18歳以下の子供に配られる、10万円の特別給付金。振込先は、2021年8月末時点で登録されている児童手当の口座だ。したがって、9月以降に離婚した夫婦の場合、子供を育てているほうの親へ給付金が振り込まれない可能性が問題視され、政府は「交付金」を使って、あらためて給付金を受け取れなかったひとり親を対象に、10万円を支給できるよう制度を見直した。
しかし、この国の方針に激しく抗議する人物がいる。これまで行政の非効率や無責任に何度も噛みつき、声を上げてきた兵庫県明石市の泉房穂市長だ。
「私は、『交付金』という“別枠”を設けることに反対です。子供を育てていない元配偶者に振り込んでしまったのなら、それを回収するか、ひとり親のほうへ振り込むように働きかけるべきです。
このことを私が内閣府の担当者に訴えると『そんなことせんでええ』と言うんです。これでは、子供を育てていない元配偶者に10万円をあげることになる。あるいは“二重取り”を狙った偽装離婚に荷担せえって国は言っとるんですよ!
支払いを拒んでいた元配偶者があるときひとり親のほうへ10万円を振り込んだとすると、今度は意図しない二重取りになりますが、これも国は回収しなくていいと言っとるんです。これでは子供が、『アイツだけ20万円もらっている』といじめに遭う。
いずれにしてもとんでもない話。なのに国は寝た子を起こすな、細かいことには目をつぶれと言わんばかりに、新たに10万円を配ったらあとは知らんという態度で、ふざけるなと思いましたよ」
原因は、官僚が政治家と自治体からの二重の突き上げをくらい、その場しのぎのずさんな決定をしたためだという。
「年内配布を目指す政治家からは『早くしろ』、手続きをおこなう自治体からは『ラクさせろ』と言われ、内閣府の担当者は顔色をうかがったり、媚びを売ったりして仕事をしている。結局、国民のほうを見ていないんです。
さらに国はスピード優先だから、少数者への目配りができなくても仕方ないと言い訳するんですが、とんでもない! なんだかんだ言って年内に配れたのは、所得制限内の家庭の15歳までの子供。16歳から18歳の子供や、所得制限以上の家庭の子供への配布はこれからなんです。
まず、支給を決めたのは12月なのに、8月時点の登録口座へ振り込むことにしたのが失政。4カ月もあれば、離婚する家庭が出てくるは明らか。でも国は、9月以降に離婚した家庭を“例外”扱いして無視した。本来なら、行政には例外に対応する丁寧さが不可欠なんです。
私は、政策のスピードと丁寧さは両立すると考えています。明石市は支給の段階で、対象である約44,000世帯から、9月以降に離婚した約80世帯を抽出し、元夫婦双方へ、あらためて振込先の申請書を送付しました。この作業は、3人の市の職員で1時間くらいで終了。明石市の人口は約30万ですが、大都市は行政区に分かれるため、1区当たりの人口と比べて極端に少ないわけじゃない。つまり、離婚した世帯を特別に処理する作業なんて知れている。人を増やす必要もない、普通の行政ですよ。なんもややこしい話やない。
また、子供を育てていない元配偶者へ支給してしまい、返還やひとり親への振り込みを拒否した場合、明石市は10万円を立て替えてひとり親へ支払ううえ、元配偶者を刑事告訴することにしています。でも実際は、裁判沙汰を恐れ、10万円を持って逃げ続ける人はごくわずか。行政コストにはなりません。
今回の給付金の配り方は明らかにおかしいので、国もまた見直すんちゃいますか」
これから明石市では、内閣府の担当者と、政府にひとり親への対応を促した立憲民主党議員によるヒアリングがおこなわれる予定だという。またもや政府の判断が変わることになるのか。
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