「最近はスマホやパソコンの長時間使用が日常的になり、IT猫背とも言われる前傾姿勢の人が増えています。これでは呼吸が浅くなって、呼吸に関連する筋肉群である“呼吸筋”の柔軟性が失われ、体の隅々の細胞も元気がなくなってしまいます」
そう話すのは、ハーバード大学医学部で内科学の最先端領域を研究している根来秀行先生。根来先生は正月に開催された箱根駅伝で見事優勝した青山学院大学の陸上部をはじめ、多くのトップアスリートのアドバイザーも務めている。
私たちは24時間絶えず無意識に呼吸をしているが、通常の呼吸の1回の換気量は500ml程度。これが浅い呼吸になるとその半分の250ml程度、いっぽう深い呼吸だと1Lにもなる。
また、呼吸によって吸い込んだ空気には死腔と呼ばれるガス交換に使われない部分がある。これはどんな呼吸をしようとも等しく毎回150ml程度。つまり、呼吸の深さによって、1回の呼吸で3~9倍近くの換気量の差が生じることになる。
「肺に取り込まれた空気は肺胞へ送り込まれ、毛細血管を通じて体の隅々の細胞に送り込まれます。そして、細胞が酸素と栄養素を受け取る“細胞呼吸”をした後、不要となった二酸化炭素は吐き出されます。このように、隅々の細胞がきちんと呼吸できていて、十分に酸素が行き届いていると、免疫力が高まります。さらに、呼吸筋の一部で、腹式呼吸で使われる横隔膜は、毛細血管が張り巡らされていて、自律神経も集まっているところです。横隔膜をゆっくり動かすと自律神経のうち副交感神経が優位になり、全身の毛細血管が緩み、細胞呼吸が行いやすい状態となります」
ところが、猫背など姿勢が悪い状態がクセになると、胸で小さく呼吸する胸式呼吸になり、呼吸筋が硬くなり、呼吸の効率が悪くなる。すると、体の隅々の細胞で細胞呼吸が十分できなくなり“隠れ酸欠”の状態に陥ってしまうという。細胞の呼吸不足は自律神経の乱れにつながってしまう。
女性は更年期あたりからホルモンのバランスが崩れ、交感神経が優位になりがち。隠れ酸欠はその不調に拍車をかけることになる。
さらには、毛細血管も60代では20代に比べて半減してしまうというのだから、隠れ酸欠を放置していると体にとってはよくないことばかりなのだ。
「女性自身」2020年2月25日号 掲載