頑張っているという感覚がまったくありませんでした」という――。

※本稿は、金森重樹『ガチ速“脂”ダイエット 極上レシピ大全』(扶桑社)の一部を再編集したものです。

100kgの大台を目前にして、いよいよ危機感を抱き…

糖質をできるだけカットし、ゼロに近づける断糖。そして代わりに脂質をたっぷりと摂る高脂質食。このふたつを基軸とした断糖高脂質食の入門書として『運動ゼロ空腹ゼロでもみるみる痩せる ガチ速“脂”ダイエット』(以降、『ガチ速』)を2020年7月に出版した。

このメソッドでたった3カ月で19kgもの大幅な減量に成功し、衝撃のビフォー・アフターがSNSで話題となり、フジテレビ系列のテレビ番組「ウワサのお客さま」に取り上げられた人がいる。キヒロフさん(44歳)だ。

「仕事柄、接待の食事会が多く、締めはもちろんラーメン。不摂生な生活を続けていたら、気づけば体重は97kgにまで増加。100kgの大台を目前にして、いよいよ危機感を抱きました」

そんなキヒロフさんと断糖高脂質食ダイエットとの出会いは、SNSだった。

「もともと投資に興味があり、勉強のために投資家・金森さんのTwitterをフォローしていました。そこで、金森さんがダイエットのツイートをしているのが目に留まったのです。『投資と同じように、ダイエットでも緻密なロジックを組んでいるに違いない』。そう思ったのが、断糖高脂質食ダイエットを始めたきっかけです」

しかし、キヒロフさんはすぐには実行に移さなかった。理由は?

キヒロフさん(44歳)
ʼ76年生まれ、関東在住。営業職の会社員。Twitter(@95kg_online)は、ローストビーフやテリーヌなど、主に肉を扱ったオリジナルレシピを投稿する人気アカウント。

2週間に1度、肉をキロ単位で買い出し

「『納得するまで始めない。始めたらよそ見をしない』を信条にしており、まずは知識を身に着けるところから着手しました。金森さんのツイートや実践者の証言、関連記事などを1カ月かけて読み込み、メリット・デメリットをきちんと理解してから徐々に実践へと移行していったのです」

図表1の体重増減グラフを見てわかるように、断糖高脂質食に切り替えてから体重はみるみる減っていき、わずか3カ月で97kgから78kgへの減量に成功。驚異のマイナス19kgを達成した。

基本的に食事は自炊で、食材の調達にはコストコを有効活用しているというキヒロフさん。

「スーパーでちまちま買うのは面倒なので、食材は2週間に1度、コストコでまとめ買いをしています。スーパーに行く回数を少なくすることで、ムダな誘惑も減らせる。よく買うのは豚バラブロックや豚肩ロース。牛ならステーキ肉やバーベキューセットで、いずれもキロ単位。あとは、3Lのオリーブオイルなどです。車から家までの搬入には、ウーバーイーツのカバンが便利です。僕の住んでいる地域はウーバーイーツの宅配範囲外なので、ものすごく目立っていますが(笑)」

そんなキヒロフさんの一番のダイエット食は、好物でもある肉がメインだ。

「主食はお肉で味付けは塩や魚醬、香り付けはハーブ……と、食べるものを決めてしまうと楽。ステーキやベーコン、変わり種だと雲白肉(ウンパイロウ)など、そのとき食べたいものを食べるので苦ではありません。一番よく作るのは、パンチェッタ。そのまま食べるもよし、塩気が強いので調味料感覚で他の食材と合わせるもよし。使い勝手がいいので大量に作り置きしています」

付き合いの誘いは理由も言わずに「医者に止められている」と断る

やむを得ず外食をする際にも、ルールが設けられている。

「外食だと何が入っているかわからないので、行きつけのお店をつくっています。たまたま同級生で魚の卸と食堂をやっている人がいて、そこで刺身定食ご飯抜きを頼むのが定番。そのお店は毎朝、豊洲で魚を調達していて自炊ではマネできないのがイイ。たまの息抜きに最適です」

とはいえ、サラリーマンという仕事上、付き合いも多く、100%実践するのは難しい。

「一番効果があるのは、理由も言わずに『医者に止められている』と言うことですね(笑)。でも、年齢とともに立場も上がり、どうしても断り切れないことが。リバウンドこそしていないものの、体重の減少も多少打ち止め感があります……」

そんなキヒロフさんが、断糖高脂質食を続けられるモチベーションはなにか?

「もともとそこまで糖質に執着がなく、付き合いで白米を食べてしまっても『また食べたい』と思わないのが功を奏しています。大好きなお肉は毎日食べても飽きないので、頑張っているという感覚がまったくありません。好きなものを好きなだけ食べて、健康になる。断糖高脂質食ダイエットは僕にぴったりのダイエット法だったのです」

キヒロフさんのガチ速POINT
1.まずは理論を徹底的に頭に叩き込み、メリット・デメリットを理解してから実行に移す
2.コストコなら安く大量に食材調達が可能。近くに店舗があるなら積極的に活用すべし
3.パンチェッタなど保存の効く料理を作り置き。やむを得ず外食する際は行きつけの店で

満足感たっぷりのハンバーグレシピ

さて、ここで断糖高脂質食ダイエットにぴったりな「チーズインビーフハンバーグ」のレシピをご紹介します。

『ガチ速』で好評だった「牛脂たっぷり肉巻きハンバーグ」ですが、脂質の大量摂取に慣れていないビギナーの方からは「脂っこくて食べきれない」というご意見をいただきました。

そこで今回は牛脂を少し減らし、そのぶんカマンベールチーズを加えました。満足感はそのままに、香りもクセが少ないカマンベールによって、より牛肉のワイルドな旨みを味わえます。チーズはトロッとするカマンベールがオススメですが、もし他のチーズにしたければ加工されたプロセスチーズではなく、必ずナチュラルチーズを選びましょう。

【材料】(2個分)
●牛ひき肉……200g
●牛脂(粗みじん切り)……50g
●塩……小さじ1/3(肉の重量の1%)
●カマンベールチーズ……2ピース
●オリーブオイル……大さじ1
●目玉焼き……1個

【作り方】

1.ボウルに牛ひき肉、牛脂、塩を入れて、粘り気が出て白っぽくなるまでよくこねる。
2.1を2等分してカマンベールチーズを包み、空気を抜きながら成形する。
3.フライパンにオリーブオイルを入れて中火で熱し、ハンバーグを焼く。両面に焼き色をつけたら水(分量外・大さじ2)を入れ、蓋を閉めて3分ほど蒸し焼きにする。
4.ハンバーグがふっくらとして、竹串をさして溢れた肉汁が透明になっていたら、フライパンから取り出す。
5.皿に盛って、目玉焼きを乗せる。

これから断糖高脂質食に切り替える方も、「何も食べられるものがない」「食の楽しみがない!」と挫折してしまった方も、ぜひこのレシピを試してみてください。食事を楽しみながら、運動いらずのダイエットは可能です。質的栄養失調を改善し、健やかに最短スピードで痩せられるということを、きっと体感していただけるはずです。

[行政書士・不動産投資顧問 金森 重樹]

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「失われた40年になりかねない」2度目の緊急事態宣言が残す禍根

2021年1月14日 08:00 PRESIDENT Online

2度目の緊急事態宣言が1都3県に出された。みずほ銀行チーフマーケット・エコノミストの唐鎌大輔氏は「1度目の緊急事態宣言よりも日本経済に与える影響は大きい。『失われた40年』につながりかねない構造変化が起こっている」という——。

抗しきれず再発出……早くも対象地域拡大への動き

1月2日、小池百合子東京都知事を筆頭とする1都3県の知事が政府に緊急事態宣言の再発出を要請したことに伴い、政府はこれを前向きに検討、7日付で再発出に踏み切った。

事前報道では政府・与党は再発出に否定的であり、仮に踏み切るにしても18日召集の通常国会で特措法改正案を取りまとめるのが優先だと言われていた。改正案をもって、休業・時短要請に応じない事業者への罰則規定を設け、感染症対策の実効性を担保することが優先という主張は論理的にも納得感があるものだった。

しかし、知事たちが独自に時短要請に踏み切り、またその傍らで菅義偉内閣の支持率低迷が報じられる中、抗しきれずに再発出に至ったという印象が強い。再発出を拒み続けても、知事たちは執拗に要請を続け、それが支持率を下押しする展開が目に見えていたので、宣言の要請をされた時点でもう勝負は決まっていたと言える。

話はこれで終わらないだろう。これまでのパターンに照らせば、恐らく1都3県に限らず、他の府県も緊急事態宣言を要請してくる可能性がある(早速、そのような動きは散見され始めている)。

これを拒否し続ければ支持率に響くだろうから、恐らく矢継ぎ早に宣言対象を広げる中で「宣言、全国一律へ」という見出しが目に浮かぶ。期間も2月7日までで終わるとは思えず、延長含みだろう。暗く、長い期間になることに備えたい。

企業・家計への禍根…経済の低迷をもたらす猜疑心

2度目の緊急事態宣言の発出という今回の決断は、日本経済に禍根を残すように思われる。昨年4月に出された1度目に比べて、その影響はあまりにも大きい。その理由を、これから紹介する経済指標で紹介したい。

昨年4~6月期の緊急事態宣言時にもさまざまな賛否はあったが、未知なるショックに対しては致し方ない面もあった。しかし、その後に感染が小康状態に入った夏および秋は「冬になったら感染者は増えるので、それに耐え得る医療体制作り(医療資源の最適配分)を急ぐ」という話だった。少なくとも多くの人はそう思って過ごしていたはずだ。

冬場に感染者数が新しい波を迎えるという展開は既定路線であり、そうした試練を「新しい生活様式」で乗り切るというのがウィズコロナ時代の新常態だと専門家会議も提起していた。

単なる感染症対策を生活様式と表現するのは大仰だと筆者は思う。しかし、そう言われた以上、多くのサービス事業者はコストを払っても地道な感染症対策を行い、営業を展開してきたはずである。

そうして頑張った結果が「感染者(厳密には検査陽性者)が増えたので店を閉めろ」という施策や2度目の緊急事態宣言の発出であるとすれば、民間部門(家計+企業)に強い猜疑心を植え付けてしまう恐れがある。

企業業績へのとどめ、冷え込む消費者心理

財務省「法人企業統計」で企業業績の動向に目をやると昨年4~6月期の大崩れから7~9月期は復調傾向が鮮明である(図表1)。

とはいえ、前年比マイナスである状況は変わらず、感染者の増加ペースが速くなり始めた10~12月は再び失速が推測される。今年1~3月期はこれにとどめを刺す格好になる。

もちろん、今回は時短営業が可能な点で前回宣言時とは異なるが、「20時閉店」という制限は人件費を筆頭とする営業コストを踏まえれば、「やらない方がまし」という判断もあり得るほど厳しいものだろう。そもそも時短営業措置は店内の人口密度を上げるだけで逆効果というまっとうな指摘もあったはずだが、これも考慮された様子はない。

なお、家計部門の心理にも悪化の兆しがある。1月6日、内閣府より発表された12月消費動向調査は、消費者態度指数(2人以上の世帯・季節調整値)が前月比▲1.9%ポイントの31.8%となり4か月ぶりに前月を下回った(図表2)。

2度目の緊急事態宣言を受け、恐怖心をあおる偏向報道は一段と強まるだろうから1月、2月は間違いなくもっと悪化するだろう。結局、消費者心理はコロナ以前の水準に到達せずに2番底を探りに行くことになる。当然、個人消費は出なくなる。

かかる状況下、日本全体で見れば病床が空いていても医療崩壊という言葉は毎日飛び交っている。それはなぜなのか。解決できない理由には何があって、どうすれば解決できるのか。その辺りの説明が尽くされていないゆえの禍根はどうしても残ってしまわないだろうか。

企業も家計も強まる「貯蓄が正義」という観念

禍根とは言い換えれば不信だ。為政者の政策対応への不信は景気の先行き不透明感と直結してくる。

先行き不透明感が強くなれば家計や企業の抱く消費・投資意欲は低下する。GDPの需要項目で言えば、個人消費、住宅投資、設備投資などが減少する話になる。

ラフに言えば、「不安だからお金を使わない」という判断が家計や企業にとって合理的なものと見なされやすくなる。

実際、あの米国でも貯蓄率が歴史的高水準で高止まりしている現状がある。長年、日本の企業部門の内部留保が多過ぎると揶揄(やゆ)されてきたが、今回のショックではそれが緩衝材となり大惨事に至らなかったというのは事実だ。

そうした「不幸中の幸い」とも言える「意図しないサクセスストーリー」があったところへ、さしたる判断基準もなく政治的駆け引きの中で私権制限が決定されるとすると、家計・企業部門の消費・投資意欲は中長期的に一段と抑制される懸念がある。

そうした「民間部門の貯蓄過剰」の傾向こそが物価や金利が低位安定する真因であり、世界的に進む日本化の震源なのである。

「失われた40年」につながりかねない

図表3は2020年7~9月期までの日本の貯蓄・投資(IS)バランスを見たものである。厳格な経済活動制限を経て、家計部門の貯蓄過剰は急増し、企業部門では貯蓄過剰状態が横ばいとなっている。

企業部門の貯蓄過剰が極端に増えていないのは、売り上げが立たない中でコストがかさんでいるため営業余剰(要は利益)が増えないからだ。いずれにせよ家計、企業を合計した民間部門全体では貯蓄過剰が急増している。

この貯蓄過剰を、政府部門が貯蓄不足になることで何とかカバーしているというのが今の日本経済の姿である。大きな貯蓄(供給)を掃くための借入(需要)が存在しないので、お金の値段である「金利」は必然的に上がらない。

日本経済は「失われた30年」を通じてそのような姿が維持されてきたわけだが、現状ほど極端な姿になったことはない。もちろん、2020年に出現した極端な姿は経済活動制限という特殊な政策の結果であり、永続性を期待するものではないかもしれない。

だが、今後も断続的に緊急事態制限やこれに類する措置が打たれるのだとすると、図表3に示す「ワニの口」のように開いた「民間部門の超・貯蓄過剰と政府部門の超・貯蓄不足」という構図が常態化するのではないかという怖さがある。それは「失われた40年」につながりかねない構造変化である。ちなみにこうしたISバランスの姿は程度の差こそあれ、欧米も同じ様相を呈している。

こうした世界では賃金はもちろん、物価や金利も上がりようがなく、ひたすら拡張財政とそれを支える金融緩和を頼りに経済活動を営む低体温の経済が展開される。

2回目の緊急事態宣言を受けて、「貯蓄という正義」という観念は一層強まるだろう。少なくとも2021年に到来する「次の冬」を無事に越せるまでは、そう考える家計、企業は多いはずである。(2021年1月7日時点の分析)

[みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト 唐鎌 大輔]

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コロナ重症化をいち早く察知…医師推奨「パルスオキシメーター」は一人に1つずつの時代だ

2021年1月14日 08:00 PRESIDENT Online

新型コロナウイルス感染症の重症化の目安となる血液中の酸素飽和度を測定できる「パルスオキシメーター」が注目を浴びている。麻酔科医の筒井冨美氏は「医療現場で患者の容態把握のための重要な医療機器で以前は1つ数万円以上しましたが、コロナ禍で数百~数千円になって家庭用にネットや家電店で販売されています」という――。

酸素飽和度とパルスオキシメーター

「パルスオキシメーター」という医療機器をご存じだろうか。ネットニュースやネット通販、書籍では下記のように“別名”で呼ばれることがある。

・サチュレーションモニター
・経皮的酸素飽和度計
・血中酸素測定器
・SpO2(エスピーオーツー)測定器

用語が入り乱れているが、これらはすべてパルスオキシメーターのことだ。

新型コロナウイルス感染症(以下コロナ)関連のニュースでは、「酸素飽和度90」といった表現がしばしば登場するが、この「酸素飽和度」の意味を正しく理解している人は少ないのではないか。

血液中には、酸素を体中に運搬するヘモグロビンという色素がある。酸素飽和度とは「ヘモグロビンの何%が酸素と結合しているか」を示す指標である。医学書などでは「SpO2(エスピーオーツー:パルスオキシメーターで測定した場合の酸素飽和度)」と記されることも多い。

健康成人の正常値は96~100%だが、喫煙者・高齢者・肥満者などは約2~5%低下していることが多い。そして90%以下となると「低酸素血症(ハイポキシア)」と呼ばれて、酸素投与などの治療対象となることが多い。

酸素を結合したヘモグロビン(酸化ヘモグロビン)は鮮やかな紅色であり、酸素を結合しないヘモグロビン(還元ヘモグロビン)は暗赤色となる。低酸素血症となった患者が「顔色が悪い」のは、暗赤色の還元ヘモグロビンが増えるために唇や頬などがくすんだ色調になるからである。

このヘモグロビンの「酸素の有無で色調が変化する」性質を利用して、光を透過させることによって酸素飽和度をリアルタイムに測定できる機器がパルスオキシメーターである。

従来は、わざわざ動脈から採血しないと測定できなかった(この場合はSaO2表記される)データが、簡便に得られるようになり、酸素飽和度は「血圧・脈拍・体温・呼吸数に次ぐ第5の生体サイン」とも言われている。ちなみに、このパルスオキシメーターは1974年に日本の医療機器メーカーである日本光電(本社:東京都新宿区)によって発明された。

開発者である青柳卓雄氏はコロナ第1波渦中の2020年4月に亡くなり、ワシントンポスト紙などで世界に報じられた。

コロナで注目「ハッピーハイポキシア(幸せな低酸素血症)」とは?

健康な成人が急に酸素飽和度が90%以下になるような低酸素血症に陥ると、通常は強い呼吸困難感に苦しめられる。医大生の実習でパルスオキシメーターを装着した後に「酸素飽和度が90%になるまで息を止めて」と指示しても、9割以上の学生は苦しくなって脱落してしまう。

ところがコロナ肺炎では、ウイルス感染によって酸素飽和度が70~80%のような重度の低酸素血症の状態になったにもかかわらず、患者が「息が苦しい」と訴えないことがある。そのため重症化の発見が遅れることが問題となっている。

この現象を科学雑誌『サイエンス』が「ハッピーハイポキシア(happy hypoxia:幸せな低酸素血症)」と呼んだことで世界中の医療関係者に知られることになった。

日本でも「自宅療養していたコロナ軽症者に医療機関が電話で容体を確認しても特別な訴えがなかったので特に警戒していなかったところ、その後に急変して死亡」というケースが報道されている。その陰には、ハッピーハイポキシアがあった可能性が指摘されている。

1000円未満のパルスオキシメーターも登場

「パルスオキシメーターは医学機器であり、安くても数万~数十万円」というのが2019年までの常識だった。ところが、コロナ禍で医療機器の製造開発が急速に進み、2021年正月にネット通販を検索すると医療機器認証を受けた製品でも数千円、アジア製の廉価版ならば数百円の製品が販売されている。数十グラムのポケットサイズが数多く販売されており、持ち運びも簡単である。筆者としては、医療機器認証を受けた製品をお勧めしたい。

測定方法もクリップのような機器で指を挟んで数秒待って、モニターに表示された数字(酸素飽和度と心拍数の2つが表示される)を読むだけであり、高齢者でも簡単にマスターできるだろう。離れて暮らす親へのプレゼントとしてもよいアイデアだろう。また、親から電話で健康相談された時も数値や変化を参考にすることができる。

家族に発熱患者が発生した場合、地域によってはパルスオキシメーターを貸し出しする施設もあるが、数に限りがある。よって、身内に高齢者や糖尿病患者がいるならあらかじめネット通販や家電量販店などで入手するといいのではないか。

パルスオキシメーター搭載のスマートウォッチも

また、2020年8月にはサムスンが「Galaxy Watch 3」で、9月にはアップルが「Apple Watch Series 6」で、いずれも「酸素飽和度と体温を自動測定できるスマートウォッチ」を発売した。後を追うようにアジア製の「酸素飽和度と体温を測定できる廉価版ウォッチ」が発売され、2021年正月現在では5000円未満の製品もネット通販されている。

どこに行くにしても「今日の体温」をチェックされる時代は当面続きそうなので、こういうスマートウォッチを使うのも悪くないかもしれない。

酸素飽和度がベースラインから急降下したら要注意

パルスオキシメーターを入手したら、まずは平常時に測定して、ベースラインの酸素飽和度を把握することが大切である。マニキュアのある指では正確な数値が出ないので、足指など何も塗っていない部分で測定しよう。また、寒冷地で指先が冷たい場合も脈が拾いにくいので、暖房やお湯などで指を温めた上で測定すると出やすい。

何らかの体調の変化を感じた場合、微熱であっても酸素飽和度をマメに測定し、「90%未満」あるいは「ベースラインよりも5%以上低下」がみられる場合には、「かかりつけ医師」「発熱外来」「保健所」などに電話して「受診すべき病院」などの指示を仰ぐことを強くお勧めしたい。

[フリーランス麻酔科医、医学博士 筒井 冨美]

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cat_11_issue_oa-president oa-president_0_urude7e8irjt_「和菓子はすべて独学」1日3000個売れる"カラフルおはぎ"が大阪で誕生するまで urude7e8irjt urude7e8irjt 「和菓子はすべて独学」1日3000個売れる"カラフルおはぎ"が大阪で誕生するまで oa-president 0

「和菓子はすべて独学」1日3000個売れる"カラフルおはぎ"が大阪で誕生するまで

2021年1月14日 08:00 PRESIDENT Online

大阪の「森のおはぎ」は最大で1日3000個のおはぎを売る人気店だ。店主は大阪芸術大学を卒業後、服飾デザイナーをしていたが、ふとしたきっかけから、おはぎ作りを始めた。フリーライターの川内イオ氏は「独学から生まれたのは、小ぶりで品のある、カラフルなおはぎ。これが道行く人たちの心をとらえた」という――。

※本稿は、川内イオ『1キロ100万円の塩をつくる 常識を超えて「おいしい」を生み出す10人』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。

行列のできるおはぎの店

大勢の人でにぎわう大阪駅から阪急電鉄宝塚線に乗り、25分。

岡町駅で降りると、そこにはのんびりとした空気が流れていた。駅前から豊中市役所まで続く、昔ながらの雰囲気の桜塚商店街。地方では閉店したお店ばかりのシャッター商店街が拡がっているけど、ここは小さなお店が肩を寄せ合い、地域の生活の場として息づいていた。

目的地は、商店街の一角に小さなお店を構える森のおはぎ。

ある日、たまたま手に取った『週刊文春』に「おはぎ春の陣」という特集ページがあり、いくつかのおはぎやさんが取り上げられていた。そのなかで、ひとめ惚れしたのが森のおはぎだった。小ぶりで品のある、カラフルなおはぎに惹きつけられた。

子どもの頃から今に至るまで、いわゆる普通のあんこと黄な粉のおはぎしか食べたことのない僕には、どんな味がするのか見当もつかなかった。

気になってググってみると、関西ではさまざまなメディアでたびたび取り上げられている行列のできる人気店で、豊中市にある本店のほか、関西一の歓楽街とも称される大阪の北新地にもお店を出していた。しかも、ひとりの女性が独学で始めたとある。

おはぎに行列⁉

北新地にも進出⁉

ますます興味が募った僕は、その女性、森百合子さんの話が聞きたくて、某日、大阪に向かったのだった。

その日は夏のような日差しで、商店街のアーケードを抜けると、気持ちのいい青空が広がっていた。スマホのマップを見ながら森のおはぎの店を探す僕のすぐ横を、ランニングシャツ姿のおじいちゃんが自転車で走り抜けていった。

訪問したのは月曜日で、森のおはぎの定休日。

森さんはお店の工房で、スタッフの皆さんとおはぎをつくっていた。

こんにちは! と挨拶をかわし、すぐ隣りのカフェへ。

白い割烹着のままの森さんに、「今も現場でおはぎをつくっているんですね」と尋ねると、「はい、そうです」とニッコリ微笑んだ。

大阪芸大卒・元デザイナーの女性店主

1979年、大阪で生まれた森さんは、父親の仕事の都合で小学生の頃、奈良市に移った。父親は建築関係で、建物の設計やプロデュースをしていたそうだ。母親は同じ会社で、建築物のパース(完成予想図)を描いていた。

森さんは長女で弟がふたり。家族で映画『ネバーエンディングストーリー』を観に行った後、みんなでカレンダーの裏側に自分が一番印象的だったシーンを描いた思い出があるという。家族でサーカスを観に行った時にも、同じようにカレンダーの裏に絵を描いた。

森さん自身は「絵を描くのが好き」「モノづくりが好き」という感覚がないまま高校生になったが、進路を決める時に母親から「絵、描くの好きなんやから芸術系に行ってみたら?」と勧められた。

それで、なんとなく芸術系の大学に進むための専門学校に通い始めると、あっという間に絵を描く楽しさに夢中になった。さすが、母親は娘のことをよく理解していたのだろう。

1998年、大阪芸術大学に入学。自宅から電車通学しながら、工芸科でテキスタイルデザインを学んだ。生地を染色したり、生地のデザインをしたり、繊維を使って立体的なオブジェをつくるような学科だ。

実はこの学生時代、おはぎづくりにつながるような経験をしていたが、それは学校ではなく、アルバイトしていた喫茶店の厨房だった。そこは和菓子と洋菓子、軽食まで出すお店で、森さんは4年間、厨房で寒天からあんみつをつくったり、シュークリームの生地を焼いたり、カスタードクリームを炊いたりしていた。

アルバイト先でお菓子づくりに熱中

そこである日、「同じ材料を使っているのにつくり手によってカスタードの味がぜんぜん違う」ことに気づいた。

クリーミーで甘さあっさりのものもあれば、固くて絞り袋に入れても出てこないもの、口のなかでべたーっとして甘ったるくなるものもある。なぜそうなるのか、どうやればおいしくつくれるのか、バイトながらも熱心に試行錯誤した。

「火加減が一番大事やったんかなあ。強火で炊くのが大事で、しっかり素早く混ぜるとクリーミーで甘さあっさりになるんです。そこで混ぜる手が追い付かないからといって弱火にすると、もたーっとする。人によってぜんぜん仕上がりが違うから、そのうち、クリームを舐めただけで、これは宮本さんのや、これは鈴木さんのやとわかるようになりました(笑)。自分が担当してうまく炊けた日には、大学の友達に『今日はおいしいカスタード炊けたわ』って報告してたみたいですね」

そのこだわりはおいしくつくるだけにとどまらず、盛り付けにしても、できる限りおいしそうに、かわいらしく見えるように気を使った。大学4年生の頃には最古参のアルバイトになっていたので、雑につくったり、適当に盛り付ける後輩にはしっかりと指導した。

「自分なりにすごくこだわり持ってつくってたんで、4年間、楽しかったですね」

大きな会社で働いて感じた疑問

ここまで真剣にお菓子づくりと向き合っていた森さんだが、「仕事にしよう」という感覚はなかったという。

特にこれがしたいという希望もないまま、周囲に流されるように就職活動を始めて、京都の寝具メーカーを受けたらたまたま採用されたので、就職。大阪の本町にデザイン室があり、テキスタイルデザイナーとして、そこで寝具の生地のデザインを考えたり、ベビー布団の柄を描く仕事をしていた。

この会社を5年で辞めることになったのは、いくつかの事情があった。

まず、繊維業界が不況になり、本町のデザイン室を京都の本社に集約することになったこと。自宅から京都に通うのは遠かったし、それなら京都に住もうという気持ちも湧かなかった。

自分の仕事を「歯車の一部」と感じるようにもなっていた。

会議で決まった内容を、その通りにデザインする。そこには創造力を発揮したり、工夫を凝らしたりする余白がなく、お客さんの顔も見えない。次第に「これって、お客さんが本当に喜んでくれてんのかな」という疑問が募っていた。

とはいえ、イチ社員にはどうすることもできないというもどかしさを感じていた。

その頃、同じくデザイナーをしていた彼と結婚したことが最後の決め手となり、退職を決意。2007年、28歳の時に大阪の岡町で新生活をスタートした。

そうだ、私はおはぎが大好きだったんだ

岡町に引っ越した後は、同じ繊維業界で週3日のパートタイムの仕事を始めた。

寝具メーカーから染色の依頼を請けて、適切な色を指定し、染色工場にオーダーするという会社で、働いていた寝具メーカーと一緒に仕事をすることもあったそうだ。

ところが、やはり繊維不況で週3日の仕事が週2日に減り、手持ち無沙汰に。そこで夫に「なんかできることないかな?」と相談したところ、話の流れでこう言われた。

「アルバイトとかではなく、パティシエとか自分でなにかしてみたら?」

パティシエ……確かに、アルバイト時代はお菓子づくりが楽しかった。「それならマカロンはどう?」と尋ねたら、首を横に振られた。

これはどう? あれはどう? といくつかアイデアを出しても、バッサリと切り捨てられる。当時、企画の仕事に携わっていた夫は、森さんの案にも妥協がなかった。

うーん、どうしたものか。ふと、仕事帰りにいつも、おはぎとわらび餅を買って食べていることを思い出した。夏の間はわらび餅、春秋冬は黄な粉のおはぎ。特にシーズンが長いおはぎは、どこのおはぎがおいしいか、いろいろなお店を巡っては食べ比べしていた。そうだ、私はおはぎが大好きだったんだ。

「おはぎやさんってどうかな? 自分が食べてて体に優しかったら嬉しいし、雑穀を使ったおはぎって良さそうじゃない?」

それまで、なにを言ってもピンとこなそうだった夫が、少し驚いた様子で言った。

「おはぎ、いけるんちゃう? もう明日からあんこ炊き!」

独学で始めたおはぎ作り

翌日、森さんは書店に走って料理本、レシピ本を何冊も購入した。実は、一度もあんこを炊いたことがなかったのである。その日から、毎日あんこを炊く日々が始まった。

それから、友人や知人、初めて出会う人にも「私、おはぎやさんするのが夢やねん」と伝えるようになった。それは、森さんの人生において、とても大きな変化だった。

「子どもの頃から、これがしたいっていうものがあまりなくて。基本的に流れに身を任せてる感じだったから、これがやりたいっていうものがある人とか、しっかりと自分を持っている人をみると、すごいな、羨ましいなと思ってたんですよね」

自分でも驚くほどはっきりと自覚した、「おはぎやさんをやりたい」という意志。この気持ちを大切にするためにも、恥ずかしがったり、躊躇したりすることなく、言葉に出すようにした。

するとある日、友人の知り合いで初めて会ったばかりの人から「イベントみたいな感じでおはぎ売ってみたら?」と言われた。

以前の森さんなら「やってみようかな」「やってみたいですね」と曖昧に答えていたかもしれないが、その時は「やります!」と即答。すると、とんとん拍子で心斎橋のカフェでイベントを開催することに決まった。

納得がいくまで試行錯誤を重ねる日々

スピーディーな展開に舞い上がった森さんだが、すぐに我に返った。

世の中に溢れているあんこと黄な粉のおはぎのイベントをしても、誰が食べに来てくれる? 食べたことない、見たことないおはぎをつくらなきゃ、誰も来てくれへん。帰宅した森さんは、それから思いつく限りのおはぎの案を書きだし、試作を始めた。

頭のなかであれこれ考える前に、手を動かした。見た目の目新しさだけじゃなく、あんこの味も研究を重ねた。

例えば、おはぎはあんこともち米にかなりの砂糖を入れるのだが、それはあんこを日持ちさせるため、もち米の柔らかさを保つためという理由がある。そういうつくり手側の都合ではなく、素材の風味や香りがいきる、自分がおいしいと納得できる甘さを出すために、試行錯誤した。

たくさんの人に来てもらいたいからと、夫婦でイベント告知のハガキ(DM)もデザイン。自分がいつも通っているショップに「私、おはぎのイベントしようと思ってて、DMを置かせてもらえませんか?」と訪ね歩いた。

イベントと路上販売で大人気に

2009年12月、初めてのイベント。自分で食べても「おいしい」と自信を持って提供できるおはぎを用意した。

定番のあんこと黄な粉に加えて、みたらし、くるみ、ほうじ茶など新作を加えた計8種類。どれもひとつ百数十円。雑穀を使い、甘さは控えめにして、彩りを鮮やかに。女性でも食べやすいようにと、赤ちゃんのこぶしほどの大きさにまとめた。

オープンと同時に友人、知人、たくさんの人が来て、200個用意したおはぎが見事に完売。そのうえ、DMを置かせてもらったお店の店員さんが森さんのおはぎを一瞬で気に入り、天神橋にあるカフェでイベントをしませんか? と誘われた。

もちろん、返事は「やります!」。

年が明けて1月31日に天神橋で開催されたイベントも、大盛況。320個のおはぎと、小さなどら焼き50個が売り切れた。この時もDMをつくり、それを置かせてもらったショップのスタッフさんが買いに来てくれた。

そこで今度は、神戸でアクセサリーを販売しているショップの店員さんから、「年に2回、マルシェやってるんですけど、出店してもらえませんか?」と声をかけられた。

まさに、数珠つなぎ。しかも、森さんはそのショップのアクセサリーが大好きで、結婚指輪もそこでつくったものだ。

そこのマルシェに出店できることが嬉しくて、新しいDMを持って夫婦で挨拶に行った。その時、もともと顔見知りだったショップの社長が、DMを眺めながらこう言った。

「目をつぶったらお店が見えるから、早くオープンしたほうがいいよ」

「お客さんと距離が近い仕事ってこんなに楽しいんだ」

お店はまだ先の話と思っていた森さんは、「ええ⁉」と驚いた。実は、店を開いたほうがいいと助言されるのは2回目だった。

最初にイベントした日の夜、関係者と打ち上げをした大阪・新町のバーのオーナーにも「雑穀使ったおはぎなんて、もう数年後には誰かにまねされるで。とにかく早く店出し。場所代とかいらんから、うちのお店の前で売り」と言われたのだ。

オーナーの言葉に背中を押され、「物は試し!」と、2010年4月から 毎週月曜の昼間にバーの店頭でおはぎの販売を始めた。

路上販売は、あらかじめ周囲に告知できるイベントと違う。買ってくれる人がいるのかなと不安と期待を抱きつつ、自宅でつくったおはぎをクーラーボックスに入れて電車で運び、店先に小さなテーブルを出して、販売を始めた。毎回4種類、60個以上のおはぎを持って行った。

昼間はそれほど人通りの多い場所ではなかったが、すぐに毎回完売するようになった。毎週買いに来てくれる人もいた。

「イベントってやっぱり知り合いが多いけど、路上販売のお客さんはほとんど知らない方じゃないですか。だから、自分がつくったものがこんな喜んでもらえるという反応を直に感じられて、すごく嬉しかったですね。お客さんにとっても、つくった人が売ってるってわかりやすいし。お客さんと距離が近い仕事ってこんなに楽しいんだなって思いました」

その4月の末に神戸のアクセサリーショップが主催するマルシェがあり、この時は父母、弟ふたりと家族総動員でおはぎを400個用意。それも飛ぶように売れていき、1時間半でなくなった。

実はこの時、まだ週2日のパートタイムの仕事を続けていたのだが、「ほんまに早く店をオープンしなあかんかな……」と考えるようになっていた。

背中を押した女将さんの言葉

店を開きたいと家族に話すと、父親や弟たちは応援してくれたが、母親だけは「ええ⁉ そんなんやめとき! 商売できんの? やったこともないのに!」と心配そうだった。

それでも森さんの決意は変わらず、それから急ピッチで準備を進めた。

店を開くためには、まず場所を決める必要がある。最初は大阪のなかでも繁華街に店を出そうかと考えていたそうだ。ただ、ひとつ百数十円のおはぎを売る店にしては家賃が高く、やっていける自信がなかった。

岡町在住の森さんは、地元の桜塚商店街にある行きつけの居酒屋で、女将さんに相談した。すると、「うちの前のお店、ちょうど空いたで。ひとりで始めるにはちょうどいい大きさや」。

灯台下暗し。考えてみれば、自宅から近いほうが楽に違いない。森さんはその物件に興味を持った。ただ、母親の反対だけが気になっていた。それを女将さんに打ち明けると、女将さんはこう尋ねた。

「今、自分の周りにいろんな人のパワーが集まっているように感じない?」
「感じます」
「それなら、今しかないわ。そういうことが人生で一度も起きない人もいるのよ」

この言葉に背中を押され、翌日、すぐに不動産屋に連絡して、物件を見に行った。その瞬間、「ここや!」と直感。その日のうちに契約することを決めた。

商店街に馴染んだ店……200個がわずか3時間で完売

お店のデザインは、「ちょっと変わったおはぎだからこそ、親しみのある風景にしよう」と考えた。古道具屋で仕入れた水屋箪笥を店先に並べ、扉には大正・昭和に使われていたゆらゆらガラスをはめ込んだ。

すると、外装、内装工事をしている時に、通りがかりのおじいさんが「懐かしいなこれ! 水屋やん!」と声をかけてきたり、レトロな雰囲気に惹かれた若い人が「いいですね、これ!」と話しかけてきた。

オープン前から下町の商店街に馴染んだようで、森さんはホッとした。

母親も、ここまで来たらもう後戻りできないと思ったのだろう。森さんが店先につるす品書きを頼むと、素敵に仕上げてくれた。看板は、金属工芸の作家になった末弟に頼んだ。

プレオープンは2010年7月1、2日。

両日、11時の開店前から大勢の人が並び、200個のおはぎが、わずか3時間で完売した。ひとりで販売を担当した森さんは、写真を撮る暇もないほどてんてこ舞いだった。

その数カ月前に知り合って以来、親しくしていた大阪・箕面(みのお)に本店を構える和菓子処「かむろ」の店主、室忠義さんは「ほら言ったやろ、売れてまうやろ! 人雇わなあかんで」と言いながら、開店祝いにレジを差し入れてくれた。

プレオープンの2日間、電卓で計算していた森さんにとって、大きな助け舟だった。

「すぐ閉まるお店」が話題になる

正式オープンは、7月7日。

この日はプレオープンよりも長蛇の列ができて、2時間で350個以上のおはぎとわらび餅が売り切れた。この勢いは、なんと4日間続いた。

当時、森さんは基本的にひとりでおはぎをつくり、お店を運営していたので、おはぎがなくなると店じまい。オープンから1週間もすると「すぐ閉まるお店」と言われるようなった。

「この頃は、もうむちゃくちゃでした。11時から店を開いたらすぐに売り切れて、店を閉める。午後は16時からで、それまでに必死でつくるんですけど、すぐにまた売り切れて、その日は閉店。営業が終わってから次の日の分を仕込んでましたけど、もう時間足りひん! ってなってました」

「すぐに閉まるお店」はあっという間に話題を呼び、立て続けにテレビに取り上げられて、さらにお客さんが押し寄せてきた。

いくらつくってもおはぎが飛ぶように売れていくので、夫も自分の仕事を終えた後に自宅であんこを炊いて、必死にサポートした。森のおはぎの2010年は、怒濤の勢いで過ぎ去った。

北新地に店を出した理由

年が明けてもこの流れは変わらず、行列ができる、メディアで話題になる、また行列ができるというサイクルが続いた。

百貨店から催事のオファーも届くようになり、あちこちで出店するようになった。そこで、ひとり、ふたりとスタッフを増やしていき、たくさんお客さんが来てもすぐに品切れしないように、生産体制を強化した。2013年には、夫も仕事を辞めて森のおはぎに加わった。

「もともと、いつかなにかふたりでやりたいよね、ゆくゆくは一緒にできたらいいよねと話していたんですよ。夫も私も想像以上にハードな生活になってしまったんで、辞めるべくして辞めたっていう感じですね」

夫婦で森のおはぎに携わるようになったことでようやく心と時間に余裕が生まれ、次のステップに進むことができた。

2014年1月、大阪を代表する歓楽街、北新地に2店舗目となる「森乃お菓子」をオープン。ここでは、岡町の本店にはないおこしやかりんとうも用意した。下町の岡町と北新地ではギャップがあるように感じるが、話を聞いてみれば、森さんらしい選択だった。

「もともと都心部に店を出したかったのは、会社勤めしていた時、私自身が仕事帰りにおはぎを買ってたから。自分へのご褒美だったり、手土産として気軽に買える場所にしたかったんです。私が小さい頃、父親が買って帰ってくるお土産にワクワクした思い出があって。そのワクワクが、私のお菓子やったらいいなっていうのもありました。実際、仕事帰りにすっと寄りやすいところなんで、お客さんにはすごく喜んでもらってます」

北新地のお店は、会社帰りの時間に合わせて16時30分オープン。こちらもすぐに、毎日完売するような人気店になった。

森さんが大切にするもの

それから6年が経ち、現在。2店舗を営む経営者になり、スタッフも20人まで増えて、子どもも生まれた。2010年の開店当初とは異なる質の忙しさに追われるようになったが、森さんの「おいしいおはぎをつくって、お客さんに届けたい」という想いは揺るがず、スタッフと一緒におはぎを握る。

「自分が食べておいしい、嬉しい、って思うものこそ、お客さんも『また食べたい』っていう味になると思うんです。うちはあんこを3種類炊き分けていたり、見えないところでいろいろこだわっているんですけど、現場にいれば、ちょっともち柔らかいんちゃうとか、あんこ柔らかいでとか、なにかブレがあった時にすぐに気づけるじゃないですか。スタッフとみんなで楽しくつくっていると自分も元気もらうし、ぜんぜん苦ではないかな」

森さんにとって「自分が食べておいしい」は絶対的な基準で、だからむやみに新作を出さないし、変わり種のおはぎもつくらない。

季節の変わり目などに店頭に並ぶ新作は、森さんが何度も試行錯誤して「むっちゃおいしい!」と感動したものだけ。例えば、夏に登場する「焼きとうもろこしもち」は、その厳しい審査をくぐり抜けてきたものだ。

話題作りには興味がない

最初はもち米をあんこで包む形で、外側のあんこにとうもろこしを混ぜた。でも、「なんぼやってもおいしくならへんわ」と数年間、眠ったままだった。

ところがある日、あんこをもち米で包む形に変えて、もち米にとうもろこしを混ぜてみようと閃き、試してみたら「あれ、めっちゃおいしいんですけど!」。

さらに遊び心を加えて、夏祭りのように醤油を塗って軽く焼いてみたら、びっくり仰天の味に。これをお店で売り始めると、とうもろこし? と半信半疑でひとつ買った人のなかには、次に来た時に「衝撃やったで!」と10個買って帰った人もいたという。

今では、お客さんから「トウモロコシ、そろそろ出る?」と尋ねられるような人気商品になった。

近年、華やかな見栄えだったり、珍しい素材を使った「創作おはぎ」を売りにするお店も増えているが、森さんは話題づくりに興味はない。

「おはぎってもち米との相性が大事なおやつやし、しみじみおいしいって思えるものを出すっていうのは、譲れないところで。いくら見た目がかわいくても、もう一回食べたいって思ってもらわないと、ずっと続けていけないし。使う素材にしても、こだわりすぎると価格も上がっちゃう。私にとって、おはぎは家庭のおやつで、やたら値段が高いっていうのは違うなっていうのがあって。東京の人には安すぎるって言われることもあるけど、高くなりすぎないところでベストのおいしさを出すことを大切にしたいんです」

効率や生産性では測れない大切なもの

「また食べたい」と思ったら、気軽に立ち寄れるお店でありたい。そう考えている森さんは、できる限り店頭にも立つ。

その時は、お客さんに対していらっしゃいませ、ありがとうございました、というお決まりの接客ではなく、「こんにちは」の挨拶から始まり、帰り際には「お気をつけて」と声をかける。この言葉遣いも、お客さんとの距離感を大切にする気持ちの表れだ。

森さんは、お店に来るお客さんとよく話をする。時には、森さんと話をして、おはぎを買わずに帰るお客さんもいる。店先で、プライベートのディープな相談をされたこともある。森さんは、それが嬉しいという。

効率とか生産性を考えれば無駄と切り捨てられそうな時間だが、そうすることでたくさんのお客さんと顔見知りになり、仲良くなった。

森さんがお客さんとの雑談で「銀行で両替すると手数料がかかる」と話したら、それ以来、自宅で貯めた1円玉をどっさりとビニール袋に入れて、定期的に持ってきてくれるおばあさんがふたり(!)もいるそうだ(そのうちのひとりが最近亡くなってしまったと、森さんは悲しそうにしていた)。

この話を聞いた時、僕は昭和の下町を描いた映画『ALWAYS 三丁目の夕日』を思い出し、「今の時代にそんなお店があるのか!」と驚いた。

「日常に溶け込んだ」1日に3000個のおはぎが売れる店

そして、ハッとした。

森さんのおはぎは、確かにかわいらしく、なによりおいしい。それが人気の理由だと思い込んでいたのだけど、流行り廃りがジェットコースターのようにスピーディーな現代、話題になった商品はすぐにコピーされ、消費され、いつの間にか忘れ去られていく(パンケーキブームはどこへいった? タピオカの行く末は?)。

かわいくて、おいしいだけなら、すぐに飽きられてしまったに違いない。森のおはぎはきっと、たくさんのお客さんたちの「日常」に溶け込んでいるのだ。

ふとした瞬間に「また食べたいなあ」と思い出したり、近所を通りかかった時に「あ、ちょっと寄っていこうかな」と思われる存在なのだろう。

毎年、お彼岸になると長蛇の列ができるという。

昨年のお彼岸も、1日で3000個のおはぎが売れていった。森さんはその日もスタッフとお喋りを楽しみながらおはぎを握り、店頭に立って、こんにちは、お気をつけて、と言い続けた。

[フリーライター 川内 イオ]

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