「毎年、夏本番の暑さを迎える7月以降は、誰もが熱中症に対する警戒意識を持ちます。しかし、5〜6月の時期も、熱中症で救急搬送される人が年々増え続けているんです。気温が一気に上昇したときに発生しやすく、いまの時期から注意をしておくべきでしょう」
こう警鐘を鳴らすのは、堺市立総合医療センター救命救急科の医師で、熱中症予防啓発ネットワーク代表の犬飼公一さん。大量に発汗し体内の水分や塩分が失われ、めまいや頭痛、体温の上昇、けいれんなどを引き起こす熱中症。軽い症状で済む場合から、命に関わるほど重篤になるケースもある。
とくに高齢者は重症化のリスクが高いとされている。厚労省によると、’18年は記録的な猛暑により、1,581人が熱中症で亡くなっているが、そのうち高齢者は約8割にあたる1288人にもなる。
今年はコロナ禍により、これからも“巣ごもり”生活を多くの人が送る。「家から出なければ熱中症にならないのでは?」という声も上がりそうだが、それは“大間違い”だと犬飼さんは指摘する。
「室内にいても、熱中症を引き起こす原因はじゅうぶんあります。人間の体というのは、日光を浴びるなどしながら、周囲の熱を使って、徐々に自律神経の働きを整えていきます。その過程で、汗をかきやすくなったり、暑さに慣れていくのです(暑熱順化)。ところが、外出自粛によって日光を浴びたり外気の熱に触れたりしていないため、その暑熱順化が進んでいない。急激に気温が上がると、当然室内の温度も上がる。暑熱順化ができていないとその変化に体がついていけず、熱中症を引き起こしてしまうのです。この時期の熱中症のリスクは、例年より高いといってよいでしょう」
そしてこの時期、熱中症のリスクを高める要因はもう1つーー。コロナ感染を防ぐためにつけているマスクが熱中症を引き起こしてしまうという。
「本来、人間は皮膚や口からたまった熱を外に出しています。マスクをずっとつけていると、口から熱を出しにくくなり、体の中にたまってしまう。また、マスクをしていると口の中は湿っぽい状態が続くので、喉が渇いたことに気づきにくい。さらに、マスクをつけていることでじゅうぶんな水分補給ができず、室内で脱水症状を引き起こしてしまう場合もあるので、とくに高齢者には注意が必要です」
家庭内感染を防ぐために室内でもマスクをつけている、という人は多い。コロナばかりに注意していると、気づかぬうちに“かくれ脱水”を引き起こしてしまうことになりかねないのだ。
「女性自身」2020年6月9日号 掲載