テロ関連の話題として、世界の注目を集めたのがオサマ・ビンラディンの息子の結婚だろう。ビンラディンには26人の子供がいた。うち息子は3人。しかし、長男も次男もアメリカ軍によって殺されている。唯一生き延びたのが三男のハムザ・ビンラディンで、今年、29歳。別名「テロの王子」。
当初、「パキスタンの潜伏先で父親のオサマとともに殺害された」と米軍は発表していたが、奇跡的に脱出に成功していたことが後に明らかになった。
ビンラディンの遺言で「アルカイダの後継者はハムザ」と指名されており、幼い頃から父親に連れられ戦闘現場を体験。10歳になる前から武器の扱いを叩き込まれたという。「14歳で初めて敵を殺した」と告白。父親がお気に入りだったターバンとカラシニコフ銃を離さず、現在の最高指導者であるザワヒリの右腕として、組織内で圧倒的な支持を得ている模様だ。父親譲りの容姿と語り口で、アルカイダの中で、誰もが従う存在になりつつあるという。
しかも、公然と父親の復讐を宣言。「ワシントン、ロンドン、パリ、テルアビブを標的にせよ。米軍基地を狙え」と、世界のイスラム過激派にネットを通じて檄を飛ばす。当然、各国の諜報機関は必死で彼の所在を探している。特にアメリカ政府は世界的テロリストとして指名手配中だ。
これまでも「アフガニスタンに潜伏している」とか「シリアで戦闘経験を積んでいる」といった断片的な情報は漏れ伝わっていたが、その隠れ家は見つかっていない。
そんな「次世代のテロの指導者」が結婚相手に選んだのがモハマド・アタの娘である。アタといえば、ハイジャックした航空機でニューヨークの世界貿易センタービルに突っ込んだ一人だ。
ハイジャック犯の中では最高齢で、エジプトの出身。グループの中では体格も立派で、ひと際目立つリーダー格であった。彼は遺書を残していたが、そこには娘についての言及はなかった。そのため、「娘の話は眉唾ではないか」との指摘もある。しかし、どうやらその娘は2001年の同時多発テロの年に生まれたらしい。
いずれにせよ、アルカイダの活動家にとって、まさに「夢のカップル」の誕生ということであろう。世界を震撼とさせた事件から17年が経ったが、「9・11テロのレガシー」はいまだに衰えていない。現在、オサマ・ビンラディンの3人の妻や親族はサウジアラビアに暮らしている。彼らは一様にテロを非難し、居所の知れないハマズに対し「神の教えに従い、心を入れ替え、復讐など考えるな」と語っている。
オサマの母親も健在で、「息子は子供の頃はとても純真で優しい子だった。大学時代に洗脳され、道を誤った」と語り、ハムザにも「父親の徹を踏まないように」と哀願しているという。
とはいえ、父親や兄弟を殺害された恨みは拭い去れないのかも知れない。世紀のテロリストの血は脈々と受け継がれているように見える。この息子は流血の環境で育ったせいか、父親よりはるかに戦闘能力も反米感情も強いというから、第2、第3の「9・11」が起きないことを祈らざるを得ない。(国際政治経済学者 浜田和幸)