ーー近年はプロデュースも手がけるようになった俳優・山田孝之(37)。その理由の1つは、“日本の俳優をとりまく環境を変えていきたい”という強い思いがあったからだという。
具体的には13年前、24歳ごろから、小栗旬くんら同世代の仲間たちと“映画界やエンタメ界をよりよくするために何かしなければいけない”と、話し合うようになりました。なぜこの世代が問題意識を持つようになったのかは、正直よくわからないのですが……。飲んで話していると、みんな同じようなことで悩んでいることがわかってきたんです。
先日、僕が俳優のためのユニオンを結成することを考えているという報道があり、驚きました。俳優のための組合が必要と主張する仲間がいるのも確かなのですが、僕が考えているのはプロデューサーとして環境を変えていきたいということだったからです。
プロデューサーであれば、撮影現場での労働時間や睡眠時間も決めることができるし、さらに儲かったときの利益の分配のルールも作ることができます。当時もいまも改善されていないのですが、問題点としてわかりやすいのは“慢性的な睡眠不足”でしょうか。もちろんこの問題はお金とも関わっています。
映画やドラマでいちばんかかるのは人件費。撮影日程が長くなればなるほど人件費がかさんでいくことになります。だから短い日程で撮影を行うようになるわけですが、後半になっていくとスケジュールが過密になっていき、“眠れない日”が増えていくのです。
僕らキャストが寝ていないとなると、スタッフたちはさらに眠れていない状態です。まず睡眠が足りていない状況でベストパフォーマンスができるわけはありません。画面に映ったときに、肌荒れやクマが見えたりすることもあるでしょう。
それに病気やケガ、移動中の車の事故などのリスクも高まります。本当に当たり前のことですが、撮影と撮影の合間の時間を空けて、十分な休養をとるべきだと思っています。だから僕が映画『ゾッキ』(※来春公開予定)のプロデューサーとして心がけたのは、まさにその点でした。“必ず8時間空ける”というルールを作って、それを守ることができたのです。3週間という期間ではありましたが、クランクアップまでスタッフもみんな元気でした。このことは絶対に作品の質にも表れていると思います。
もちろん僕ひとりの力では限界があります。ただこういう機会に訴えていくことで、俳優やスタッフたちが働きやすく、そして質の高い作品を作れる環境を作るべき、という考えを広く知ってもらえればと考えています。
僕が質にこだわるのは、もっと映画を見に来てくれる人を増やしたいと考えているからです。作品の質が上がれば、国内だけではなく、海外へ販売できる可能性も高まります。そうやってお金が集まるようになれば、次の作品で挑戦できることの幅も広がるでしょう。仕事相手とお金の話をするのは正直好きではないです。でもそれで少しでも俳優やスタッフが楽になればとも思うので、慣れていきたいと思いますね。
ーー実生活では’12年に結婚し、’13年に長男が誕生している。いつも個性的な役を演じている印象が強い山田だが、今夏に公開された映画『ステップ』では、シングルファーザーとして娘の養育に奮闘する会社員を演じた。
奥さんに対しては家事に育児にと、“こんなことずっとやってくれているんだ”って、あらためて感謝しました。もちろん『ステップ』の撮影期間だけではありません。こんなに自由に仕事をさせてもらっていますし、いつ僕が家に帰れるかわからない状態で息子も育ててもらっていますし、奥さんにはずっと感謝しています。
僕が家でやっていたことといえば、息子が宿題をやらずにテレビを見ているときに、『宿題をやりなさい』と、たまに言うぐらいだったので。でも、あまり勉強には重きを置いていないんです。今後、AIが発達していけば、人間がやれる仕事も減っていくじゃないですか。それでも人間にできるのは“表現すること”だと思っています。
料理で表現するのか、アスリートとして肉体で表現するのか、僕みたいに芝居や歌で表現するのか……。息子の人生ですので彼自身が選んでいくでしょう。僕も15歳から俳優を始めて、21年間続けているわけですが、彼がどのタイミングで何を始めるのかはわかりません。なるべく縛らないようにしているつもりです。
ただ唯一、僕が必要だと思って習わせているのが水泳です。生きるために必要な力ですからね。泳げなかったら海に落ちたとき死んじゃいますし、体力と免疫力を上げることもできます。
僕自身は、姉2人が水泳教室に通っていたのに、経済的な事情で僕だけは通わせてもらえず、19歳のときにドラマ『WATER BOYS』に出演するまで泳げませんでした。だからなおさら水泳にはこだわったのでしょうね。昨年、息子といっしょに海水浴に行ったとき、海に投げ込んだのですが、しっかり泳げていました。
ーー最後に来年の目標について質問すると、意外な答えがーー。
本当は昔から自給自足の生活に憧れているんです。田舎育ちだったこともあると思います。野菜を育てたり、捕ってきたものと作ったものを交換したり……。いまさら毎日渋谷に行ったりしたいとも思いませんしね。だから、いますぐにでも自給自足生活を始めてもいいぐらいです。
でも始めてしまったプロジェクトには責任もありますし、好きでやっていることもあります。だからやっぱり来年も仕事を頑張っているのではないでしょうか(笑)。
「女性自身」2020年12月15日号 掲載