川崎Fの守備のエース・ジェジエウにとっては、いったい何が起きたのか、わからなくなったはずである。4月18日、J1第10節・対広島戦後半での出来事だ。
前半、川崎FのCBである背番号4は、広島の切り札=ジュニオール・サントスを全く問題にしなかった。まさに子供扱い。強烈な圧力をかけて押さえ込み、ボールを何度も奪った。シュートどころか前すら向かせない強烈な守備。その表情や仕草には、余裕すら感じられた。
「彼とは厳しい戦いになりましたね。自分の特徴を出させないように、距離を縮めて対応してきました」(ジュニオール・サントス)
しかし65分、ジュニオール・サントスは豹変する。
GK大迫敬介のロングボールをおさめたサントス。ジェジエウはこれまでと同じように身体を寄せる。
その瞬間、ジュニオール・サントスの身体がしなった。前に突進すると見せての急速方向転換。さすがのジェジエウもついていけない。この試合で初めて、彼はジュニオール・サントスに敗れた。
シュートを打った後、そこに森島司がいたことが見えていなかったと、ゴールシーンをジュニオール・サントスは説明してくれた(4月21日撮影)
カバーに入った谷口彰悟のタックルも問題にせず、ストライカーはシュートを放つ。ポスト。「やばい」とサントスは思った。だが、そこに森島司が風のように走り込み、同点ゴールを押し込む。
川崎Fにとってはまさに悪魔のような破壊力。ジェジエウは前半のような余裕はなくなり、ジュニオール・サントスに何度も突進を許した。それでも追加点を許さなかったのはさすがだが、試合後のCBは余裕を失い、疲弊に支配されていた。
ジュニオール・サントスとウーゴ通訳(右)とのかけあい。日本語もうまい(4月21日撮影)
2日後、練習場に現れたジュニオール・サントスは、まるで天使のような笑顔。
クラブがデザインしたブラジルブラザースのTシャツ(現在発売中)を見て「僕が1番、かっこいいだろ」とご満悦だ。
誰が1番、かっこいいか、そのランキングをジュニオール・サントスは発表する(4月21日撮影)
調子に乗ったジュニオール・サントスは「この中で1番かっこよくないのは?」という質問に、ある選手を指名。大きく笑った後、「シーッ」と口に指を当てた。
ごめんなさい、ジュニオール。
書かなかったけれど、映像は使ってしまいました。
ジョゼ・アントニオ・ドス・サントス・ジュニオール
1994年10月11日生まれ。ブラジル出身。極貧の中で育ち、クラブのアカデミーでサッカーを学ぶこともできなかった。スパイクすら買えず、拾った靴を手縫いで修繕し、何年も使っていた。17歳でプロサッカーの夢を諦め、土建業に従事。その労働で身体を鍛えたことが現在の彼の強さをつくった。2017年、草サッカーでの活躍を認められ、セミプロのチームに加入。2019年、ブラジル1部のフォルタレーザECに加入し、その年の夏には柏に移籍。昨年、横浜FMで13得点をあげる活躍を見せ、今季から広島でプレー。
【中野和也の「熱闘サンフレッチェ日誌」】