3月21日深夜に会見で発表されたイチロー(45)の引退を、万感の思いで見つめていた人物がいた。1994年、シーズン210安打を達成したときの代名詞、「振り子打法」をともに作り上げた、元オリックス二軍打撃コーチの河村健一郎氏(71)だ。
「彼をひと目見たときから、将来名球会に入る資質の持ち主だと感じました。入団1年めから『振り子打法』に取り組んだのですが、当時話していたのは、『誰も達成したことのない、年間200安打を打つのはお前だ!』ということ。彼は目をキラキラさせてうなずき、『打ちます!』と。それが彼との始まりでした」
当時に比べて、2019年のイチローには、気がかりな点があったという。
「2018年から1年近く、試合で生きた球を打っていませんから、心とフォームがバラバラだったことは仕方がない。それよりも気になったのは、打てなくてもあまり悔しがらなかったこと。
松坂大輔との初対決で3打席連続三振を喫したとき(1999年)など、松坂をニラむような感じでしたから。その気迫が見えなかったとき、そろそろかなと思った。でも彼がやってきたことは、まさに前人未到。本当にお疲れさまでしたと言ってあげたいですね」
気になる今後だが、引退会見では、こう「イチ流」ではぐらかした。
「何になるんだろうなあ。そもそも、片仮名のイチローってどうなんだろう。(引退後は)元イチロー? 僕、一朗だし」
これだけの実績を残した選手だ。「第二の人生」は、選択肢が限りなくある。ただその前に、2度断わりを入れた、国民栄誉賞の件がある。
「現在、安倍首相は、トランプ大統領と日米首脳会談に臨むため、4月下旬に訪米する方向で調整中。その際に、安倍首相はイチローを招き、その場で国民栄誉賞を授与するという、VIP待遇のパフォーマンスが急浮上している」(政治部記者)
しかし、これをイチローが受けるかどうかは、別の話だ。
「国民栄誉賞は、あくまでも日本国内で評価されたことに対する賞。だがイチローは、日本での窮屈な対人関係や、球界の旧態依然とした体質がイヤで、日本を飛び出した。そんな経緯があるから、自分はこの賞にふさわしくないと思っている。
引退会見で『将来、監督は?』と聞かれたとき、『絶対無理。人望がありませんから』と答えたが、日本に限っていえば、あながち間違っていない。彼はプライドが高く、『イエス、ノー』をはっきり言うタイプで、自身も日本ではあまり受け入れられていないと感じている。
でも、米国での人望はすごい。チームメイトのゴードン内野手が、試合中にもかかわらず、イチローがベンチに下がったとき、人目を憚らず涙を流したことが物語っている。マリナーズも今後、なんらかのポストを用意すると言っている」(担当記者、以下同)
となると、引退後の拠点は米国ということか。
「それは間違いない。まずは、マリナーズと契約を結ぶことを最優先に考えている。それほど彼は、マリナーズには恩義を感じている」
では、どのようなポストに就くのか。現地で取材してきたスポーツライターが語る。
「イチローはパイオニアへのこだわりが強く、誰もやったことがないことに挑戦するのが好きなタイプ。
たとえば今後でいえば、マリナーズのGMとかフロント組ということになるが、それは想定の範囲内。そのポジションを足がかりに球団経営など、さらに上のポストにも野心を抱いているはず。
2018年、会長付特別補佐に就任したことで、球団幹部らと接する機会も増え、『経営者としての目線でもチームを見るようになった』と口にするようになりましたから」
引退しても、金欠の心配はまったくない。イチローの年俸は2032年、59歳になるまで支払われる仕組みになっている。
イチローは2007年に、マリナーズと5年総額9000万ドル(約110億円)の契約を結んでいる。そのうち、2012年までに6000万ドルを受け取っており、残りの3000万ドルは、2013年以降の20年間で分割して支払われる仕組みだ。
しかも年利約5%で、年間約1億7000万円を受け取れる。また、メジャー在籍10年以上の選手には、62歳から生涯にわたり、MLB年金が年間10万ドル(約1100万円)払われる特権まである。
「日本での引退試合で、あれだけ世間の注目を集めた。引退後、年間5000万円だったCM契約料が、ご祝儀でさらに上がることは必然でしょう」(広告代理店関係者)
しがらみの多い日本を飛び出し、アメリカンドリームを実現したイチロー。「ビジネスマン」としても成功を収められるか。
(週刊FLASH 2019年4月9日号)