国民の半分以上が少なくとも1回のワクチン接種を受けたアメリカで、接種ペースが目に見えて落ち込んでいる。ピーク時の4月13日には1日338万人がワクチンを受けたが、今では1日およそ100万人である。
接種率も州によってばらつきが出てきた。バイデン大統領は7月4日の独立記念日までに国民の7割に接種する目標を立てているが、ワシントン州やニューヨーク州があと10日以内で達成するのに対し、アラバマ州やミシシッピ州などは、このペースだと1年以上かかると見られる。
接種の進まない原因のひとつが、ワクチン反対派の存在だ。
インターネット上には、「ワクチンにはマイクロチップが入っている」「ワクチンがDNAを変異させる」「ワクチンが変異株の原因だ」などといったデマがはびこっている。いずれもファクトチェックにより科学的根拠のない誤った情報だとされたものだ。
NGO組織「CCDH」の調べによると、主要ソーシャルメディアに流されているワクチンに関するデマの65%は、わずか12名の影響力によるものだそうだ。
彼らは時として「ナチュラル・ヘルス」をすすめ、新型コロナの存在を否定したり、ワクチンや医師を非難したりする。科学的根拠のない療法を推奨し、サプリメントや本の販売、さらに会費を集める者もいる。
この12人の反ワクチン活動家は、膨大な数のフォロワーを抱えている。
そのなかの一人、ロバート・F・ケネディ・ジュニアは「5G(第5世代移動通信システム)がコロナに関連している」「元野球選手ハンク・アーロンの死はワクチンの影響だ」などの情報を流し、インスタグラムから締め出された。
彼の反ワクチン団体には1400万ドル(15億円強)出資する活動家がおり、ケネディ氏は団体から年間25万5000ドル(2800万円)ほどを得ているという。
この行動にはケネディ一族のメンバーからも「彼のことは好きだが、ワクチンに関しては間違っていて、致命的だ」というコメントが出されている。
こうした反ワクチン業界は、世間に誤情報を伝えることで公衆衛生を犠牲にし、年間少なくとも3600万ドル(40億円弱)の収益を生み出し、さらに政府の給与保護プログラムから少なくとも150万ドル(約1億6500万円)の融資を受けているという。
12名に関連する団体は22組織あり、少なくとも266名の雇用者がいる。12名の合計フォロワー数は6200万人を超え、フェイスブックからは11億ドル(1200億円)、ユーチューブから70万ドル(7700万円)、ツイッターから760万ドル(約8億3000万円)の年間収益がある計算だ。
SNS側も、こうした誤情報のページを削除する戦いを続けている。
実際、ツイッターに特定のハッシュタグを入れると保健福祉省のリンクが、インスタグラムではCDCのリンクが出てきた。また、12名のうちの1名のサイトのリンクをクリックすると、「このページはスパムの可能性があり安全ではありません」という警告が現れた。
誰でも簡単に情報発信できるようになったいま、正確な情報も誤った情報もすべてが渾然一体となって拡散している。正しい情報をどのように判断していくのか、誰もが難しい問題を突きつけられている。(取材・文/白戸京子)
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