入院時の竹原さん
人間だれしも、ガンになるリスクを抱えている。「備えあれば憂いなし」とはいうものの、闘病経験のない者にとっては、未知の恐怖がある。そこで、膀胱ガンを克服した元ボクシング世界王者の竹原慎二さん(47)を訪ね、ガンの予兆を感じた「いま思えばあのとき……」を聞いた。
2014年2月に膀胱ガンが見つかった竹原さんだが、予兆は1年前からあった。
「激しい頻尿や、残尿感がひどくて、近所の病院に行ったんです。そうしたら、菌が検出されていないのに、膀胱炎の診断。その後も痛みは続きましたが、服薬で経過を見ていました」
そして2013年の大晦日、忘年会のときに大量の血尿が出た。
「尿道にタバスコをかけられたような激痛でした。そんな経験、もちろんありませんけど(苦笑)。後日、わかりましたが、膀胱や尿道に、炎症が起きていたんです」
1月6日に、別の総合病院を受診するも、漢方薬を処方されただけだった。
「そして2月2日、再び血尿が出たので、尿道からカメラを入れて病理検査をしたら、膀胱ガンが見つかったのです。ステージIV。余命は1年でした」
医師からは「1年前に見つかっていれば、膀胱の全摘は免れた」とも言われた。 ガンを1年間も放置され、5年生存率は25%に下がった。当時は夫婦で泣くことが多かったという。
「最初の医者が、やるべき検査をおこなっていなかったんです。悔やまれますね」
6月12日、膀胱の摘出手術を受けた。東大病院でも当時2例めとなる、手術支援ロボット「ダヴィンチ」を用いた手術だった。
「膀胱のほか、転移したリンパ節を全摘しました。ガン保険は入っていましたが、当時、膀胱ガンへのダヴィンチ手術は保険適用外。入院費と手術費などで、約600万円かかりました。家を建てたばかりでしたので、愛車のベンツを売って工面しました(苦笑)」
人工膀胱の袋を体外につける「パウチ法」もあったが、「ボクシングの指導で激しい動きをすることもあるから」と、小腸から人工膀胱を作り、それを膀胱があった場所に納めて、尿管とつなげる処置をした。
「尿意は感じないです。だから夜中も3時間の間隔で起きて、トイレに行きます。そのとき、腹圧をかけて排尿するので、切れ痔になっちゃうんですよ。そうはいっても、晩酌でビール1本と焼酎2杯を飲んでますけどね(笑)」
担当医からは「2年がひとつの区切り」と言われているが、手術してから、もうすぐ5年を迎える。
たけはらしんじ
広島県出身 元WBA世界ミドル級チャンピオン。引退後は俳優としても活躍。「T&Hボクサ・フィットネスジム」の代表として後進の指導にあたる