クリスマスといえば「きよしこの夜」ですよね。
この日本語のタイトルは、最初は実は違う名前で訳されていたことはご存じでしょうか。その名も「志ののめ」。なんだかさらに厳かな雰囲気が漂いますね。
詩をつけたのは湯谷磋一郎、納所辨次郎編纂で1894年(明治27年)に警醒社から発行された「クリスマス讃美歌」という中にあります。湯谷磋一郎は同志社神学校を明治二十四年に卒業、牧師となったのちに日本音楽学校の教授となった人物。
「東雲(しののめ、とううん)」とは日本の古語で、闇から光へと移行する夜明け前に茜色にそまる空を意味します。
クリスマスとはキリストの降誕祭なのは広く知られているとは思いますが、実はキリストの誕生日ではなく、生まれた月日は聖書にはっきりとは記されていません。第36代ローマ教皇・リベリウスが、「キリスト誕生の記念祭」として便宜的に定めたに過ぎないのです。
しかし、聖書の記述から「生まれた時間」は推測することができ、それは日没から夜明け前までの間とされているのです。まさに「東雲」というのはこの状況にぴったりの言葉ですね。
ちなみに「しののめ」は数字譜で書かれていますが、数字譜というのはハーモニカや大正琴では現代でも使われている楽譜。筆者はまるで楽譜に疎いのでわかりませんでしたが、お琴など習っている方はメロディーが浮かぶのでしょう。(ちなみに数字の1,2,3,4,5,6,7は、それぞれドレミファソラシで0は休符とのこと)
現在一般的な「きよしこの夜」という題名にして歌詞をつけたのは、由木康(ゆうきこう)という牧師の手によります。初めて収録されたのは1909年の『讃美歌』第2編。1961年には小学校6年生の音楽の教科書に採用され、1988年まで掲載されていました。
「きよしこのよる ほしはひかり すくいのみこは まぶねのなかに ねむりたもう いとやすく」…だいぶ優しい雰囲気になりました。
救いの御子はキリスト、まぶねとは「馬槽」と書きその名の通り馬のかいばを入れる桶のことで、キリストが馬小屋で生まれた後に入れられていたことにちなみます。
日本のカトリック教会においては、別訳でカトリック聖歌集111番の「しずけき」というタイトルとして親しまれているそうです。
元はドイツ語で書かれた讃美歌で何番もある詩歌。訳者によってどの部分を採用するかは違っていて当然と言えますね。