SNSで「幸せアピール」をする人は何を考えているのか。ビジネス書作家のムーギー・キム氏は「価値ある人生を送っているかどうか、自分基準で決められない人が『いいね!』の追認を欲しがる。自分が幸福になる“計算式”を考えたほうがいい」と説く――。
※本稿は、ムーギー・キム『あれ、私なんのために働いてるんだっけ? と思ったら読む 最高の生き方』(KADOKAWA)を再編集したものです。
この仕事、この人生に意味はあるのか?
国内外で働く中で、あまりにも多くの“エリートビジネスパーソン”の相談に乗ってきた。彼らは頭もよく、たくさん働き、人並み以上の収入を得て、一見、成功しているように見える。しかしその本音を聞けば、不安やコンプレックスに苦しむ人は非常に多い。
「頑張った結果、それなりに高く評価されたけれど、別に価値や意味はなかったよね」
「生産性を追い求めてきたけれど、この人生の価値ってなんだったっけ?」
といったコンプレックスが、実に多くのビジネスパーソンの心に巣くっているのだ。
これは、もともと強かった社会的承認欲求に加え、“社会的にすごいとされる人々”と日々、接近戦で自分を比較するようになってきているからだ。SNSで「世の中は自分より成功している人だらけ!」という幻想ができあがったことも、この他者との比較から生じる不安とコンプレックスに拍車をかけているといえよう。
「首相官邸に呼ばれました」「資金調達30億成功しました」「大手企業と提携を結びました」「創業2年で上場しました」「ハーバードの同窓会でボストンに来ています」「出版物が50万部を突破しました」……などなど、“私すごいでしょ合戦”が、世界中のSNSを埋め尽くす。
しかしながら実際は、対外的なリア充パフォーマンスとは裏腹に、内心苦しむ人が多い。
人々を襲う「幸福アピール合戦」疲れ
私の親しい友人に、オーストラリアの投資ファンドのディレクターとモデルの美男美女カップルがいる。彼らのフェイスブックを見ていると、毎日が幸福人生の絶頂であるかのように見えるのだが、最近、その男性側と会ったとき、離婚調停中である旨を知らされた。そのとき、“SNSアピールと実態の乖離”を痛感したものである。
フェイスブックでは妻が夫を「ハンサムで頭が良くて家族思いで……」と讃える投稿があれほど多かったのに、と私が驚いてみせると、「彼女は自分たちが幸せだというアピールをしたいだけで、その実、家庭は問題だらけだったんだ」と嘆息する。そして息子を連れてヨーロッパに戻って、今後何をするか考え直したいと悩んでいた。
このような事例は引きも切らない。多くのSNSの実態は、自分が幸せなのかどうか、価値ある人生を送っているのかどうか、自分基準で決められないため、知人に「いいね!」と追認してもらうことで、つかの間の安心に浸るのである(SNS上の自分が本当の自分の人生でないことを内心わかりつつ――)。
悲しきマウンティング・ゴリラたち
「僕は、いつも親に『なぜおまえはばかなんだ』と言われ続けてきたから、東大を首席で卒業しても、まだまだ自分はダメなんだって、不安なんです」
こう語るのは、私のとある友人である。なんでも彼は、昔からあらゆるテストで1位を獲ってきたのに、それでも自己肯定感が低いというのだ。自分の価値を「勉強ができる」という点に置いているため、私との間で共通の知人を評するときも「あの人、でも、頭は悪いよね」「あの人が出た大学と学部、テストの点がよくなくても入れるよね」と、聞いていてこちらがしんどくなるくらい、人物評価の軸が、出身大学や入試難易度なのである。
このような不幸な思考パターンに陥っているエリートは、恐ろしく多い。やれ私は数学が得意だった、やれ私は世界有数の投資ファンド出身だ、やれ私は年収が何億だ、などなど、とにかく隙あらば“マウンティング”しにかかるのである。彼ら、彼女らがそれらをひけらかそうとするのは、ゴリラが胸をたたいて相手を威嚇するのと同様、「自分は優れていて価値があるぞ!」というパフォーマンスだ。
なお、ここでゴリラの名誉のために書いておくが、ジャングルに住む本当のゴリラは、いたずらに自分の力を見せつけるためにその胸をたたくことはない。敵や別のゴリラが近寄ってくるなど、自分の守るべき群れに脅威が迫った際にドラミングをする。大変な力持ちなのに普段はそれをひけらかさない、まさに見上げた霊長類なのだ。
それとは逆に、限られた基準で自分の価値をアピールし、必要もなしにマウンティングにかかる人間は、内心が不安でいっぱいだからその胸をたたいているのである。こうした悲しい習性を持つ人間を、私は“マウンティング・ゴリラ”と名付けた。
ビル・ゲイツは「人より金持ち」自慢をしない
さて、学歴や職歴や年収など、社会的に評価されがちな一部の価値観だけで自分および人の序列を決めようとする試みは、それ以外の要素に価値を置いていない価値観の貧しさの表れかもしれない。
何かの軸で自分のほうが「相対的に」優位に立っていることを確認しないと、自分の価値を自分で感じられないという、闇の深いコンプレックスの表れであるようにも思える。たとえばビル・ゲイツは「俺はジャック・マーより金持ちだ!」と自慢しないし、ウォーレン・バフェットは「俺はソロスより投資がうまい!」とアピールしないし、ホーキング博士は「私は人よりIQが高い」などと自分で言うことはなかった。
なぜ人はマウンティングをやめられないのか
では、なぜいわゆる“中途半端な偏差値エリート”に限って、このようなエリート・コンプレックスを抱きがちなのか? この傾向は、自分の絶対的価値に自信がなく、子供のときから自分が褒められ、また怒られる基準がそれらの社会的相対評価に限定的だった人に多い。
そして“自分に価値がある理由”を必死に探す苦しみの中で、心の中でのメンタルカーストを、自分が上に来るような基準で設定した結果、立派すぎるマウンティング・ゴリラに成長してしまったのである。
皆成功しているように見えるSNS
マウンティング・ゴリラたちの生態について、もう少し詳しく書こう。彼らは、ビジネスクラスのラウンジを使っていることが人生最大の誇りの源泉であり、羽田空港のサクララウンジから、カレーの写真(ここのカレーがおいしいことは、このラウンジを使う人の中では有名)をアップして“リア充”ぶりをアピールする。
そして機内では、ウェルカムドリンクのシャンパンを片手に、180度倒れるフルフラットシートで足を伸ばしている写真をアップして、“ビジネスクラスに乗っているVIPな私”を大々的に演出するのだ。
もちろん、生まれも育ちもドメドメ(日本生まれ、日本育ち)で、フェイスブックの人間関係も9割がた日本人なのに、なぜだかSNS投稿はすべて英語である。最悪のケースでは、地元の友人からの小学校の同窓会の連絡に、なぜか英語で返してしまうマウンティング・ゴリラたち。想像しただけで「ドンドコドンドコ」、胸を大きくドラミングしている勇姿を思い浮かべてしまうが、彼らの飽くなきマウンティングはまだまだ終わらない。
実は自分が泊まるのは4スターホテルでも、近所にあるマンダリン・オリエンタルホテルのロビーにいそいそ出向き、「マンダリン・オリエンタルホテルにチェックイン」という記しをフェイスブック上に残す、マウンティング・ゴリラたち。
そして「今日も忙しかった〜 誰か今、香港のマンダリンオリエンタル本館近くにいたら、連絡してね!」などと、“たまたま周りに知人などいるわけがないのを重々承知の上で、ひとアピール”食らわせ、100万ドルの夜景を背景に、深夜にドンドコと雄叫びを上げるのである。
「相対的な幸せ」を競うと不安は無限に続く
さて、ここまで述べてきたマウンティング・ゴリラの生態を聞いて、あなたは心から笑えただろうか――? 「いるいる、そういう人」と笑いながらも、心の片隅で、こっそり自分の胸に手を当ててはいなかっただろうか?
私は思うのだが、私自身も含め、誰もが自分の中に大なり小なりマウンティング・ゴリラを住まわせているのが実態ではなかろうか。それはそれでいいのである。承認欲求も、まぎれもない人間の欲求の一つだ。ただ、自分の中のマウンティング・ゴリラに気づいたら、成長し巨大化する前に、ここでいくつかのことを知ってほしい。
まず、人が生きる上で欲求や価値を感じるものは、100年前にマズローが唱えたように5つなんてものではなく、少なくとも下記のように10個くらいはある、ということだ。
▼新・10大バリューレバー
(1)生理的欲求、安全
(2)闘争・競争
(3)愛情・帰属
(4)承認欲求
(5)貢献欲求
(6)学習・成長
(7)遊び(没頭・熱狂)
(8)認知欲(哲学・信仰)
(9)美術・芸術(感動)
(10)生きがい
私はこれを、価値を感じるレバー「新・10大バリューレバー」と名付けた。この10個は私がまとめたものだが、これ以外に自分なりのバリューレバーがある方もいるだろう。いずれにせよ、自分の人生に「価値がある!」と感じさせるものは承認欲求ただ1つ、という方は少なく、多くの方は複数あてはまるのではないだろうか。その組み合わせや優先順位から、あなたの「幸福関数」が見えてくる。
「幸福度」を上げるための計算式
マウンティング・ゴリラは、生きる目標をひたすら「社会的承認欲求」に絞りがちだ。そうなると、他人の幸福度が低いほうが自分の幸福度が上がる、という悲しい事態が起きる。
そうではなくて、まずは「承認欲求以外にもたくさん、重要な価値ってあるよね」と気付いて認め、「幸福関数」に入れる欲求を多様化することが必要だ。
そして、さまざまなバリューレバーを意識したうえで、「自分の幸福関数を、他人の幸福度で割らない」という決意が、幸福の絶対値を高めるために重要なのである。
[ビジネス書作家 ムーギー キム 写真=iStock.com]