刑務所や拘置所は典型的な3密環境だが、こうした施設が、新型コロナ対策に揺れている。感染防止のため、イランでは7万人が一時釈放された。インドでは1万7000人、フィリピンでは1万人、イタリアではマフィアのボスらが出所し、議論を呼んだ。イタリアやベネズエラでは、刑務所で暴動も起きている。
アメリカには110の連邦刑務所、1833の州刑務所、1772の少年矯正施設そして地域の拘置所が3134あり、合計230万人ほどが収容されている。人口10万人あたりで換算すると世界一の多さだ。ちなみに2位はロシア、3位は南アフリカである。収容率も100%を超えており、過密状態だ。
施設内で、受刑者たちは手を洗うこともままならず、新型コロナに集団感染する可能性が高い。重度の慢性疾患を抱えている人も多いが、多くの施設で、十分な検査がおこなわれていない。
大多数の刑務所が外部からのアクセスを遮断し、移送を停止するなどの対応をしている。また新たな服役者を減らすため、州知事たちは新規収容を制限する条例にサインし、警察官も逮捕を減らし、違反切符を増やすなどしている。
それでも全米でコロナ感染者が多いホットスポットのトップ10のうち8つが、刑務所や拘置所である。『ニューヨーク・タイムズ』によると、全米で3万7000人近い囚人が感染し、死者は375名に上っている。オハイオ州最大のマリオン刑務所では服役者と職員の8割以上が検査で陽性だった。
こうした状況を受け、アメリカでも人権団体などが「受刑者を釈放せよ」と強く要求し始めた。
オハイオ州知事は、5月末までに2万人、およそ40%の囚人を釈放しろと民間グループから要求されている。カリフォルニア州ではすでに1万人近い人を釈放し、今後もまだ続けるという。ロスアンゼルスの刑務所はすでに30%ほど収容人数が減っている。
最も影響力のある人権団体のひとつACLUは、刑務所内の人の数を劇的に減らさない限り、新型コロナでさらに10万人の死者が出ると警告し、さらなる解放を求めている。また、映画『ジョーカー』に主演したホアキン・フェニックスや歌手のジョン・レジェンドなどのセレブたちも、SNSで解放を訴えている。
釈放される人の多くは刑期終了間近や軽犯罪、あるいは高年齢や病気の人だが、住民の不安は高まる一方だ。
『ニューズウィーク』によれば、塀の外に出るため、囚人たちが懸命にコロナにかかろうとしている様子がビデオに映っていたという。受刑者たちは1つのコップでお湯を回し飲みしたり、1枚のマスクをそれぞれの口と鼻に当てて息を吸い込んだりしていたという。
こうした状況下、5月13日には、トランプ大統領の選挙対策本部長で、脱税や詐欺、偽証などで7年半の実刑判決を受けていたポール・マナフォート氏がペンシルバニア州の刑務所から釈放された。高齢で既往症があり、コロナ感染リスクが高いため、弁護士から釈放要求が出されていたのだ。
今後は自宅監禁となるようだが、アメリカのSNSでは、11月の大統領戦に向けて、何か働きかけがあったのではないかとの憶測も広がっている。
「またマナフォートの嘘を見ることになる」
「マナフォートは今後テレワークするに違いない」
など反響はさまざまだが、多くの人は納得できていない様子。
日本では大阪拘置所で刑務官8人が感染したが、もし受刑者にクラスターが発生したら、どのような対応をするのだろうか。社会正義さえ変容させていくコロナ禍への対応が、いま問われている。(取材・文/白戸京子)
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