「あの放送後に、取引先から一斉に電話が入りました。うちが『施工不良を意図的に隠ぺいしていた』と取られるような主張だけが、一方的に放送されて……。おかげで、8年間続いていた仕事も打ち切られてしまいました」
悲痛な思いを語るのは、「株式会社ダイコウ」の吉田哲也社長。「あの放送」とは、11月10日の『バイキングMORE』(フジテレビ系)のことだ。この日の『バイキング』は、『週刊文春』(11月5日号)が最初に報じて注目を浴びた「高速道路手抜き工事」問題を大きく取り上げた。
『週刊文春』の報道では、東京都日野市にある、中央道にかかる「緑橋」について、耐震工事の二次請け業者だった「株式会社吉岡建築設計」の吉岡史人会長が「必要な鉄筋8本が不足した工事だった」ことを告発。
さらに、元請け業者の現場担当者が「鉄筋が余っているなら、早く片付けろ」と “隠ぺい” を指示したことも明らかにした(元請け業者は隠ぺいの指示については否定)。
『バイキング』でも、吉岡会長のインタビューをもとに、緑橋の施工不良について、業者間で意見が食い違っている現状が紹介された。そこで突然、『文春』の記事では社名が報じられていなかったダイコウが、一次請け業者として実名で報道されたのだ。
「現実に、緑橋の橋台に鉄筋が入っていなかったことは、技術担当である当社に責任があります。多くの方に心配をおかけしていることは謝罪いたします」(吉田社長、以下同)
だが、放送内では「あまりにも、一方的な主張ばかりが報じられていた」と、吉田社長は憤る。
「吉岡側は、『自分たちが現場に行った段階では、すでに鉄筋がなかった』と、うちが派遣した職人が手抜きをしたような主張をしていました。そもそも、そこが根本的に違います。
その点を、『バイキング』のスタッフには詳しく説明したにもかかわらず、うちと吉岡側の主張で『何がどう食い違っているのか』という部分は、まともに扱われないまま、社名が報道されたのです」
吉田社長が語る、緑橋の工事経緯は次のとおりだ。元請け業者から現場の管理をまかされていたダイコウは、吉岡建築設計に、作業員の確保と実際の作業を委託していた。緑橋には現場管理者が2人おり、1人はダイコウが手配した人物。そして、もう1人は吉岡建築設計が連れてきて、ダイコウ側に「世話をしてくれないか」と頼み込んで管理者にしてもらった人物だった。
問題の “手抜き工事” がおこなわれた当日(2019年12月26日)、ダイコウが手配した鉄筋施工の職人が現場に到着すると、“吉岡側が連れてきた、もう1人の現場管理者” から、「作業をやめて帰宅してください」「この先は弊社(吉岡)で施工をする」と伝えられたという。
つまり吉田社長は、「鉄筋が8本不足したままでの “手抜き工事” は、吉岡建築設計が手配した現場管理者と作業員しかいない状況の現場でおこなわれた」「にもかかわらず、吉岡側は自らの作業での施工不良を認めずに告発している」と主張しているのだ。
「当日、吉岡側から帰された職人からの『報告メール』もあります。吉岡側に言われるままに、現場から帰ってしまったことについては、完全に私たちの管理不足でした。『文春』の取材にも、このことは伝えました。しかしコメントは、まったく使われませんでした」
もちろん『バイキング』にも吉田社長は、同様の説明を事前にしていた。
「『文春』で吉岡側の主張だけが大きく取り上げられたあとだったので、携帯に『バイキング』からの電話がかかってきたときは、いっそう丁寧に、現場に行った人間の話や工事の経緯、工程などを伝えました。
ですが、結局、私たちの主張はほとんど放送されませんでした。それどころか、『文春』では伏せられていた社名が、実名で出されてしまったんです」
11月10日の放送後、『バイキング』の取材スタッフから、もう一度、吉田社長の携帯に電話がかかってきた。
「そのとき、『放送内容が一方的ではないか』『疑問にはいくらでも答える』『なぜ文春でも書いていない社名を出したのか』と伝えたのですが、それっきり番組側からは、なんの返事もありません」
こうした経緯から現在、放送倫理・番組向上機構(BPO)への申し立てを検討している。ダイコウの代理人・久保潤弥弁護士は、こう話す。
「一方的な報道で社名を出され、しかも主張が反映されていない。これは公平性を欠く内容で、BPO申し立てを考えています。
また、吉岡建築設計に関しては『手配した作業員の賃金水増し疑惑』があると、ダイコウから聞いています。実際に吉岡側がダイコウに、『水増しを見逃してくれないか』と働きかける音声データもあり、詐欺罪で刑事告訴できると考えております」
これらについて、吉岡建築設計に事実確認を求めると、「(工事の経緯について)ダイコウの主張は事実ではございません」「水増し請求はおこなっておりません」と回答した。
フジテレビにも事実確認を求めると、次の回答があった。
「取材及び番組制作の詳細に関してはお答えしておりませんが、事実と異なる一方的な内容を放送したとは考えておりません。吉田社長が説明を求められるのであれば、誠意をもって対応してまいりたいと考えております」
相手の “話” に真摯に耳を傾けなければ、“ホンネトーク” という番組の売りも虚しく聞こえる――。
(週刊FLASH 2020年12月8日号)
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