男性も女性も、体重はできるだけ減らしたい。それは現代社会を生きる人々の欲望でもある。
だが、プロのアスリートは時に、体重を増やす努力が必要だ。身体をぶつけられてもビクともしない強靱な肉体なくして、高い技術は発揮できない。
東俊希の高校時の体重は65キロで、180センチの身長からすれば痩せ型でひ弱なイメージすらあった。だが今季、左サイドバックのレギュラーに定着した若者は、マテウス(名古屋)のような屈強なアタッカーに対しても当たり負けしなくなった。
ここは、ちょっと聞いてみようかな。
今年の3月31日、取材の途中に何気なく「胸板が厚くなった?」と問いかける。瞬間、照れくさそうな笑顔。
身体が大きくなったことが嬉しいのか、質問に対する笑顔が無邪気でいい。プロとはいえ、まだ20歳の若者だ(3月31日撮影)
「いつも自分の身体を見ているので、(昔より胸板が厚くなったかどうかは)わからないけれど、そう言ってもらえると嬉しいです」
体重は増えていることは自身で確認している。プロフィールではずっと69キロとなっていたが、実は67キロ程度だったようで、今季ようやくその数字に追いついてきた。「いい感じです」と彼が語っていることから、おそらくは69キロが自身のベストと認識しているのだろう。
東は自分のプロフィールについて「68キロ」と語っていたが、実は1年目からずっと「69キロ」になっていた(3月31日撮影)
体重増の要因は、やはり食事だろう。実は彼は今年から、安田女子大(広島)の栄養学の先生に食事をサポートしてもらっている。週1度、自宅で食事をつくってもらう他、1週間分の作り置きまで。
「食事の重要性を考えていたら、実は代理人と先生が繋がっていることがわかって。先生の方もプロ選手との仕事は初めてだったようで、お互いにWinWinですね」と東は笑う。
食事は、アスリートにとっては練習の一環。適切な栄養の摂取と食事量の確保がトレーニングの相乗効果となる。「東の守備には信頼を置いている」とは城福浩監督の言葉だが、スキルや戦術眼の成長と共に肉体の頑健さがなければ、この評価を勝ち得ることはできない。
攻撃の面で評価が高まれば、サイドバックとしてさらに大きな存在になれる(4月15日撮影)
3度の広島の優勝に大きく貢献した髙萩洋次郎(現FC東京)が高い技術と独創性に加え、肉体の強さも増幅させたのは、アスリート・フードマイスターの資格を持つ愛妻の力が大きい。東俊希もまた、栄養学の先生という最高のサポート役を得た。いい食事からいい栄養を摂り、若者の肉体はさらにタフになる。
東俊希(ひがし・しゅんき)
2000年7月28日生まれ。愛媛県出身。MF。年代別の常連であり、2019年のU-20ワールドカップにも出場。その前年に行われたアジア最終予選(AFC U-18選手権)で、世界への出場権を賭けたインドネシア戦で強烈なミドルシュートを叩き込んで決勝点をあげ、U-20ワールドカップ出場に大きく貢献した。人懐っこい性格で特に荒木隼人とは仲がよく、J初得点(2020年第20節鳥栖戦)を決めた後、荒木からプレステ5をプレゼントされている。
【中野和也の熱闘サンフレッチェ日誌】