正社員として働きたいのに非正規社員のままの女性が多いのはなぜか。日本総研の小島明子氏は「正規雇用に転換したいのに、会社に転換制度が存在しなかったり、正規雇用試験の難易度が高く受けるのを断念したりするパターンが多い」という。女性の活躍推進を阻む、ニッポン企業の“欠陥”とは――。
非正規労働者「男性:4分の1以下、女性:2分の1以上」のワケ
現在の企業における「正規・非正規」の職員・従業員の男女別の数はこうなっています。
男性の正規2355万人、非正規681万人
女性の正規1123万人、非正規1476万人
この総務省の「労働力調査」(2018年12月分・速報)でわかるのは、非正規雇用で働いているのは男性の場合は4人の1人以下であるのに対し、女性は2人の1人以上だという事実です。今後、女性の活躍を推進していく上では、意欲や能力の高い非正規雇用の女性が、正規雇用に登用される環境づくりを行っていくことが必要だと考えます。
本稿では、日本総合研究所が実施した調査をもとに、東京圏の大学・大学院を卒業し、非正規で働く女性の現状や意識、また活躍に向けた課題について考えます。
(1)非正規雇用の女性の現状
日本総合研究所では、以前、下記の対象者に調査をしました。
●2015年3月/東京圏で暮らす25~44歳の女性、約2000人(有効回答数1828人、以下「2015年調査」)
●2017年3月/女性のキャリア意識や職場環境などの変化を追うため、2015年度に回答した女性に対する追跡調査(有効回答数783人・以下「2017年調査」)。
「2017年調査」では、現政権が進める「女性の活躍推進について感じていることは何か」と尋ねたところ、「非正規雇用で働く女性の環境までは改善されていないことに疑問を感じる」が最も多く46.0%、続いて「子育てをしながら働く女性を支えるために、一部の従業員の負担が増えていることに疑問を感じる」が35.0%だった。
一方、「現段階の希望とは無関係に管理職登用などの期待にさらされることがつらい」は14.0%にとどまりました。数年前、政府が「女性の活躍推進」を掲げた際には、指導的地位を占める女性の割合を30%にするという目標設定に対する賛否を問う声が多くあがりましたが、「2017年調査」で女性側の意見を見ると、この管理職引き上げに対することよりも、「非正規雇用の女性の待遇」や、「子育て女性を支えるための周囲の負担増加」について、早く対処すべきではないかとの意見が多く寄せられました。
「2017年調査」では、非正規雇用の女性に対して「正規雇用への転換の希望をするか」と尋ねていますが、56.0%の女性が正規雇用に転換をしたいと回答をしています。
「正規雇用への転換制度なし」「正規雇用試験が難関すぎる」
正規雇用になれない理由として最も多かったのが、「現在の勤務先で正規雇用に転換したいが、転換制度がない」(31.0%)でした。また、自由記述の中には、「正規雇用試験にはまず受からないから」、「正社員に転換したいが難関すぎる」などの声があり、正規雇用登用へのハードルが想定以上に高く設定されている状況がネックになっているようです。
現在、正規雇用の登用女性が増えない理由として、企業側からは「非正規の女性は子育てを優先したい方が多く、労働時間に制約がある」などと、非正規の女性側に原因があるといった趣旨の声を多く耳にします。
しかし、実際のところは、フルタイムで働ける「正規雇用になりたい非正規雇用の女性」が多いにもかかわらず、その存在を企業の側がきちんと認識していない可能性があります。もしくは、難易度の高い正社員転換試験を設ける、あるいは転換制度そのものを設けないことで、正規雇用化をスムーズにさせないようにしていると受け取られかねない状況になっているのです。
正規より非正規の女性のほうが「貪欲」
(2)非正規女性の能力・スキル向上に対する意識は高い
非正規雇用の女性と正規雇用の女性では、キャリア意識が異なるのでしょうか。
「2017年調査」では、「出世・昇進のために働くことが重要だと思うか」という設問に「そう思う」(「そう思う」「強くそう思う」を含む、以下同)と回答した女性は、正規雇用の女性で17.6%、非正規雇用の女性で13.6%であり、正規雇用の女性のほうがやや高くなっています。正規雇用の女性については、組織のなかで活躍をしたいという気持ちが強いようです。
一方、「自分の能力やスキルを活かすために働くことが重要だと思うか」という設問に「そう思う」と回答した女性は、正規雇用の女性で47.2%、非正規雇用の女性で50.9%であり、こちらは非正規雇用の女性のほうがやや高くなっています。
また「興味・好奇心を追求して働くことが重要だと思うか」という設問に「そう思う」と回答した女性は、正規雇用の女性で41.0%、非正規雇用の女性で46.2%と、やはり非正規雇用の女性のほうがやや高くなっています。
さまざまな企業で働く機会が多い非正規雇用の女性の場合は、自分の能力やスキル向上に対する意識を高く持ちながら働いているのだと感じます。
(1)で述べたように、正規雇用への登用を希望する女性は少なくありません。正規雇用の女性に比べて、非正規雇用の女性のほうが自己のスキル活用への意欲や、自分の関心の高い仕事をやりたいという意欲が強い結果を踏まえると、正規雇用への登用を通じて、活躍の場を広げられる女性は潜在的にかなり多いのではないかと考えられます。せっかく、いい人材がいるのにそれを生かしていないのが現状と言えるでしょう。
新卒で非正規雇用されると正規雇用に登用されるのは難しい
(3)登用に向けた課題
「2017年調査」では、「2015年調査」に回答した女性の変化を追っています。
正規雇用を希望していた非正規雇用の女性の過去を調査してみたところ、約35%が大学から新社会人になる際、非正規雇用だったことが明らかになっています。このことからは、大学の就職活動の結果、非正規として採用された女性が、その後、正規雇用に登用されることが容易ではないことが想像できます。
「2017年調査」では、正規・非正規雇用を問わず、働く女性の職場環境について尋ねています。「会社は研修を行ってくれるなど能力・スキル向上に力を入れてくれているか」という設問に「当てはまる」(「どちらかというと」+「とても」当てはまる)と回答した女性は、正規雇用の女性で21.8%、非正規雇用の女性と18.5%です。
加えて、「上司は常に、あなたの仕事に対して、よくできた点、うまくできなかった点を丁寧に指導してくれるか」という設問に「当てはまる」(同上)と回答した女性は、正規雇用の女性で23.5%、非正規雇用の女性と17.4%です。
“私は一生非正規”女性が正社員を諦めてしまう背景
この結果から言えるのは、正規・非正規雇用に関係なく、女性従業員は勤務先からの研修機会や上司からの育成を受けられるケースが少なく、とりわけ非正規は正規に比べてその機会がさらに少ないということです。
(1)では、勤務先には正規雇用への登用制度があり、正規雇用への登用を希望しているにもかかわらず、難易度が高くて挑戦できないといった残念な事例を紹介しました。正規雇用に比べると、研修機会や、上司による指導の機会が少なく、組織で働くなかで得られる成長機会が少ないことは、正規雇用への登用を難しくしている要因の1つだと考えます。
また、「2017年調査」では、約4割の非正規雇用の女性が正規雇用への登用を希望していませんでした。正規雇用への登用試験が難しいと諦めている女性たちの声からは、勤務先に対して、正規雇用への登用を希望している意思すら表明していない女性が多いのではないかと感じています。また、勤務先から与えられる成長機会が少ないがゆえに、能力の高い女性が正規雇用されることを半ば断念し、不本意ながらも非正規雇用として働き続けている可能性もあるのではないでしょうか。
「女性の活躍推進」するなら、非正規女性の対策が必須
企業が「女性の活躍推進」を対外的に掲げていくのであれば、非正規雇用の女性が正規雇用に登用される制度の整備はもちろんのこと、制度を通じて正規雇用への転換が実現できるように能力の開発を合わせて行っていくことが必要であるはずです。そのような取り組みを行うことは、短期的にはコストの増加につながっても、長期的には、貴重な人材の確保につながっていくのではないでしょうか。
なかには、勤務先から成長機会が与えられず、正規雇用への登用というキャリアパスすら考えずに非正規として働く能力の高い女性もいると想像します。企業の側も正規雇用への登用制度を整備するだけではなく、制度を利用しやすい風土や育成支援を行っていくことは、より多くの女性の活躍を促すことにつながるはずです。
[日本総合研究所 創発戦略センター スペシャリスト 小島 明子 写真=iStock.com]