「愛知県豊田市の本社近くの駐車場に、“東京五輪カー” 仕様の『MIRAI』が、雨ざらしになっているそうなんです」
そう話すのは、トヨタ自動車関連企業のある社員だ。11月下旬、本誌が件の場所を訪ねると、ボディに東京五輪・パラリンピックのエンブレムが塗装された、400台にものぼるMIRAIが、薄汚れたまま放置されていた。
「MIRAIは、水素を燃料とする世界初のセダン型FCV(燃料電池車)で、2014年に発売。初代モデルの価格が740万円以上もするので、ちょっとした高級車として話題を呼びました」(経済部記者)
2019年8月にトヨタは、東京五輪へ約3700台の専用車両を提供すると表明した。屋外に並べられた、およそ400台のMIRAI「東京五輪カー」は、総額で約30億円にもなる。ほったらかしにするにしては、スケールがデカすぎる。
トヨタ自動車に、放置していた理由を聞くと、「納車予定の一部を、一時的に保管しております。保管する状況がいつまで続くかについては、回答を控えさせていただきます」(広報部)と答えた。
東京五輪という晴れ舞台が延期となって、悲しげに鎮座するMIRAIとは対照的に、2020年上半期のトヨタの世界販売台数は、ドイツ・フォルクスワーゲンを抜き首位。今期(2021年3月期)の営業利益予想は1兆3000億円と、圧倒的な販売力を見せつけた。
しかし米国では2021年、電気自動車普及を目指すバイデン氏が、次期大統領に就任する。『朝日新聞』は11月25日付朝刊で、新政権への支持を表明した米自動車大手ゼネラル・モーターズが、「トヨタ自動車など、トランプ政権側についているほかの自動車大手にも、同調するように呼びかけた」ことを報じた。
エコカーを五輪に提供しつつ、一方では環境規制を緩和しているトランプ政権を支持してきたトヨタは、バイデン政権にどう対処するのか。
「もともとMIRAIは、日本国内よりも米国で売れており、すでにトヨタは、エコカー普及を掲げるバイデン政権の政策に合致した車を展開してきているんです」(自動車ジャーナリストの小沢コージ氏)
五輪延期や気候変動問題に直面しても、商売上手なトヨタの未来は、常に明るいようだ。
(週刊FLASH 2020年12月15日号)
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