本物の詐欺師は、簡単に人を騙さない。それはなぜか。ビジネス書評家の土井英司氏は、「商売はリピートが大事。悪評が広がるとマーケットを失うため、本物の詐欺師はそうした荒っぽい手段は採らない」という――。
※本稿は、土井英司『「人生の勝率」の高め方 成功を約束する「選択」のレッスン』(KADOKAWA)の第2章「『選択基準』を明確にする」を再編集したものです。
商売の要はリピーターをつけること
一見、人当たりが良く知識も豊富で話が面白い、でも本当は詐欺師でまんまとうまい話に騙されてしまった、というような話を聞いたことがあるかと思います。しかし、本来、詐欺を働くことは合理的ではありません。
本当に賢い人は、仮に詐欺師としての能力を十分に持っていたとしても、詐欺行為などはやらないのです。本物の詐欺師は、簡単に人を騙しません。なぜなら、騙すほうが儲からないからです。僕は、基本的に、「騙さないほうが得する」と思っています。
どうして本物の詐欺師が人を騙さないのかというと、「商売は、リピートが大事」だからです。詐欺師が騙せるのは、ひとりにつき1回だけです。おまけに悪評が広がる。結局はリピーターにならないのです。ビジネスをしている人は、リピーターの重要性をよくわかっていると思います。
パレートン法則をご存知でしょうか。2:8の法則とも言われ、売り上げの8割は、2割の優良な顧客によってあげられるという法則です。つまり新規顧客よりも2割のリピーターが重要だということです。
現在、日本は、インバンド市場に力を入れていますが、2018年に訪日した香港人は約217万人(官公庁の「訪日外国人消費動向調査」より)で訪日した地域では、中国、韓国、台湾に次いで4番目になります。
713万人の人口から見ると、実に3人に1人が訪日していることになりますが、実際には85パーセントがリピーターなのです。これはまさに日本が真摯にビジネスをしているからでしょう。
もし、人を騙したり、嘘をついて商売をしたりしていたとしたら、悪評は、SNSを伝い、世界に流れ、リピーターは半分以下になるかもしれません。これを人だとすれば、その人の元にはリピーターは現れないということです。
嘘つきは一度しか稼げないが正直者は何度でも稼げる
一度人を騙すと、それが周囲の人間に伝わってしまい、さらにマーケットを狭めてしまいます。また他の地域に移っても、同じことをすれば、「マーケットを失う」ことになるでしょう。
真摯に顧客と向き合う、頭がいい人は、このような理由でマーケットを縮小させるようなことはしません。つまり詐欺師や嘘つきは一度しか稼げませんが、正直者は何度も稼げるということです。しかも、だから詐欺師は儲からないのです。
諸説ありますが、ひとりの人間は、おおよそ「100~250人」の親しい友人を持っていると言われています。ひとりの人を騙すとその人のすべての友人に伝わるとしましょう。仮に150人として計算した場合、現在の日本の人口1億2622万人(2019年3月時点)を150で割れば、一度に騙せるのは、「84万1466人」だとわかります。
実際には、同時に人を騙すことはほぼ不可能ですから、これは幻想の数字です。
詐欺師の稼ぎ方は割に合わない
通常、詐欺事件が起こった場合は、個人のネットワークを超えて、メディアなどでも報道されますから、最終的には、結構残念な数字になってしまう。10分の1なら8万4146人、100分の1なら、8414人です。
この数字に商売の単価を掛けるわけですから、ひとり1万円騙したくらいでは儲からないです。リスクに見合わない。
だから、歴史的な詐欺事件は、大勢から少額ではなく、少数の人間から多額のお金を騙し取る事件になるのです。騙せる人がどんどん少なくなっていき、ご想像の通り、詐欺師の最後はお縄になるか、コソコソと生きていくことになります。
捕まらなくても、コソコソと生きている以上、生活の質が下がるのは、当然のこと。こうやってきちんと計算すれば、「詐欺は割に合わない」ことがよくわかると思います。
では、正直に商売をした場合を計算して見ましょう。
仮にお客様の数が詐欺師が一度に騙せる人数の1/10である841人からスタートしても、月1回(=12回)のリピートで841×12=1万92人分の収益になります。10年ご愛顧いただければ10万920人分です。
さらにすべてのお客様が10人を紹介してくれれば、100万9200人分になります。
ひとり100円使っただけで、約1億の収入になります。1000円なら、約10億、1万円なら、約100億になるのです。だから、結果的に嘘をつく詐欺師より、正直者の商売人の方が儲かるのです。
単価を高くすれば儲かるというのは幻想
それでは、もっと儲けるために、単価の高いものを正直に売ればいいじゃないかと思った人もいるでしょう。
詐欺にはリピートが期待できないから、単価を高くするしかないわけですが、「単価が高いものが儲かる」という発想もまた、幻想です。
僕は大卒でゲームメーカーに入社したのですが、じつは、入社1年目から高級アンティークショップで副業をしていました。
その高級アンティークショップには、100万円以上の高級家具が置いてあったのですが、めったに売れないのです。
一方、ゲームセンターは「1回100円」で単価は安いが、リピーターが非常に多い。結果的には高級アンティークショップよりも、ゲームセンターのほうが儲かるわけです。
価格の高いものは、基本的に利益率も高く設定をしていますが、消費者にとっては、なかなか手に届きません。
例えば、500万円の車が400万円になっていれば、お買い得だと思い、買う人もいるでしょう。しかしみんながみんが、車に400万円を出せるわけではありません。
では、1回100円のゲームやダイソーなどの100円均一ショップを考えてみましょう。安いと思い、買いすぎたりしたことはないでしょうか。
ファストフードのハンバーガー店を見てみても、価格競争で優位に立っている企業は多くの店舗(フランチャイズを含む)を抱えることができますが、1個1500円もするようなハンバーガーショップは一店舗では成功するが、全国くまなく出店しようと考えると難しいでしょう。
いずれ顧客は嘘を見抜くので稼ぎは単発で終わる
嘘つきが長期的にお金儲けができない理由は、まだあります。
それは、顧客はそんなにバカではないということです。
今でもありますが、顧客から数百万円や数千万円といった資金を集めるや投資詐欺は、嘘を言いながら、お金を集めます。
しかしそのような会社が、長年存続できるわけはありません。なぜなら、嘘はすぐにバレてしまうからです。
食品偽装にしても、投資詐欺にしても、また法の抜け道を使って人を騙すような仕事も、いずれ消費者に見抜かれ悪名を全国に広げることになってしまうでしょう。
詐欺師は、「顧客を簡単に騙せる」と思っていますが、人はそんなにバカではありません。数十人、数百人と被害者が増えていけば、必ず、その分野に精通した人と出会います。その瞬間、これまで作ってきた虚構は一気に崩れ、詐欺師の人生はそこで終わるでしょう。
どんなに巧妙な罠を仕掛けても、続くことはありません。その結果、詐欺師は2度と表舞台に立つことはできないのです。
つまり「たくさんの人から少額のお金を集める商売」が、一番潤うということです。
パナソニックの創始者、松下幸之助は、「一人の顧客を守ることが、百人の顧客につながる。一人の顧客を失うことは、百人の顧客を失うことになる。その気持ちを忘れてはいけない」と言いました。
嘘をつくことなく、顧客を騙すことなく、真摯にビジネスを行えば、きっとお金もついてくるでしょう。
[ビジネス書評家 土井 英司]