酒かす、漬物、ヨーグルト...食卓には発酵食品があふれています。
特に日本ではみそやしょうゆなどを調味料として多用しているので、気付かないうちに、私たちは日々発酵食品を口にしています。
そしてそれらが"体に良い"ということを、私たちは経験から知っています。
では、いったいどのように体に良い作用が起きるのでしょうか。
発酵食品は微生物の代謝によってつくられています。
微生物とは、いわゆる菌のこと。
その菌類が腸内環境と深いかかわりがあるのです。
発酵食品がどうして体に良いか、どのような良い作用があるのか、腸研究の第一人者・東京医科歯科大学名誉教授の藤田紘一郎先生に伺いました。
チーズや納豆が幸せホルモンを増やします
現代社会で私たちは多くのストレスにさらされています。
通勤通学の満員電車に乗ったり、仕事や勉強がうまくいかなくて落ち込んだり...知らず知らずのうちに気持ちがまいってしまっていることも多く、うつ病は現代病ともいわれています。
機能性成分がたっぷり含まれ、栄養自体の吸収も良い発酵食品は、実は体に良いだけでなく心の健康にも力を発揮してくれます。
「腸の中で善玉菌が優位になると、幸せ物質をつくったり気持ちが明るくなったりします」と藤田先生。
心の健康には、「トリプトファン」という成分が影響しています。
トリプトファンとは体内で生成されない必須アミノ酸の一種で、食事からとる必要があります。
乳製品や大豆製品に多く含まれ、発酵食品ではヨーグルトやチーズ、納豆やみそ、しょうゆなどに含まれています。
人が幸せを感じるとき、脳では2つの神経伝達物質が分泌されます。
一つは歓喜や快楽を伝えるセロトニン、もう一つはやる気を起こさせるドーパミンで、どちらも"幸せホルモン"と呼ばれます。
「幸せホルモンの分泌は脳で行われますが、実はその前駆体(前段階のもの)は腸でつくられています。うつ病の発症に影響することで知られるセロトニンのうち9割は腸に存在し、腸から全身に送られているのです」(藤田先生)
このセロトニンの原料となるのが、必須アミノ酸の「トリプトファン」です。
トリプトファンは腸内細菌の力でセロトニンの前駆体となり、かつ腸内細菌の力で腸から脳へと届けられています。
さらにセロトニンを生成するうえで必要なビタミンも腸内細菌の力で合成されています。
また、幸せホルモンを増やすにはヨーグルトや漬物などに含まれる乳酸菌も有効だと考えられています。
乳酸菌が腸内環境を整え、セロトニンの前駆体を脳に届けやすくするからです。
みそ汁や納豆などを取り入れた日本の伝統的な食事をすることが、心の健康にもつながっているのかもしれません。
リラックス効果のある漬物でストレスフリー
小さなことでイライラしたり、うまく眠りに入れなかったり...という日々のストレスの緩和には、乳酸発酵食品の漬物がおすすめです(漬物には梅干しなどの発酵を伴わない漬物と、ぬか漬けや麹漬けなど発酵を伴う漬物があります)。
「漬物にはGABAという成分が含まれています。GABAとはアミノ酸の一種です。興奮を抑える効果のある神経伝達物質で、リラックス効果があることで知られています。また、漬物の乳酸菌は日本人と相性が良いと考えられていますので、腸内環境を整えるうえでも漬物はおすすめです」(藤田先生)
不安やストレスにさらされると、腸内では悪玉菌が増殖することも分かっています。
ストレスにより腸内フローラが乱れてしまうのです。
心を健やかに保つためにも食生活はとても大切です。
発酵食品を取り入れて腸内環境を整える食生活を心掛けましょう。
取材・文/ほなみかおり