「働く人々が時間に追われる世界をなくしたい」。元マイクロソフト役員の越川慎司さんは、そんな思いでクロスリバーを設立。以来、ITをフル活用してメンバー全員が週休3日を4年以上継続し、自身の年収を3倍にしてきました。限られた時間で成果を出すために必要なこととは――。
※本稿は、越川慎司『週休3日でも年収を3倍にした仕事術』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
まずは「今週は何時間働くか」を決める
ここでいきなり質問ですが、あなたは「今週は○時間働く」と決めて働いたことはありますか?
私の時間は、すべてAIなどのITが管理しています。「1日の労働履歴」は様々な端末を通じて常にインターネットにつながっており、週の総労働時間、作業時間、アイデアを出すクリエイティブな時間、勉強の時間、メンバーとのコミュニケーション時間などを、ITツールによって管理しています。
また、その週に働いた時間が30時間を超えそうになると、AIによってアラートが出るようにセットしています。
まず必要なのは、どのように、そしてどれだけ働いたか、を可視化することです。
「だいたいこれぐらいの時間には帰ろう」「明日は早めに帰れるようにしよう」ではなく、一度、「今週は○時間しか働かない」と決めて、カウントダウン式に仕事を進めてみてください。
短時間で成果を出すという「目的」に、数値化したゴールを入れると「目標」に変わります。いま何時間働いていて、あと何時間残っているかを意識しながら働くと、驚くほど仕事の「無駄」がなくなるのです。
Excelの作業は原則禁止
われわれクロスリバーでは、すべての仕事の各タスクがどれだけの時間がかかり、受注額に対してどれだけの時給になっているか、すべて記録を取って可視化しています。「契約金額に対してどれぐらい時間をかけていいのか」「自分の能力を1時間でフル稼働させたらどれぐらいの稼ぎになるのか」といったことを意識することで、漫然と作業することを防ぐことができるのです。
世界に点在するメンバーについても、どのような作業にどれだけ時間をかけたかを見える形にしてありますから、どういった種類の作業が無駄なのかもわかるわけです。
例えば、Excelの作業は売上げには直結しにくいことがわかっています。PowerPointの資料作成も時間をかければ売上げが上がるわけではない、という相関関係も見出しました。
このことから、クロスリバーではExcelの作業は基本的に禁止としています。代わりにAIによる解析、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)による自動収集と解析、BI(ビジネス・インテリジェンス)ツールによる取りまとめを行っています。
7割の契約は、提案書や見積書以前に決まっている
もちろん、ビジネスをしていく上では、売上げや利益に直結しない作業もしなくてはいけません。作業報告書を作ったり、顧客やクライアントとの定例会議の時間をとったりすることは、必ずしもそれによって売上げが上がることではありません。
しかし、こうしたことにより得られる信頼や信用が、売上げや利益を上げていくたに不可欠であることは言うまでもないでしょう。
特に追加契約や大型受注はこういった見えない信用や信頼をベースとすることが多く、ここを疎かにすることは会社の総売上げ(トップライン)を落とすことにつながってしまいます。
ここで問題になるのは、信頼や信用の獲得といった定性的な成果は、可視化したり計測したりすることが難しいということです。ただ、追加契約や大型契約の経緯を振り返ると、何がクライアントに刺さって契約締結に至ったかを分析することができます。顧客は、価格や投資対効果といった計測可能な定量的な評価のみで購買を決めるわけではありません。人間ですから何かしら感情的な判断が加わります。むしろ、論理的な判断よりも、安心感やワクワク感といった感情的な評価(期待)がビジネス関係を維持することにつながります。
ではどういったことが、この感情をベースとした契約につながっていくのか。私はクライアント企業18社と共に分析をしました。
これら18社は、製造業や流通業、そして情報通信サービス業などでBtoBビジネスを手掛ける大手企業です。分析対象としたのは、3年以上契約が続き、毎年契約金額が上がっていった案件です。
分析対象となった43件を見ていくと、その7割は提案書や見積書を出す前に契約がほぼ決まっていたことがわかりました。このことから顧客は、他社との価格比較や投資対効果といった定量的判断だけにフォーカスしているわけではないことがわかります。
継続案件に共通する「軽微なトラブル」の存在
調査をしてみて意外だったのは、こういった継続案件の初年度にいくつかのトラブルが起きていたことです。このトラブルは致命的ではなかったからこそ、その後の継続契約につながっていることもポイントです。それらは、そもそも軽微なトラブルだったか、もしくはトラブルが致命的になる前に解決したか、のどちらかでした。詳細について追加ヒアリングをすると、初年度に起きたトラブルを逃げずに真摯に対応して被害を最小限に抑えただけでなく、提示した再発防止策をしっかりと実行し二度と同じトラブルを起こさなかったことが、結果的に信頼につながっていたこともわかりました。
もちろん、トラブルは起きないほうがよいのですが、顧客にとっては判断のいい機会にもなるということです。何か問題が発生したとき、営業担当が「自分のせいではない」と言って逃げてしまったか、それとも逃げずに親身に対応してくれたかを、顧客はじっくりと見ているわけです。
600件近い謝罪訪問を経験してつかんだもの
私は前職のマイクロソフトで、最高品質責任者として600件近い謝罪訪問をしました。それだけマイクロソフトが起因する問題で、法人顧客を中心にご迷惑をおかけしてしまったのです。上司である社長の手厚いサポートもあり、私は逃げずに1件1件丁寧に対応をしていきました。
1回の謝罪訪問で終わることなく、二度三度訪問して再発防止策を講じたことを認めていただいたおかげで、約3割の顧客から追加契約をいただくことになりました。信頼を得ようとしてトラブル対応をしたわけではありませんが、顧客と一緒になって奮闘したことで結果的に評価をしてもらえたのだと思います。
この謝罪訪問で構築できた信頼関係は、マイクロソフトを卒業してクロスリバーを起業したときにも続いており、設立1年目に業務委託の契約をしたのは、かつて謝罪訪問した先の担当者からの依頼によるものでした。
トラブル発生のような緊急事態のときにこそ、人間の本質が見えます。そこで一緒に修羅場を経験し、対話しながら一緒に問題を解決したことが、深い信頼関係構築につながっていくことは間違いありません。
現在は代表を務めるクロスリバーと事業責任者を務める株式会社キャスターで700社を超える企業のリモートワークを成功に導いていますが、リモートワークにおける信頼構築も同じことが言えると思います。目の前に同僚や部下がいない中で、確固たる信頼関係を構築・維持していくには、対話と交流によって一緒に達成感を味わうことが必要不可欠です。
成果につながるのはたった15%の作業
話が少しそれましたが、この調査分析によってわかったことは、継続契約に大きなインパクトを与えるのは全体の稼働時間の15%の作業であったということです。
決して残りの85%をしなくていいということではないのですが、この15%を見つけ出し、そこにエネルギーを注ぎ込むことで追加契約や大型契約を手繰り寄せることができるということです。
先ほど説明したトラブル対応はその好例です。また資料作成で言うと、定例会議の資料よりも経営会議の発表資料のほうが、当然ながらビジネスにより大きな影響を与えます。
新型コロナの影響で訪問型の営業が敬遠される中では、オンライン営業のほうが後の契約により大きなインパクトを与えることもわかりました。
こうした「15%の作業」が何かを明確にして、そこに注力することが効率アップの鍵となります。
時間や体力を大幅に伸ばすことができないのであれば、限られたエネルギーをその15%に注ぎ込めばよいのです。
逆に言うと、成果に直接つながらない報告書やメール処理に100%のエネルギーを注ぎ込まなくてよい、ということです。
このように、目的に向かってアクセルとブレーキを踏み分けることで、限られた時間でより大きな成果を残すことができるようになります。
[株式会社クロスリバー代表、株式会社キャスターCaster Anywhere事業責任者 越川 慎司]