約1年振りに会った松本泰志が、違う人のように見えた。
期限付き移籍していたC大阪からの復帰発表が7月26日。その日の夜に引っ越しをすませ、翌日にはJ3鳥取とのトレーニングマッチに出場した。「(松本の)コンディションをヒアリングした上で、やってもらおうと思った。身体はしっかりと動いていましたね」と城福浩監督は言う。
ボールキープしながらパスを出し、そこから相手の裏に飛び出してボールを引き出す。コンビネーションが合わずにカットされたが、これも松本(背番号17)の得意なプレーの1つ
昨年、期限付き移籍先の福岡ではレギュラーを張り、J1昇格に貢献。しかし今季加入したC大阪でのリーグ戦出場はわずか2試合とチャンスを手にできなかった。それでも特長である運動量を発揮できるコンディションを保ち、「タイシからいいパスが出てくる」と森島司が言ったようにクオリティも相変わらず。
ただ、ミックスゾーンで間近に見た松本には、明確な違和感が存在した。
川辺駿がスイスリーグに移籍した時から、松本泰志の復帰を熱望する声がサンフレッチェのサポーターから大きく広がっていた
上半身の筋肉が張り、シャツから見えた上腕二頭筋も逞しい。かつて線の細さを指摘されていた松本だが、実は移籍前から筋トレに力を入れ、肉体改造に取り組んでいた。その努力を彼は期限付き移籍先の福岡やC大阪でも継続。「でも体重は、以前と変わっていないんです」(松本)。筋肉量を増やし、脂肪を減らして闘える身体をつくっていた。
そして何よりも視線の鋭さが違う。
以前の松本は、人柄の優しさが表情と言葉に滲み出ていた。だが、この日の彼の視線は厳しさに満ち、言葉も辛辣だ。
鳥取との練習試合後、インタビューに応えた松本泰志。再会を懐かしむ雰囲気は微塵もなかった
「練習試合の2本目に出たんですけど、1本目のチームとは強度が違うし、ぬるかった。違和感がありました」
その厳しさは自身にも向けられ、「C大阪で活躍できなかったことは事実。戻ってきた以上、覚悟をもって闘う」。自身にも周りにも厳しさを突き付け、妥協を許さない。そんな意識が、視線の鋭さとなって表現された。
ボランチの位置から前に出て相手に厳しく圧力をかける。守備の厳しさは、松本に強く要求されている
「松本泰志には、インテンシティーという単語の先頭に立つくらいのプレーを見せてほしい」
守備だけでなく攻撃にも大きな期待がかかる。ミドルシュートに磨きをかけたい
城福監督の期待に対し「強度はずっと意識してきた。しっかりと磨けば、チームにとって重要な選手になれる」と若者は言い切った。
松本泰志にもはや、甘さはない。何度も繰り返した「覚悟」の2文字こそ、若者の決意である。
松本泰志(まつもと・たいし)
1998年8月22日生まれ。埼玉県出身。昌平高時代にFWからMFにコンバートされたことで才能が開花し、高校3年時にインターハイではベスト4に進出。広島に能力と将来性を認められ、2017年にプロ入りを果たした。2019年、開幕からレギュラーを奪取し日本代表にも選出。ただそこからポジションを失い、2020年8月に福岡へ期限付き移籍。今季も期限付きでC大阪へと移籍していたが、7月26日に広島復帰が発表された。1年先輩の森島司と仲がよく、C大阪時代には毎日のように電話がかかってきたという。
【中野和也の「熱闘サンフレッチェ日誌」】