お盆休み突入後も増え続ける新型コロナウイルスの感染者数。全国の感染者は連日、1,000人台で増え続け、8月7日には過去最多となる全国で1,605人を記録した。
緊急事態再宣言を求める声も高まるなか、政府は消極的な姿勢を崩さない。9日の会見で安倍晋三首相は「Go Toトラベルキャンペーン」を推進する考えを改めて表明するなど、感染抑制への糸口は今も見えていない。
そんな状況下でさらに懸念されているのが後遺症だ。
ICU(集中治療室)でコロナの重症患者治療にあたる自治医科大学附属さいたま医療センター集中治療部教授の讃井將満先生は「後遺症の実態把握には世界的に時間が必要で、現時点での正確なデータはない」と前置きしながらも後遺症についてこう語る。
「私が実際に見た後遺症としては、筋力の低下や肺機能の低下のみで、幸いにも脳や心の後遺症は今の所起きていません。イタリアで発表された新型コロナ感染症の後遺症に関する報告によると、回復後(発症から平均2カ月後)も87.4%の患者が何らかの症状を訴えているといいます。事実、日本でも後遺症を示す事例の報告が相次いでいます。
また世界で共有されているデータとして、肺炎が重症化してICUに入院したことがある患者は、一般的に肺の機能が落ちるだけでなく、記憶力や注意力などの認知機能が落ちたり、うつやPTSDになったりすることもあります」
ICUでの治療を経験した患者に起きる主な後遺症としては「運動機能障害」や「認知機能障害」などだ。
「身体の障害としては、肺機能や筋力の低下。手が上がらない、手のしびれが残るというようなこともあります。頭の問題としては、認知機能障害があって、記憶力や計算力、難しいことを考える思考力などが低下することもあります」
それだけでなく、うつ病やPTSDといった“心の後遺症”が発生する可能性もあるという。
「ICUは患者さんの快適さよりも、命を救うことを最優先に作られています。ですので、機材のアラーム音などがうるさく聞こえてしまうかもしれません。そうした音が頭にこびりついてしまい、回復しても時には汗をかいて呼吸が荒くなるなど、自律神経の症状、つまりPTSDを発症してしまうことがあります。肉体的にも階段を軽々と登れなくなるなど、生活機能が低下することによって気持ちが落ち込むこともあります」
さらに入院した場合に隔離が必要といったコロナの特性がリスクを高める危険性も。
「新型コロナは、家族や医療者のサポートがゾーニング(編集部注:病院内でコロナに汚染されている区域とそうでない区域を区分けすること)によって弱まるという点が加わります。たとえば意識障害が出て呼吸器の管を引き抜こうとする場合、通常なら、そばで声をかけて麻酔や鎮静薬を使わくてもいいようにします。しかし、コロナの場合はそういうこともできないため、薬を使わざるを得ないことがあります。
また家族との面会もできないといったこともコロナでの後遺症を招く要素にもなっています。家族とも何カ月も対面できず、心理的にも問題が出ておかしくはないのです。こうした後遺症はSARSやMARSが流行した際も同じことが言われていましたが、今回は世界的に症例数も多いので目立っているのだと思います」
ここまでICUでの治療が必要な重症者の後遺症について触れてきたが、決して無症状や軽症患者にとっても他人事ではない。讃井先生は警鐘を鳴らす。
「確かに重症患者には、後遺症が高頻度に起こるであろうと思っていましたが、日本や世界で退院する患者が増えるにつれ、軽症・中等症でも一定数の患者が後遺症に苦しんでいることを知るようになりました。まだこれから長期間で研究しないと確かなことは言えませんが、そうしたことがわかってきています。
無症状であっても、体に痕跡がゼロという訳ではないこともあるのです。症状は出なくても、肺の奥では炎症が起きている可能性もあります。まだ長期間で検討する必要はありますが、無症状、軽症、中等症の人でも、3カ月経っても疲れや胸が痛い、関節が痛い、頭が痛いなどの症状が残っていることもあります。4月の上旬にかかって、3カ月経った今でもまだだるいという人も実際にいました。重症でなくても、後遺症は怖いのです」
実際、讃井先生がヒアリングした4月上旬に感染した中等症の30代看護師は、発症から3ヶ月近く経っても少し歩くだけで息切れし、すぐ筋肉痛になったという。また同看護師は、復職後に同僚から必要以上に距離を取られるといった差別という“後遺症”にも悩まされていたそうだ。
こうした状況に讃井先生は「後遺症が起こった人には社会的なサポートや理解が必要」だと語る。感染者が増え続け、後遺症に悩む人も増えることが予想される今、国には病と真摯に向き合う姿勢が必要ではないだろうか。