2月下旬、タイ南部の海辺を散歩していたシリポーン・ニアムリンさんが「龍涎香(りゅうぜんこう)」を発見した。その珍しさと驚きの価値から、ネット上で大きな注目が集まっている。
見慣れぬ大きなかたまりを見つけ、近づいてみたシリポーンさんは、魚のような芳香に気づいた。なんとなく興味を引かれ、そのまま家に持ち帰ることにした。ご近所さんに聞いてみると、その物体は「龍涎香」ではないかと指摘された。
「龍涎香」は、マッコウクジラがイカやタコなどを飲み込んだ際に、クチバシなどの硬質部分が消化されず体内にとどまり、長い時間をかけて結石化したものとされる。芳醇な香りがするため香料の原料として人気が高いが、捕鯨禁止もあり入手は困難になっている。
「龍涎香は『アンバー』とも呼ばれ、非常に希少価値のある香料の原料です。動物性で、香水を作る過程で使うと、香りが長もちしたり、全体に調和のとれた匂いになります。クジラの口から吐き出されたのち、海面を漂うことから『浮かぶ金塊』『海の財宝』などと呼ばれます」
こう話すのは、日本フレグランス協会の吉岡康子さん。実際、シリポーンさんが発見した「龍涎香」は、重さ7キロほどで推定価格2700万円だという。
現在、本物かどうか専門家に確認中だが、シリポーンさんは報道陣に対し「もし本物だったら、生活が楽になるわね。買ってくれる人を見つけないと」と語っている。
実は、過去にも龍涎香がたまたま見つかった例がある。
1899年(明治32年)8月、沖縄県名護市の海岸で発見されたときは、多くの人が奪い合うようにして持ち帰ったという。
2016年、イギリスの海岸で見つかった龍涎香は、重さ1.5キロで、およそ800万円の価値があった。このとき発見者は、「トレーラーハウスを買いたい」と語っている。
2019年には、タイ南部の海岸で6キロ超の龍涎香が発見された。3400万円相当だったが、発見者は物体の一部をナイフで切ろうとしたが、硬すぎて失敗。その後、地元自治体の調査で、ようやく本物と判明した。
「日本でクジラが浜に打ち上げられると、香料メーカーの方がアンバーを探しに飛んでいくという話を聞いたことがあります」(前出・吉岡さん)
「クジラの嘔吐物」といえば聞こえは悪いが、発見者にとっては予想外の福の神となる龍涎香。海辺を散歩していて見つけられたら、ラッキーすぎる。
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