引退した力士は、なぜ半年以上もたってから「断髪式」を行うの?
2020(令和2)年1月場所後、大関・豪栄道が現役引退を発表しました。今後は年寄「武隈」を襲名し、親方として後進の指導にあたることとなります。
ところで、力士が引退すると「断髪式」を行い、力士の象徴である髷を切り落とします。
しかし引退から断髪式までには数ヵ月間が空くことがほとんどで、その間元力士たちは髷を結ったまま生活しています。
中には1年近くも髷があるままの親方もいます。
引退会見の翌日に床屋でバッサリ!という人はほとんどいないのでしょうか?もしかして、引退して数ヵ月の間に力士の気が変わって「やっぱり現役続行します!」となる可能性を考慮しているのでしょうか?
番付が高かった力士ほど大変そう?実は準備がいろいろある断髪式
引退した力士の断髪式は、番付最高位によって規模が変わってきます。
関取経験のない力士の場合は千秋楽後に所属部屋のパーティーの中で行われ、30場所以上関取を務めた力士は両国国技館で引退相撲とともに行うことができます。
横綱の断髪式ともなると、その横綱の最後の土俵入りや幕内力士の取組などが行われ、巡業と同等のイベントとなることも多いです。
しかし当然のことながら、その会場である両国国技館を押さえたり、引退する力士の後援者や友人・知人等への案内状を作成・送付したり、当日の名簿や記念品などを作成したり、チケットの印刷や販売をするなど、事前に準備しなければならないことが山ほどあるのです。
力士によっては、お世話になった後援者に挨拶に出向くこともあるでしょう。
これらを滞りなく行うためには、少なくとも半年~の時間は必要となります。番付最高位の高かった力士ほど、断髪式の準備は大変そうですね。
また力士は、髷が頭のてっぺんに乗りやすいように、頭頂部の髪を剃る「中剃り」をしています。
どのくらい剃っているかはその力士の髪の量によりますが、もしそのまま髷を切り落としてしまうと、まるで時代劇の「落ち武者」のような微妙な髪形になってしまうおそれがあります。
ですから断髪式の諸々の準備と同時に、それを目立たなくするためにある程度期間を空けている場合もあるのです。
「床屋でバッサリ」という力士もいたにはいたけれど…
その一方で、本当に「床屋でバッサリ」断髪してしまった力士も存在します。
いまだに記憶の新しい2019(令和元)年9月場所前、付け人に対し2度目の暴力事件を起こしたことが問題となり引退した元十両・貴ノ富士は、引退後の断髪式は行わずに理髪店で髷を切りました。
断髪した髪は、ヘアドネーションを行うNPO法人に寄付したとのことです。
また2008(平成20)年9月に大相撲力士大麻問題で解雇された元幕内・白露山は、なんと故郷のロシアへ帰る飛行機の中で自ら髷を切ったのだとか!
しかも彼はその時点でかなり髪が薄くなっていたため、「素手で引っこ抜いた」とのこと。
彼らのほかにも、不祥事や健康上の理由で断髪式を行わなかった力士はいますし、中には最初から髷自体がなかったため、断髪式の代わりに握手会を行った力士もいました。
いずれにせよ、力士にとってその「象徴」である髷を落とすということは、私たちが考える以上に重い意味を持つことなのです。