長崎ちゃんぽんチェーン「リンガーハット」の業績がふるわない。既存店売上高は2期連続で前年割れ。不振のきっかけは2年前の値上げだ。客離れを解決するため、370円の定食を新設したがうまくいかなかった。店舗経営コンサルタントの佐藤昌司氏は「小さくて安いだけでは話題にならない。『小盛』と『超特盛』を一緒に打ち出した吉野家が参考になる」と分析する――。
「長崎ちゃんぽん」は626円から637円に
長崎ちゃんぽん「リンガーハット」の不振が止まらない。株式会社リンガーハットが3月5日に発表したリンガーハット業態の2020年2月期の既存店売上高は、前期比2.8%減だった。前年割れは2期連続となる。
同社の決算はさえない。1月14日発表の19年3~11月期の連結売上高は、前年同期比0.6%増の352億円と微増にとどまった。営業利益は23.2%減の12億円と減益だった。同日、20年2月期(連結)通期の業績予想の下方修正も発表。売上高は従来予想から20億円引き下げ480億円(前期比2.3%増)、営業利益は8億円引き下げ18億円(前期比24.8%減)とした。
不振のきっかけとなったのは、18年8月に実施した値上げだ。主力の「長崎ちゃんぽん」を含む13品で約3%値上げした。「長崎ちゃんぽん」は626円から637円に、「長崎皿うどん」は648円から669円となった(すべて税込)。それ以降、客単価は上がったが、それ以上に客数が減少。既存店売上高は、値上げした18年8月からの12カ月間中8カ月が前年割れとなっている。
ランチメニュー刷新で集客を試みた
こうした状況を受け、19年8月にランチメニューを刷新し、集客を試みている。370円(税別、以下同)の「薄皮ぎょうざ定食」を新設したほか、量が少ない「小さいちゃんぽん」「小さい皿うどん」と「餃子」がセットになった定食を新たに追加したり、一部メニューを10円値下げしたりしている。
新設された「薄皮ぎょうざ定食」は、餃子7個とご飯、スープ、漬物がセットになった商品で370円。リンガーハットの中では、圧倒的に安い。また、量が少ないちゃんぽんや皿うどんの定食はいずれも500円台と手ごろな価格だ。値上げで低価格を求める客が離れていたため、手ごろな価格のメニューを充実させて集客を図ったというわけだ。
だが、メニュー刷新後の業績は思わしくない。マイナス傾向が続いていた客数は、前年を上回る月が目立ってきたものの客単価が大きく下がってしまい、既存店売上高はメニューを刷新した19年8月から20年2月までの7カ月間すべてで前年割れとなっている。メニュー刷新はうまくいっていないと言っていいだろう。
目玉の「薄皮ぎょうざ定食」が不発
新メニューの目玉になっていたのは「薄皮ぎょうざ定食」だった。問題はここにある。370円と、確かに安いことは安い。ただ、リンガーハットの売りはちゃんぽんと皿うどんであって、餃子ではない。「リンガーハットの餃子がおいしい」というイメージはあまり強くない。そんな位置づけの餃子をちょっとした低価格で販売したとしても、大きなインパクトは与えづらい。また、量が少ないため、一般的な男性客にとってランチとしては物足りないだろう。
ほかの外食チェーンと比較しても、競争力が高いとはいえない。中華料理チェーンの「日高屋」では餃子(6個・210円)とご飯(普通サイズ・164円)を提供しており、合計で374円。「餃子の王将」も餃子(6個・240円または220円/地域によって異なる)とご飯(中サイズ・170円または160円/同)の合計で410円または380円だ。
リンガーハットはメニューの刷新後、客数は増えても客単価が減少し、結果として既存店売上高が減ってしまった。つまり、期待したほど「薄皮ぎょうざ定食」で新規顧客を開拓できなかった一方で、既存顧客がこのメニューに乗り換えてしまい客単価が下がったのだろう。小さいちゃんぽんや皿うどんの定食でも、同様のことが起きていると考えられる。
新メニューは訴求が十分でなかった
新メニューが功を奏さなかったのは、訴求が十分でないためだ。既存顧客に新メニューの存在を知ってもらうのは、そう難しくない。店内で訴求すればいいからだ。だが、新規顧客に知ってもらうには、テレビCMを打つなど大々的な販促が必要になる。
大々的な販促を打つには当然大きなコストがかかるが、コストに見合った効果が得られるとは限らない。十分な効果を得るには、斬新なアイデアが必要になってくる。
たとえば牛丼チェーンの「吉野家」は19年3月、28年ぶりの新サイズ「小盛」を発売して話題を集めた。小盛は肉と米が「並盛」の約4分の3の量の商品だ。「特盛」よりも大きいサイズの「超特盛」と同時に発売し、発売1カ月で「超特盛」は100万食、「小盛」は60万食というヒットになった。発売月である19年3月の既存店売上高は前年同月比8.1%増と大きく伸びた。
吉野家は「超特盛」と同時発売で「小盛」もヒット
「小盛」のヒットの要因は、「超特盛」と一緒に打ち出した点にある。吉野家がこの2つの発売を発表した時、ほとんどのメディアは「超特盛」のほうを大々的に取り上げた。「超特盛」だけが見出しになったケースも多かった。これは、「小さい・少ない」よりも「大きい・多い」のほうがインパクトを与えやすいためだろう。飲食店で「デカ盛り」がはやったのと同様の理由だ。
そして「超特盛」が大々的に取り上げられたことで、「小盛」も同時に宣伝することができた。一見、陰に隠れてしまったように思えるが、もし「小盛」だけであれば、ほとんど話題にならなかっただろう。「超特盛」と一緒に打ち出すというアイデアで注目を集めることに成功し、1カ月で60万食をも販売できたわけだ。
これと比べると、リンガーハットの「薄皮ぎょうざ定食」や新たな定食メニューの打ち出しは、世間に十分なインパクトを与えたとはいえないだろう。リンガーハットが不振から脱却するには、新メニューを打ち出すだけでなく、そこに斬新かつインパクトのあるしかけを用意する必要があるだろう。
[店舗経営コンサルタント 佐藤 昌司]