2020年の最大のイベント「東京五輪」まで、あと7カ月半。ジャーナリストの池上彰氏が、五輪後に日本を襲う大問題について、緊急提言する。
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「2020年には、オリンピック以外にも重要な予定があります。ひとつは英国のEU離脱です。12月12日に総選挙で保守党が圧勝し、1月31日をもってEUを離脱することが確実になりました。
1年間の移行期間があるものの、英国がいよいよEUから離脱をするとなると、それによって英国経済にも打撃があるでしょうし、それは日本経済にも大きく影響してくるはずです。
そして、2020年最大のハイライトが、11月の米国大統領選です。共和党はトランプの出馬が決定的ですが、民主党は12月17日現在で、9人もの候補が乱立しています。
そのなかで支持を得ているのが、エリザベス・ウォーレン、バーニー・サンダースといった『左派』の政治家たちです。これは、トランプ政権のもとで、いちだんと格差が拡大し、社会が分断されたことが背景にあります。
トランプの『自分の国さえよければいい』という “一国主義” の振舞いを見て、ほかの国が同じようなことをしようとしている。EUを離脱する英国のジョンソン首相、ロシアのプーチン大統領、トルコのエルドアン大統領などがそうです。こうした動きも、世界を不安定化させる材料です。当然、日本経済にも影響が及ぶでしょうね。
一方、日本経済は、1964年ほどではないにしろ、オリンピックへの期待感もあって株価が上がっています。しかし、投資家にしてみれば、『前のオリンピックのあとに不況になった』ということは、知識として知っているわけです。
どこかの段階で見切りをつけるとか、下がる前に株を売ろうという動きが出てくる可能性はあります。オリンピックの前に、海外の動向が株価を暴落させ、不況になる可能性があるかもしれません。
不動産も、オリンピック後は不安定要素があります。晴海の選手村の跡地をリフォームし、2023年から大規模マンションとして分譲されることになっており、販売が始まっています。売り出される総戸数は約5000戸。1万8000人ぐらいが住むことになります。
その人たちの公共交通機関は、徒歩約20分の場所に、都営大江戸線の『勝どき駅』があるだけです。ところが、いまでも勝どき駅は、通勤通学客でごった返しています。そこに、さらに数千人が流れ込めば、どうなるんでしょうか。
そもそも、日本のマンションはすでに供給過剰で、一挙に値崩れが起きるんじゃないかと不安視されています。オリンピック後の日本経済に明るい展望は、どうも描けないようですね」
それでも、池上氏が東京五輪に期待をしている。
「オリンピックは『平和の祭典』といわれますが、戦争やテロと無縁ではありません。ロシアとジョージアの戦争は、2008年の北京オリンピックの開会式の前日に始まりました。
1972年のミュンヘンオリンピックでは、パレスチナの過激派により、イスラエルの選手11名が殺害されるテロ事件が起きています。皮肉なことに、これをきっかけに、パレスチナ問題が世界で関心を持たれるようになりました。過激派にとってオリンピックは、絶好のアピールの場となったわけです。
今回もオリンピック期間中は、世界中からメディアが東京にやってきます。テロリストが『自分の主張をアピールできるチャンスだ』と考えても、けっして不思議ではない。あまり不安になる必要はありませんが、何か起こり得ると考えておいたほうがいいかもしれません。
いろいろ批判めいたことを言ってきましたが、私は『東京オリンピックに希望はある』と思っています。いい前例が、ラグビーのワールドカップでした。
日本のファンは死闘を繰り広げたスコットランドの選手を称えましたが、スコットランドにいた日本人も、『日本はよくやった』『おめでとう』と声をかけられたと聞いています。対戦する相手へのリスペクトは、素晴らしいと思います。
そしてなんといっても、やっぱり『ONE TEAM』でしょう。いろいろな国籍を持つ多様な人たちが、日本代表チームとして一丸となって戦ってくれました。このことは、ダイバーシティ(多様性)の強さを示したと思います。
パラリンピックも、観戦チケットに史上最多の申し込みがあるなど、大きな注目を集めています。『このまま、多様性を認め合える社会が根づいてほしい』と心から思います。
日本の最大の問題は少子高齢化です。15歳から64歳までの生産年齢人口がどんどん減っている。今後、人口が増える可能性は低いでしょう。
となると、移民を受け入れるかどうかという話になるのです。移民を受け入れたくないというのであれば、日本は緩やかに衰退していくしかないでしょう。
アメリカのGDPがいまも世界一である最大の理由は、移民がどんどん入ってきて、人口が増えているからです。それは、移民に厳格なトランプ政権下でも変わりません。
ドイツも、メルケル首相が2015年にシリアなどからの難民を100万人受け入れています。日本と同じように、少子高齢化が進んでいたドイツに、一気に100万人の労働者が入ってきたわけです。
日本も、もっと積極的に移民を受け入れる決断をすべきです。肌の色や言葉の違う人間同士がひとつになる。これこそ、まさにオリンピック精神ではありませんか。日本が、その理想の姿を世界に見せてほしいと強く思いますね」
いけがみあきら
1950年生まれ 長野県出身 慶應義塾大学卒業後、1973年にNHK入局。報道局記者などを経て、1994年から『週刊こどもニュース』編集長(お父さん)を11年務め、2005年に独立。各メディアで活躍するほか、東京工業大学リベラルアーツセンター特命教授を務める
(週刊FLASH 2020年1月7・14日号)
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