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コロナで変わるボクシング界 選手とファンで作る新しい形へ

緊急事態宣言のさなかにあった4月13日、YouTubeに「【コロナに負けるな!】レジェンドボクサーコメントリレー」が投稿された。

発起人の元WBA世界ミドル級王者の竹原慎二氏をはじめ、20人以上の世界王者らによる計3回の動画が公開された。5月末時点で10万回以上再生され、多くの人に勇気を与えた。


ボクサーが所属ジムや世代の壁を超えて協力した、日本ボクシング史上最大規模の取り組みだろう。なぜ、これほどの企画が実現できたのだろうか。

コメントリレーの裏側


理由は二つある。一つは、ボクサーたちが「同じ思い」を持っていたことだ。

発起人の竹原氏はジムを経営する傍ら、タレント活動などで活躍しているが、多くの仕事がキャンセルに。自身も苦労する中、ふつふつと湧き上がる思いがあったという。


「コロナの影響で大変な思いをしている人たちに勇気を与えたい。ボクサーとして何かできることはないだろうか」

しかし竹原氏は、引退して14年。今では交流のあるボクサーも少なく、「同世代の選手は声掛けができるが、他の選手は会えば挨拶するくらい」だった。

そこで相談したのが、「世界チャンピオン会」のガッツ石松会長だ。

元王者と現役ボクサーのかつてない連携


チャンピオン会には、日本が生んだ歴代の世界王者が名を連ねる。ガッツ氏の声掛けもあり、賛同はまたたく間に広がっていった。動画の冒頭、ガッツ氏はこう語りかける。

「我々、世界チャンピオン会は、力を合わせてコロナウイルスに負けないよう、ノックアウトしたいと思う。”KO”牧場!」

続いて、浜田剛史氏、大橋秀行氏、薬師寺保栄氏らレジェンドが言葉を重ねていく。


「家にいながらもやれることがいっぱいある。久しく会っていない人に連絡を取るとか、こういうときだからこそ、心のつながりを大事にしたい」

元WBA王者の飯田覚士氏が優しく連帯を呼びかければ、現役4階級王者の井岡一翔は力強くこう約束した。

「コロナウイルスが終息したら、勇気を与える試合をしたいと思います」

動画のコメント欄は「元気でた!ありがとう」「コロナなんかに負けない!みんなでこの敵に打ち勝ちましょう!」など温かい言葉で埋まった。


そうそうたる面々が思いを一つにして集結する様子を目の当たりにした竹原氏は、「企画を立ち上げた当初は、こんなに集まるとは思わなかった」と驚く。

普段交流のない選手同士がつながり、ボクサーにとっても意味のある取り組みとなった。

世界王者もSNSで発信


企画が成功したもう一つの理由は、ボクサーの「意識の変化」だ。

メディアを介した一方通行の発信だけでなく、SNSを通じファンとの相互コミュニケーションを大切にする選手が増えているのだ。「ボクサーは拳で語る」のが当たり前だった時代にはなかった、新しいボクサーのあり方だ。


ボクシングは個人競技のため、チーム単位のプロモーションはあまり行われない。セルフプロデュースへの前向きな意識が、より顕著に表れたとも言えそうだ。

そしてなにより、ファンを思う気持ちが、企画への参加意欲を大きくさせた。

協力した現役世界チャンピオンもファンとの交流に積極的だ。2階級王者の京口紘人は、外出自粛期間中に井上尚弥などの似顔絵をTwitterに投稿し、ファンへのプレゼント企画を行った。


京口は「ボクシング以外でもファンの方たちに喜んでもらいたいと思ったので、良い機会になったと思います」と話している。

3階級王者の田中恒成は、自身のトレーニング動画などを積極的にSNSで配信している。

「試合を見せることができないので、ファンの方に家で過ごす時間を楽しんでもらえたらと思っています」

田中とは私もオンラインでのファン向けのトークショーを行った。田中の意外な一面や本音が聞け、ファンからも喜びのコメントが溢れた。

選手とファンの新しい形


コメントリレーの企画が成功したように、今後は選手を身近に感じられる「巻き込み型のファンビジネス」が進んでいくのではないだろうか。

クラウドファンディングがいい例だ。

コロナの影響による経営危機を乗り越えるため、ボクシングジムが積極的に資金集めを行っている。


大手のワタナベボクシングジムは、目標金額の600万円を上回る760万円の支援を集めた。


ファンから直接支援を集め、ファンと一緒にこの危機を乗り越える。これまでにない新しい取り組みだ。

これほどの長期間、ボクシングの試合が行われなかったことはない。これがボクサーたちのパフォーマンスにどんな影響を与えるのか、未知数だ。


しかしこの間に、選手とファンの関係がより深まったと思っているのは、筆者だけではないはずだ。コロナ禍をファンと共に乗り越えることで、アフターコロナのボクシングは新しい進化を遂げていくだろう。

【木村悠「チャンピオンの視点」】