悔しさが不意に胸を突き上げた。ポロッ、ポロボロ。涙が溢れて止まらない。
4月7日の横浜FC戦。フィールドプレーヤーでただ1人出場できなかった藤井智也は、ロッカールームで泣き続けた。
シーズン開始から横浜FC戦までのリーグ戦8試合中3試合に先発するも、うち2試合が45分での交代、フル出場はなし。他の5試合もベンチ入りするも起用されない。
「なんでだよ。なんで俺だけ……」
ただ一方で、試合に出なくてホッとしている自分にも、気づいていた。
「試合に出せって言いながら、自信はない。本当はビビッていた」
怒り、悔しさ、情けなさ。そんな想いが爆発し、若者は泣き続けた。
ただ、涙が乾いた頃、彼は自分に問いかけた。
「泣くほど、俺は頑張っていたのか。そうじゃないだろ」
3日後の湘南戦、藤井は先発。またも、45分で交代。だがもう、苛立ちはなかった。
「相手にビビッていた。使われなくて当然だ」
気持ちをリセットした藤井は、やるべきことを箇条書きにまとめ、それをシンプルに表現しようと決めた。
相手に身体を寄せる。ボールを奪う。そして走る。
それを続けているうちに、城福浩監督の口癖である「守備から入る」の意味が、見えてきた。
「守備で優位に立てると、攻撃のやりやすさが全然違うんだ」
やるべきことが明確になった藤井の心から「怖れ」はなくなった。酒井宏樹(浦和)や酒井高徳(神戸)ら欧州でも活躍したサイドバックとも堂々と渡り合った。
戦術理解が深まり、やるべきことが整理されたことで、攻守の機能性が高まった彼への信頼は厚くなる。5月23日の対C大阪以降10試合に先発し、フル出場も5試合。指揮官は彼の活躍を認めつつ「緩急の判断のところを磨いてほしい」と成長を期待する。
同じポジションを争う東俊希は、最近2試合で1得点1アシスト。
「(自分は得点やアシスト等)明確な結果を残せていない。焦ってきました」
それでいい。この危機感こそ、藤井智也のエネルギーになる。
藤井智也(ふじい・ともや)
1998年12月8日生まれ。岐阜県出身。立命館大進学後に頭角を現し、3年時は関西学生リーグでアシスト王とベストイレブンを獲得。大学4年生の昨年春、広島に内定。同時に強化指定選手に承認され、リーグ戦15試合に出場した。今年まで寮生活だが、来年には待望の1人暮らし。今はゆっくりと新居を物色中だ。
【中野和也の「熱闘サンフレッチェ日誌」】