「意図的な報道があり、女性蔑視だと言われた」
東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗前会長(83)は2月12日、辞意を表明した場でこう居直った。森氏の “女性蔑視発言” は、主婦も女子大生もOLはおろか、世界中の女性から猛烈な批判を浴びた。当事者でもあるはずの女性アスリートたちは、どう考えているのか――。
本誌は、30組の女性金メダリストに “森発言” について見解を求めたが、怒りの声はいっさい聞こえてこなかった。
まずは、2000年シドニー大会の女子マラソンで金メダルに輝いた “Qちゃん” こと高橋尚子氏(48)。JOC理事で、組織委アスリート委員会委員長を務めている立場だが、所属事務所を通じて、こうコメントを寄せるのみだった。
「まずは、組織内部で自身の意見を伝えることを最優先に考えております。従いまして、今回のようなご依頼については、御社のみならず、全メディアに対してお断わりを申し上げている次第です」
2004年アテネ大会の柔道78kg超級で金メダルを獲った東海大学講師の塚田真希氏(39)も、同大広報課を通じて「本学では現在、入試業務が入っており、ご対応が難しいことから今回はご辞退させていただければと存じます」と回答。同様の回答は、さらに続く。
レスリング女子で史上初の五輪4連覇を果たし、国民栄誉賞を受けた伊調馨(36)は、「検討しましたが、今回は見送らせていただければと存じます」(所属先のALSOK広報部)。
2016年リオデジャネイロ大会のバドミントン女子ダブルスを制した “タカマツ” ペアの高橋礼華氏(30)と松友美佐紀(29)も、所属事務所を通じて同じ反応で……。
「当趣旨の取材におきましては、恐れながら辞退させていただいております」(高橋氏)
「今回は回答を控えさせていただきます」(松友)
1996年アトランタ大会で柔道61kg級を制し、日本女子柔道界で初の金メダリストとなった惠本裕子氏(48)の回答からは、複雑な立場が窺える。
「私にも考えはございますが、軽々しく発言はできません」
判で押したように、いずれも歯切れが悪い。五輪3連覇を成し遂げた “霊長類最強女子” の異名を持つ吉田沙保里氏(38)や、アジア選手として、フィギュアスケートで初の冬季五輪金メダリストになった荒川静香氏(39)など、ほかの女性金メダリストからは、締切りまでに回答自体がなかった。
なぜ、こんなことになるのか。元JOC国際業務部参事で、スポーツコンサルタントの春日良一氏は、こう推察する。
「金メダルを獲った彼女たちはスポーツ界のスターで、世間からはオピニオンリーダーに見られがちですが、『金メダルを獲得するまで、日本のスポーツ界にお世話になった』と恩義を感じています。スポーツの発展のためにある組織や尽くしている人に対して、“文句” を言えなくなっているのだと思います。
彼女たちもアスリートという立場を外れれば、日常的には社会の一員です。ジェンダーについても、一般の人と同じ感覚を持っているはずなのですが……」
英国の歴史家・カーライルは、「雄弁は銀、沈黙は金」という格言を広めた。最高の栄誉に輝いた彼女たちこそ、“森発言” に怒ってほしいものだ――。
(週刊FLASH 2021年3月1日号)
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