最近は歌姫としての話題よりも、その振る舞いなどに批判も多く集まっていた彼女。《事実に基づくフィクション》としてはいるものの、ここへきての“暴露本”に多くの人が驚きと注目を寄せています。
40歳になった今、なぜ20代の栄光を語る必要があるのか。そしてそれによって、周囲はあゆに痛々しい印象を抱くのか。今回その“問題作”を読んだ感想と、今後のあゆについて少し思いを馳せてみたいと思います。
■A to M! 禁断の恋愛回想録
本書を手に取ったことの無い方に向けて少し内容をご説明しますと、ここで書かれている「浜崎あゆみが愛したM」とはエイベックス・ホールディングス株式会社・代表取締役会長CEOである松浦勝人氏(54)のこと。
あゆがどうして松浦氏と出会い、そして愛するようになったのか。愛を隠しながら歌姫へと変身を遂げたのか。そして愛し合っていた2人がなぜ別れたのか。20年ほど前のキラキラとしたラブストーリーが、ロマンチックな文体と共に綴られています。
まあ簡単に言えば、2人はソウルメイト的な運命を感じたのでしょう。そこはどの程度リアルかは知る由もありません。
本書では、あゆが綴った初期の詩はすべて松浦氏に向けたものだと書かれています。
「poker face」「YOU」「WHATEVER」「appears」「Trust」「vogue」「Boys&Girls」そして「M」。黄金期の曲の多くは松浦氏への愛の歌であった。
これは当時夢中で曲を聴いていた人からしたら、ある人は落胆し、そしてある人は懐かしさと同時に答え合わせを楽しむような気持ちになったことでしょう。
■40歳の浜崎あゆみの壮大なプロモーション活動のスタートなのか?
甘やかでロマンチック。それでいて時代を築き上げるエキサイティングな関係だった2人。しかし次第に心も時間もすれ違い、関係は終焉を迎えます。
とここで、冷めた意識がサッと走ります。酒に溺れる松浦氏と対象的に、浜崎あゆみが関係悪化によって自堕落だったり悪く書かれていたりすることが一切ないのです。
あゆが孤独や不安を感じて涙したりホテルに逃げ込んだりした描写はあっても、怒りを顕にしたり罵声を浴びせたりといった生々しい対話は描かれていません。
「そうか。これは40歳から再始動するあゆの壮大なプロモーション活動なのか」
そう思ったら、なんだか全てに納得感がいくわけです(そもそも本人公認商品なのですから、もっと早くに気づくべきなのですが)。
キラキラとしたストーリーの中に組み込まれた青春を思い出す等身大の詩。これからも歌い続けたいと宣言する、40歳のあゆ。
そして松浦氏との再会と、再度一緒に歩むことが書かれた今(ここでいう歩むとは、恋愛関係になるのかビジネスパートナーとして歩むのか、詳細は触れていません)。
正直、当初予想していた“痛々しい暴露”は1ミリもありませんでした。輝かしい平成の時代にあった愛の物語。それを出し切ること自体、令和になってさらに進むという浜崎あゆみなりの新たなプロモーションの一歩なのかもしれません。
本書を読み終えた私は今、初期の浜崎あゆみのアルバムを聞き直しています。やはりドンピシャ世代の心に居座る、あゆの曲への特別感はいまだ健在。だからこそ、令和の浜崎あゆみはどうなるの?そんなワクワクを思わせてくれる一冊でした。
(文・イラスト:おおしまりえ)